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非正規教員増加で教育に影響

10月21日 20時20分

牛田正史記者・松井裕子記者

今、教育現場が直面している新たな課題が、臨時採用、つまり非正規雇用の教員の増加です。
全国の公立の小中学校で、今年度、6万3000人余りに上り、自治体によっては6人に1人を占めていることが文部科学省のまとめで分かりました。
十分な研修を受けられないまま、担任に就くケースも出ていて、教育の質の確保が課題となっています。
社会部の牛田正史記者と松井裕子記者が報告します。

増加する“臨時採用教員”

教員には3つの雇用形態があります。
▽正規採用のほか、▽臨時採用と▽非常勤講師です。
臨時採用は、出産や病気で休職する教員に代わって働く人で、原則1年未満の雇用が前提です。
退職者などを即戦力として雇用することを想定していて、正規採用と同じように担任も受け持ちます。
非常勤講師は、短時間勤務で音楽など一部の教科だけを教えます。
臨時採用と非常勤講師、いわゆる非正規教員は年々増えていて、中でも文部科学省は臨時採用の教員の増加に問題があるとみています。
平成17年度から全国の公立の小中学校の状況を調べているのですが、「臨時採用」の人数は、ことし5月1日時点で6万3695人と8年前の1.3倍に増えていることが分かりました。

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定員に占める割合が最も多いのは沖縄県で、16%と6人に1人に上り、埼玉県と奈良県それに福岡県では12%を占めています。

背景には何が

この背景には、正規採用の教員の不足を臨時採用で補うケースが増えているとみられています。
定員に占める割合が全国で2番目に多い埼玉県では、公立の小中学校の1割のクラスで臨時採用の教員が担任をしています。
臨時採用の教員の増加には、定年を迎えた教員の大量退職のほか、少子化も影響していると言います。

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埼玉県では、子どもの数が90万人余りとピークだった昭和50年代に採用された教員が、今、一斉に定年退職の時期を迎えています。
その分、新しく教員を採用したいところですが、この30年で公立の小中学校に通う子どもの数は38万人、率にして40%減少。
今後も少子化は進む見込みで、今の子どもの数に合わせて正規採用すると、将来、子どもの数に比べて教員が多くなりすぎてしまいます。
だからといって、すでに働いている正規採用の教員を解雇することは簡単ではありません。
そうすると、新たに若い人を採用することもできず、年齢構成が中高年に偏ってしまうおそれがあります。
こうした理由から、今の教員不足を臨時採用の教員で調整しているわけです。
埼玉県教育委員会の小中学校人事課の安原輝彦課長は、「解消の方向を目指しているが、一気にとか急によくなるのは難しい」と話します。

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授業の質に影響も

臨時採用は、本来、退職者など経験のある人を緊急的に雇うことを想定しているため、研修は十分には用意されていないのが実情です。
こうしたなか、突然、クラスの担任を任され授業や生徒指導をどう進めればよいか悩む人もいます。

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中部地方の小学校に勤める20代の女性は、2年前の春、始業式当日に公立小学校から電話があり、「臨時採用であすから赴任して5年生を担任をしてほしい」と依頼されました。
児童の数が当初の予定を上回り、急きょクラスを1つ増やすことになったため、担任が足りなくなったというのが理由でした。
女性は、それまで正規教員を希望して採用試験を受けましたが合格せず、非常勤講師として理科と算数を教えていました。
担任になると、ほぼすべての授業を受け持つことになるうえ、学校行事や生徒指導も行わなければなりません。
初めて経験することばかりでしたが、十分な研修は受けられませんでした。
女性が勤める学校のある自治体の場合、正規採用の新人教員であれば、▽年間で180時間以上の校内研修と▽20日間の校外研修を受け、授業の進め方や生徒指導のしかたなどを学びますが、臨時採用の場合、校外研修を3日受けるだけです。
女性は授業の進め方に悩み子どもたちからは、「授業が分からない」という声が挙がるようになりました。
半年後には一部の児童が席につかなくなったり騒いだりして授業が成り立たなくなり、担任を外されました。
女性は、「初日から何をすればよいのか全く分からず、子どもたちと心を通わせる余裕が無かった。十分な研修も受けられないのに即戦力として子どもたちに向き合うのは難しい」と話しています。

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研修充実で対応の自治体も

経験の浅い臨時採用の教員に担任を任せる今の対応は今後も続けざるをえないとして、臨時採用の教員を対象にした研修を充実させる自治体もあります。
さいたま市では、初めて教職に就いた臨時採用の教員に、校内で7回、教育委員会で5回、研修を行っています。

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今月行われた研修には50人余りが参加し、子どもの褒め方や叱り方など生徒指導の基本を学んでいました。
さいたま市教育委員会は、「子どもにとっては正規も非正規も関係ない。教育の質に差が出ないよう当面は研修などを充実させるしかない」と話しています。
文部科学省は、「教育の質にも影響する問題だ」として、自治体に対し臨時採用の教員を対象にした研修を促すとともに正規採用を求めることにしています。
正規採用の教員を増やすには難しい課題がいくつもあるのは事実ですが、臨時採用の教員の拡大で現実に教育への影響が生じている以上、国や自治体は教育予算の見直しなど改善に向けた具体的な対策を講じていく必要があると言えます。