「や…、ギイ…っも――」 逃げるように揺らいだぼくの体を、ためらいのない腕がしっかりとつなぎ止める。余韻を残してくすぶっている内側の刺激が理性を裏切り、抵抗らしい抵抗もできなかった。 「たくみ……託生――」 まだほてっている耳元では、微妙にイントネーションを変えて何度も名前だけをささやかれる。この声に逆らえる人間がいたらお目にかかりたいものだ。 甘えるように了解を求めてきても、主導権はいつだってギイのものなんだから。このまま流されてしまうのが決して嫌なわけじゃないけど。 「ん――だって……」 「だって……なに?」 尋ねる唇がそっと耳を噛んだのは、絶対にわざとだ。人の話を聞くつもりなんかどうせないくせに。 「さ、むいから、もう、だめ……こら、だめだってば!」 くすぐったくて首をすくめると、ぼくの注意がそっちにいった隙にギイの手のひらが足のラインをたどる。 「偶然だなあ、オレもなんだ。暖まろうぜ、託生」 「だからっ、汗ふいてパジャマ着て、もう寝ようって……ねえ、ギイ、ギ……イっ」 話している間にも、まったく休もうとしない手がぼくを煽っていく。ぴったりと密着していたギイの体が浮かされると、隙間に入った微風がうっすらまとった汗を乾かして熱を奪っていく。 「ギイ、さむいんだってば」 「よしよし、燃えような」 「ちがうっ! 心配なのはその後だよ」 「あと?」 「今を何月だと思っているんだよ。汗かいたまま眠ったりしたら、絶対に風邪ひくってば」 「そうか?」 本気で首を傾げているらしいギイと、自分の体力の差がなんか悔しい。 「ぼくは、ひくの! 明日は日曜日だからとかなんとかいって、どうせまた、は……」 「は?」 「は……激しいのだろうしっ」 とくに今夜は。なにかに苛立っているみたいに、不機嫌を忘れようとするみたいに、ちょっと荒っぽいじゃないか、ギイ。そんなのはたぶん、ぼくの気のせいなんだろうけれど。正直いって最後まで意識を保っている自信はないぞ、ぼくは。 半分ヤケになって言ったのに、ギイは何がおかしいのか吹き出している。 「なんだよ!」 「いや、つくづく可愛いヤツだなあって」 笑うなよ、耳元で。息がくすぐったい。 ああ、でもやっぱりぼくの気のせいなんだな。ギイ、笑っているし。 「心配するな」 キス。 「後の面倒はオレがみてやるから」 キスキス。 「ちゃんと汗ふいて、パジャマにくるんでおいてやるよ。で、抱きしめて寝たら寒いはずないだろう」 ……そこんところをね、保障されたりしたら、もう拒む理由なんかみつからないけどね。 「……過保護」 「いーじゃん。託生限定なんだから」 でも、まるっきり保護者だ。子供、あつかい。 まるで手のかかる雛の面倒をみる親鳥みたいじゃないか。ぼくと一緒にいるとギイの荷物だけが増えていくような気がする。 自分で思ったことに、胸の奥がツキンと痛んだ。 そんなときに、またキス。 「な? ……頼むよ」 こんな願い事を叶えたところで、対等に近づけるはずもないんだけど。こんなの、ギイのため、だけじゃないし……。 拒みきれるはずもないぼくに、もう数え切れないほどの、キス。
… つづく …
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