Do you know the profession of Benjamin Franklin? He was one the great scientists of the 1700s. For example, people didn't understand what lightning was at that time. Franklin thought that it was the same as electricity. And he proved his idea correct, getting lightning to make sparks …
「(試訳)ベンジャミン・フランクリンの職業を知っていますか? 彼は1700年代の偉大な科学者の1人でした。例えば、人々はその当時、雷が何なのかを理解していませんでした。フランクリンはそれは電気と同じだと思っていました。そして、彼は雷をスパークさせることで、自分の考えが正しいことを証明しました…」
冒頭の文章からも、この英文の主題が「フランクリンの職業」であることが分かります。この「アメリカ建国の父」とも言える政治家は、実に多彩な才能を持っていたことで知られます。私としても、英語の教科書で大いに取り上げてもらいたい歴史上の人物の1人だと思っています。
しかし、この書き出しにはいくつかの点で疑問を感じます。まず、Do you know the profession of Benjamin Franklin?「ベンジャミン・フランクリンの職業を知っていますか?」という書き出しですが、これは聞き手がフランクリンについて知っていることが前提となります―しかし、現実問題として生徒が知っているとは思えません! リスニング問題を作る際には、「固有名詞」の出し方には十分に注意を払わないといけません。
ちなみに私が書き手であれば、「百ドル紙幣に印刷されている人物を知っていますか。彼の名前はベンジャミン・フランクリン。建国後間もないアメリカ合衆国で政治家として活躍しましたが、その他の分野でも…」のような書き出しにしているでしょう。こうすればより自然な英文の流れになるでしょう―要するに聞き手が知らないと思われる「固有名詞」をいきなり「旧情報」の位置で出さない方がよいということです。
この第1パラグラフでは、冒頭の英文に続く2文目と3文目の「つながり」も、英語として不自然だと思います。He was one the great scientists of the 1700s. For example, people didn't understand what lightning was at that time.「彼は1700年代の偉大な科学者の1人でした。例えば、人々はその当時、雷が何なのかを理解していませんでした」となっていますが、このFor exampleの使い方はおかしくないでしょうか?
日本語で考えると分かりやすいでしょう。「彼は1700年代の偉大な科学者の1人でした。例えば…」となっていたら、その直後にどんな言葉を入れるでしょうか? おそらく「例えば彼は〜を発明した」のような文章にするでしょう。この英文スクリプトでは、その部分が「人々はその当時、雷が何なのかを理解していませんでした」となっているわけです。
「パラグラフ・ライティング」を指導する際に、支持文の展開パターンの1つとして必ず「例示」を教えます。しかし、このFor exampleの使い方では、生徒が誤解するのではないでしょうか? もし私がここでFor exampleを使うとしたら、He was one the great scientists of the 1700s. For example, Franklin showed that lightning is a kind of electricity.「彼は1700年代の偉大な科学者の1人でした。例えば、フランクリンは雷が電気の1種だということを示しました」のようにしていると思います。
この第1パラグラフでは、しかし、書き出しだけに問題があるようには思えません。その後に続くフランクリンの凧を使った実験を説明する部分が、私には全く理解できないのです。
… He put a piece of metal at the top of a kite. He tied a key to the end of the string. He went out in a storm, and got the kite up and when he touched the key with his knuckle, it sparked. Thus, his idea that lightning is electricity was proved correct.
「(試訳)彼は凧の先っぽに金属片を付けた。彼は紐の端に鍵を付けた。彼は嵐の中に出て行き、凧を揚げて、手の甲でその鍵に触れると、それが火花を発した。このようにして、雷は電気であると言う彼の考えは正しいと証明された」
私には、この英文は全くの「説明不足」だと思われます。わずかこれだけの英文で、フランクリンの凧の実験の概要を伝えられるとは思えないのです。この英文を素直に聞いたり読んだりしていると、フランクリンのしたことは「凧の先っぽに金属片(英文スクリプトではpiece of metalとなっています。私はrodだったと思いますが)を付けて、糸に鍵を付けただけ」のように思われます。わずかこれだけの細工を施した凧を嵐の中で揚げれば、それで手の甲に「ビリッ」と来るものなのでしょうか?
何か大切なディテールが消失しているような気がしたので、フランクリンの凧の実験について早速調べてみました。上の英文スクリプトでは触れられていないことで、重要だと思われることがいくつかあります。まずフランクリンは凧ひもに麻糸と絹糸をつないだものを使っていたようです。凧そのものはほとんど麻糸でつながれていますが、帯電したときに感電死したくなかったので、「放電」しやすい絹糸を手元に使い、ここに鍵を付けておいたようです。麻糸は電気を通しやすいように濡らしておいたようですが、帯電した瞬間、この麻糸がふくれたと言います。フランクリンはこの反応を見てから、先ほどの手の甲で―おそらく手袋をしていたはずです―鍵に触ると、ビリッと来たようです。それから帯電した鍵を「ライデン瓶」という二枚のスズを利用して作った「蓄電池」の原初的なものに接触させて、そこに電気を蓄えたと言います。それから自宅に帰って、そのライデン瓶をベルにつないだところ、それが鳴ったので、めでたく雷は電気そのものだと証明できたと言います。
概して科学の基本的な原理を、簡単な英語で説明するのはたいへんなことです。1パラグラフ当たり100語にも満たない語数ではとうていできそうにありません。残念ですが、上のスクリプトではフランクリンの凧の実験の説明になっているとは思えません。この話題を扱うとすれば、おそらくこの英文スクリプト全体で「フランクリンと凧の実験」について書くべきだったのではないでしょうか?
さて、この凧の実験に続く第3パラグラフのトピックは「メキシコ湾流」です。当時、イギリスからアメリカまでの航海にはずいぶん時間がかかりました。そもそも海流が逆向きになっているので、なかなか前へ進まなかったわけです。そのことを捕鯨船のキャプテンをしていた従兄弟から聞いたフランクリンは、彼とその他のベテラン船長たちの力を借りて、データを収集し、その海流を航海図に描き、それを「メキシコ湾流」と名付けたのだそうです。
以上の事柄は、Wikipediaに書かれていました。参考までに以下に、その該当箇所を引用しておきます。
As deputy postmaster, Franklin became interested in the North Atlantic Ocean circulation patterns. While in England in 1768, he heard a complaint from the Colonial Board of Customs: Why did it take British packet ships carrying mail several weeks longer to reach New York than it took an average merchant ship to reach Newport, Rhode Island? The merchantmen had a longer and more complex voyage because they left from London, while the packets left from Falmouth in Cornwall.
Franklin put the question to his cousin Timothy Folger, a Nantucket whaler captain, who told him that merchant ships routinely avoided a strong eastbound mid-ocean current. The mail packet captains sailed dead into it, thus fighting an adverse current of 3 miles per hour (5 km/h). Franklin worked with Folger and other experienced ship captains, learning enough to chart the current and name it the Gulf Stream, by which it is still known today.
さて、そのあたりのことを木村氏作成のスクリプトはどのようにまとめているでしょうか? スクリプトを読むと、このように書かれています。
He was also an explorer. He sailed across the Atlantic Ocean to Europe many times, and he was interested in ocean currents. Taking the temperature of the water, he used his findings to chart one of the most important currents, the Gulf Stream.
「(試訳)彼はまた探検家でもありました。彼は大西洋を渡って、何度もヨーロッパまで船で行き、海流に興味を持っていました。海水の温度を測って、彼は自分の発見を使い、最も重要な海流であるメキシコ湾流を海図に示しました」
この第2パラグラフの先頭にあるHe was also an explorer.「彼はまた探検家でもありました」のexplorerという名詞に、私は疑問を感じます。それと言いますのも、先ほどのメキシコ湾流の発見に至る経緯で書いたように、フランクリンは従兄弟とベテラン船長たちの力を借りて、海流を海図に起こしたのです。それが上の英文スクリプトではフランクリン自らが海水の温度を測って、まるで独力で成し遂げたかのように描かれています。
私は一つ前の段落で、「探検家」という表現に疑問を感じると述べましたが、この英文の書き手かすると、第1パラグラフが「科学者」でしたから、まさか同じものを使うわけにもいかず、ここはexplorer「探検家」にしておこうという話になったのでしょうか?―少なくとも、机の上で他の船長たちが収集したデータを分析しているだけでは「探検家」とは言えないでしょうから。
どうしてこのような事態になったのでしょうか? 私の考えでは、「科学者」「探検家」「発明者」という区分がよくなかったのだと思います。ふつうベンジャミン・フランクリンという人物を扱うとなれば、「政治家(独立宣言、郵便事業など)」「企業家(印刷所、新聞社など)」「科学者(雷、蓄電、気化熱、メキシコ湾流など)」「発明者(避雷針、ストーブなど)」「思想家(意思決定、13の徳など)」といった側面を扱うことになります。ところが、上の英文スクリプトでは、それを「サイエンス」だけに絞ってしまったので、似たような話ばかりになってしまったのです―そこで書き手としては、メキシコ湾流の発見を「探検家」という新たな抽斗(ひきだし)に入れようと試みたのではないでしょうか?
以上はあくまで私の「予想」です。ただ、ふつうに考えますと、このような結論になってしまいます。もし何か他の根拠なり資料があって、フランクリンが「探検家」だというのであれば、ぜひご教示いただければと思います―どなたでもけっこうですので、お知らせ下さい。その場合は、このブログで私からのお詫びと共に、その旨を記したいと思います。
さて、私の基本的なスタンスは、英語教科書の書評をしているときと全く変わりません。オリジナルの英文を書こうと思ったら、書き手はみな人一倍の「汗」をかかないといけません。仮に私がベンジャミン・フランクリンという人物を取り上げると決めたならば、この人物について徹底的に調べ上げます。凧の話も、メキシコ湾流の話も、すべてを調べつくしておき、その後で初めて英語を書き出していると思います。
そして、私が英文を書く際に肝に銘じていることは、「事実を変えてはいけない」ということです。科学的真理や歴史的事実や言葉の定義といったものは、書き手の気分で変えていいものではないと思っているからです。
長年、英語テキストを読んでいますと、いかにも「言葉が足らない」と思われる英文に出会うことがあります。これは英文テキストを作成しているときに、平易な英語表現にするために表現をどんどん間引いてしまうからだと思います。テキスト執筆者は企画趣旨や企画対象に考慮して、「表現の間引き」を行うのでしょうが、ある段階を通り越すと、そのことによって内容が正確に伝えられなくなります。
例えばGM food「遺伝子組み換え食物」を扱ったら、genetic engineeringを始めとする生物関係の言葉は必ず出てきます。これらの言葉を「平易な表現」で言い換えることは可能ですが、それを過剰にやりすぎると、逆に読み手に伝わらなくなってしまいます。また、仮にその話を200語程度にまとめることができたとしても、その程度の分量では、GM foodがどのような「方法・原理」で作られるのかまでは十分に説明しきれません。
要するに、それぞれの題材には、それを説明するために必要となる「文章量」と「語い」が確実にあるわけです―これからオリジナルの英文の書下ろしに挑戦される方々には、ぜひそのような意識をお持ちいただければと思います。
注)以上の文章の著作権はすべてInoue Hiroshiにあります。引用していただくのは大いにけっこうですが、許可なく無断で複製使用することは法律で禁じられています。