特定秘密保護法案:原発潜入取材の記者、報道の制約に不安
毎日新聞 2013年10月25日 21時24分(最終更新 10月26日 04時00分)
25日の閣議決定を受け、衆院に提出された特定秘密保護法案で、取材・報道が制約を受ける可能性が指摘されている。法案に盛り込まれた「正当でない取材」で特定秘密情報をつかむ行為は罪に問われる恐れがある。東京電力福島第1原発に「潜入取材」し、労働実態を明らかにした経験があるジャーナリストは法案の行方を心配している。
フリー記者の鈴木智彦さん(47)は、原発事故後の2011年7月から約1カ月、下請け作業員として第1原発構内に入り、過酷な労働ぶりや暴力団が労働者あっせんに絡んでいる生々しい実態を週刊誌にルポした。
作業員に雇用される時、元請けの大手重工業メーカーから、内部で見聞きしたことを口外しないことを約束する誓約書の提出を求められ、応じた。週刊誌にルポを書くことは決まっていたが、記事に公益性があれば訴追の恐れはないと判断したという。
だが、秘密保護法案の成立後は、こうした取材ができるのか不透明だ。法案は特定秘密になるものとして「テロによる被害防止のための措置、計画、研究」を挙げている。核物質を管理する原発内部には、テロに狙われる恐れのある情報がありそうだ。法案は「取材の自由への配慮」を記すが「著しく不当な方法」の取材は保護の対象ではない。
罰則の規定では「人を欺き」「施設へ侵入」する行為で特定秘密を取得するものに最高懲役10年としている。
鈴木さんは「法案ができて萎縮する書き手はいないだろうが、週刊誌やテレビ局が法案の中身を吟味しないままに萎縮し、自主規制の嵐が吹き荒れないだろうか」と不安視する。「書く場所がなくなったら、ぼくらは何もできなくなる」
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原発事故後、避難のための必要な情報が届かなかった福島県。県議会は9日、法案への「慎重な対応を求める意見書」を自民党議員を含む全会一致で採択した。
意見書は「原発の安全性に関わる問題や住民の安全に関する情報が、核施設に対するテロ活動防止の観点から『特定秘密』に指定される可能性がある。今、重要なのは徹底した情報公開を推進することであり、刑罰による秘密保護と情報統制ではない」と指摘する。