産経新聞 10月21日(月)6時0分配信
大手都市銀行を舞台に銀行員の半沢直樹が内外の勢力と闘う姿を描いた人気ドラマ「半沢直樹」(TBS系)。経営難に陥ったホテルの再建にめどをつけたり、上司の不正を暴くなど、半沢が次々に問題を解決する姿に視聴者が共感したのが、高視聴率の一因だろう。原作者の池井戸潤氏が元銀行員ということもあり、実際の銀行を彷彿とさせる場面も多かった。ドラマの中で描写された銀行の姿は実際、何がホントで何がウソだったのか、現役の銀行員らに聞いてみた。
ドラマで片岡愛之助さんが好演した金融庁の黒崎駿一検査官。モデルは、かつてのUFJ銀行に対し金融庁検査を行った目黒謙一統括検査官(当時)とされる。本人の名誉のためにも断っておくと、断じて黒崎検察官のような“オネエ系”ではないそうだが…。
金融庁の厳しい検査や、その後の巨額赤字の計上によって、UFJ銀行は東京三菱銀行との合併を余儀なくされた。多くの金融関係者は、ドラマの中に過去の事実を重ね合わせたはずだ。実際、現役の銀行関係者のほとんどは、毎週ドラマを注視していたようだ。
黒崎と半沢の対決が印象的だった金融庁の立ち入り検査。だが、過去に検査の場に立ち会ったことがあるという銀行関係者は「あんな生易しいものでない」と一蹴した。ドラマも相当な対決ぶりだったが、現実はこれに引けを取らないようで、「おどしのような言い方をされたので、こっちも同じように言い返した」と振り返った。
一方、顧客に対しての半沢の姿勢には、現役銀行員から称賛の声が上がった。「企業と真摯に向き合って信頼関係を築いていくのは、銀行員のあるべき姿」というのはメガバンク幹部。だが、バブル崩壊を機に、以前は多かった現場レベルでの決済はほとんどなくなった。町工場の社長と半沢のやりとりの様子を、懐かしむ銀行員もいたようだ。
ドラマで描かれたドロドロの人事模様は強烈な印象を残したが、実際、銀行業界は「人事がすべて」とも評される。人事部が銀行内で大きな権限を持ち、出世コースの通過点ともされている。現にメガバンク幹部に人事経験者は少なくない。ドラマでは何度も「出向」されそうになる半沢の姿が描かれ、銀行員人生には「人事がすべて」であることを物語っていた。
だが、ドラマ中では「片道切符」と言われ、左遷のように描かれた出向は、決して「イコール左遷」ではない。若いときに経験を積ませるため出向させる場合もあるし、手腕を買われて経営難の企業に送られ、再建を命ぜられることもあるという。銀行員は外からも必要とされているのだ。
「時間が経過しなければ本当の意味で解消はしない」。別のメガバンク幹部がこう指摘するのは、出身銀行を中心に派閥ができあがる旧行意識のことだ。ドラマでも、舞台となった東京中央銀行が、東京第一銀行と半沢の出身銀行である産業中央銀行とが合併した−との設定だった。
前出の幹部が指摘するのは、「旧行の入行組が引退するまで、壁はなくならない」ということだ。実際、国内のメガバンクはいずれも再編を繰り返してきただけに、同様の課題を抱えている。初めて会った人とのあいさつで、出身銀行がどこであるかを聞かれるのは常。銀行の内外で意識される旧行の壁を取り除くのは、そう簡単ではないようだ。
「相手が上司だから、顧客だから、度胸がないから−−。いろんな理由で、反論したくてもできなかった理不尽な経験は誰にだってある。思わず唇を噛んだその悔しさを、半沢直樹が晴らしてくれる」。ドラマ化に寄せて、池井戸氏が視聴者に寄せたメッセージは痛快だ。「基本は性善説。やられたら、倍返し−−」と続くが、最後は「サラリーマンは決して、真似をしてはいけない」と結んでいる。
数々の課題をクリアし、最終回では大和田暁常務への「100倍返し」をやってのけた半沢。だが、最後に中野渡頭取から言い渡されたのは、「東京セントラル証券」への出向だった。視聴者からは「なぜ出向」と驚く声も挙がり、波乱の幕切れとなった。この幕切れについて、元メガバンク幹部は「当たり前の結果。個人的なうらみが動機となって動いてはならない」と一喝した。池井戸氏のメッセージに即した「出向」という終幕は、少なくとも、銀行の「ホント」を表していたようだ。
最終更新:10月21日(月)10時1分
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