原発の過酷事故は、国家的規模の危機を招く。福島第一原発の事故は原子力利用の巨大なリスクを白日の下にさらした。原子力政策の大きな方向を決めるには、原発維持にこだわらない科[記事全文]
その姿をひとめ見ようと、先日の羽田空港に数千人のファンがかけつけた。悲鳴にも似た声がいっせいに上がった。「ヨンさまー」韓流スター、ペ・ヨンジュンさ[記事全文]
原発の過酷事故は、国家的規模の危機を招く。福島第一原発の事故は原子力利用の巨大なリスクを白日の下にさらした。
原子力政策の大きな方向を決めるには、原発維持にこだわらない科学者や人文系の学者など幅広い識者による検討の場を設け、国民的な議論を反映させていくことが必要だ。
ところが、原発回帰を推し進める経済産業省の影響力がさらに強まりそうな動きがある。このままでは、原発ありきの専門家集団「原子力ムラ」の思惑で政策が決まりかねない。
そんな懸念を抱かせたのは、国の原子力委員会のあり方を検討する有識者会議が先週まとめた見直し方針である。
これまで原子力委がつくってきた「原子力政策大綱」を廃止し、今後、原子力政策は経産省がまとめるエネルギー基本計画で位置づける。そんな内容だ。
約5年ごとの大綱は予定通り進まないことが多かった。エネルギー基本計画の中に原発についての計画が入ること自体も、自然なことだ。
しかし、原子力利用の可否そのものや利用規模、将来像などはエネルギー面からの議論だけでは不十分である。
放射能が拡散すれば手に負えなくなる原発は、他の発電方法と同列には論じられない。本質的に核兵器転用の危険をはらむ点でも、原発は異質である。
自然災害の多い日本列島で国民は原発を許容できるのか、核不拡散の観点からどんな政策が望ましいか……。
どれも原子力の専門家だけではなく、多角的な検討が必要な課題ばかりだ。
幅広い視点で原子力政策を考えるのは、本来、原子力委の役割だった。1956年に発足した時は、ノーベル物理学賞の湯川秀樹氏、初代経団連会長の石川一郎氏らそうそうたる顔ぶれである。
だが原発推進のレールが敷かれると形骸化し、原子力政策を批判的に点検する機能は働かないままだった。存在意義が問われるのも無理はない。
だからといって経産省にゆだねるのでは、あまりに安直だ。いったい原発事故の教訓はどこにあるのか。
福島の事故後、ドイツのメルケル首相は原子力専門家による検討とは別に、社会学者ら原子力の非専門家による倫理委員会を発足させ、そこでの議論をもとに脱原発を決断した。
日本こそ同様の委員会をつくり、原子力政策を根本から見直すべきだ。個別対応に終始する政権の姿勢が問われている。
その姿をひとめ見ようと、先日の羽田空港に数千人のファンがかけつけた。悲鳴にも似た声がいっせいに上がった。
「ヨンさまー」
韓流スター、ペ・ヨンジュンさんの公式の訪日は2年ぶり。相変わらずの人気ぶりだった。
主演の韓国ドラマ「冬のソナタ」が日本で放映されたのは03年。「冬ソナ」ブームは、韓国ドラマや音楽の「韓流」人気が巻き起こる起爆剤となった。
今年が日本の韓流10年といわれるのはそのためだ。
冬ソナに続く別のドラマに加え、近年は「KARA」「少女時代」などのKポップが台頭。もはや一過性のブームではなく、日本社会に定着した娯楽文化の一つと言えるだろう。
一方、ソウル近郊の金浦空港でも、日本のアイドルの到着を多くの韓国のファンが待ち受ける。あちらでも「日流」が根付いてきているのだ。
国民同士が互いに関心を持つにつれ、交流のパイプは広がった。日韓の間には今、週に600便以上の飛行機が飛び交う。昨年往来したのは約550万人で「冬ソナ元年」の10年前と比べると倍増の勢いである。
だが一方で、韓流関係者は、日本の一部に広がる「嫌韓」感情に危機感を強めている。これまでも政治に起因する関係悪化に振り回され、時に厳しい逆風にもさらされてきたためだ。
国益を守るはずの政治が、素朴な文化交流や関連業界の人々を苦しめる。何とも愚かしい構図というほかない。
だが、そもそも韓流や日流が生まれる下地をつくったのは政治だった。ちょうど15年前、当時の小渕首相と金大中(キムデジュン)大統領が打ち出した「日韓パートナーシップ宣言」である。
宣言で小渕氏は、過去に対して「痛切な反省と心からのおわび」を述べ、金氏は「和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係発展」に踏み出すことを表明。首脳同士の相互訪問などとともに、文化や人的交流の拡大をうたい上げた。
あれから市民の交流は発展したのに、政治のつながりはむしろ後退しているではないか。
5年前、ヨンジュンさんの俳優活動が韓国で文化勲章を受けた際、こんな功績が語られた。「日韓の政治家や外交官100人分以上の役割を果たした」。的を射た指摘だ。
国家外交のつたなさを、市民の文化交流が補うという政治の甘えの構造をいつまで続けるつもりなのか。15年前の宣言の精神に立ち返り、真剣に関係改善を進めるべきだ。