社説[特定秘密保護法案]市民の権利への脅威だ

2013年10月28日 09時13分
(32時間22分前に更新)

 衆参の「ねじれ」が解消し、当分、国政選挙もない。やれることは、今のうちに、どんどんやってしまおう。おそらく、そんなところだろう。

 政府は特定秘密保護法案を閣議決定し、衆院に提出した。公明党に配慮し、国民の「知る権利」や「報道・取材の自由」への配慮を条文に付け加えたが、どうやってそれを保証するのか、肝心な点は法案に明記されていない。

 防衛省はイラク戦争の際、航空自衛隊をイラクに派遣し、空輸活動に当たらせた。市民グループが空輸内容を明らかにするよう情報公開を請求したところ、政府は非開示を決め、黒塗りの書面を提示した。

 再三にわたる請求の末に、ようやく開示が認められた。政権交代が実現したからだ。

 復帰にからむ沖縄密約についても、米国が公文書を開示し、当時の日本側担当者が密約の存在を証言したにもかかわらず、自民党政権は「密約はない」と言い張ってきた。

 そんな性分を持つ政府・官僚機構が、国会などのチェックも受けずに、何が機密情報にあたるかを自分たちだけで決め、情報漏えいに対する罰則を大幅に強化し、情報を得ようとした市民に対しても罰則を適用する、というのである。

 戦前の軍機保護法がそうであったように、この法案がひとたび成立すれば、状況に応じて対象範囲が拡大され、モンスター(怪物)化する恐れがある。民主主義という壊れやすい器は、小さな部分から決壊し始めることを心に留めておきたい。

    ■    ■

 特定秘密保護法案を担当する森雅子少子化相は、処罰対象になる事例として、沖縄密約問題で逮捕された西山太吉氏(当時、毎日新聞記者)の事件を挙げた。西山氏は、外務省の女性職員に漏えいを働きかけ極秘電文を入手したとして国家公務員法違反容疑で逮捕され、有罪判決を受けたことで知られている。

 この大臣発言には多くの問題点がある。第1に、具体例を挙げることによって法案成立後の取材活動を萎縮させること。第2に、密約を交わしながら、それを否定し続けてきたことの隠蔽(いんぺい)責任を一切不問にしていることである。

 重要な情報は今でも官僚機構に集中している。官僚は情報の出し方を操作することによって自己の利益を達成しようとする。特定秘密保護法案が成立すれば、官僚は集中する情報のコントロール権を一層強め、政治家も国民も重要情報から遮断されることになりかねない。

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 政府は、特定秘密保護法案と日本版「国家安全保障会議(NSC)」創設関連法案をセットと位置づけ、今国会での成立を目指している。憲法解釈を変更し集団的自衛権の行使容認に踏み切ることも、その延長で考えられている。

 特定秘密保護法案は、日米の軍事一体化をさらに強め、共同で対処していくための体制整備という性格をあわせ持っている。

 これほど問題の多い法案を国民的な議論もないまま、数の力で押し切ることは許されない。廃案にすべきだ。

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