時代の風:老ゴリラとの再会=京都大教授・山極寿一

毎日新聞 2013年10月27日 東京朝刊

 ニホンザルを観察していると、サルたちが実に潔く過去と決別していくように見える。いったん自分のいた群れを離れると、元の仲間たちとは関係を絶ってしまうし、たとえ戻ってくることがあっても元の関係が復活することはない。サルにとって、不在は社会関係の消滅を意味するのだ。

 人間はいつのころからか、親しい仲間との関係を絶たずに旅をする能力を手に入れた。見知らぬ場所で新しい仲間と暮らすこともできるし、元の場所や集団に戻ることもできる。それは、人間がよそ者を温かく受け入れ、参入者も新しい環境にすぐに順応するからだ。しかも、人間は元の集団の仲間との関係も保ち続け、複数の集団へアイデンティティーをもつことができる。だからこそ、移住した人々は元の集団と新しく加入した集団のかけ橋になることができるのだ。サルにはそれができない。不在が現在と過去の関係をつなぐことを妨げるからだ。人間はそれが可能な社会を作った。いったん受け入れた仲間の場所は、不在になっても消滅することはない。

 東日本大震災は、そのような人間社会が根元から崩れさる衝撃をもたらした。土地も人も消滅し、過去と現在をつなぐ記憶も危うくなった。あれから2年半、今こそ私たちが築いてきた社会の真価が問われている。人々が過去とつながりながら自由に行き来できる社会を保証できるかどうか。新しい社会へ温かく迎え入れ、不在にした土地や社会へ戻る道を作ることができるかどうか。ゴリラでさえ、26年前の記憶は私をゴリラの世界へ温かく迎え入れてくれた。人間はそれを大きく発達させて現代の社会を作ったはずである。今、私たちの人間性が試されているのだと思う。=毎週日曜日に掲載

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