長良川:沈む生命と血税…河口堰の影響調査、元教諭が出版

毎日新聞 2013年10月27日 10時31分(最終更新 10月27日 10時45分)

「長良川河口堰の問題を知ってほしい」と訴える伊東祐朔さん=岐阜県恵那市で、加藤沙波撮影
「長良川河口堰の問題を知ってほしい」と訴える伊東祐朔さん=岐阜県恵那市で、加藤沙波撮影

 長良川河口堰(かこうぜき)(三重県桑名市)の環境への影響を調べた市民団体「長良川下流域生物相調査団」の元事務局長、伊東祐朔(ゆうさく)さん(74)=岐阜県恵那市=が、2010年の解散まで20年にわたる活動を記録した「終わらない河口堰問題−長良川に沈む生命と血税」(築地書館)を出版した。伊東さんは「この問題を広く知ってほしい」と訴える。【加藤沙波】

 きっかけは1988年、河口堰の着工だった。高校の生物教諭だった伊東さんが所属していた市民団体「岐阜県自然環境保全連合」は、環境庁(当時)に環境アセスメントの実施を何度も求めたが聞き入れられなかった。「行政がやらないなら自分たちでやろう」と90年に調査団を結成。岐阜大教授を団長に、植物や昆虫、魚など7班に分けて調査。研究者や建築家のほか、伊東さんの教え子やその家族、友人ら市民200人以上が参加した。

 調査対象は海水と淡水が混じり合う汽水域。海水流入と塩害を防ぐため堰が必要と言う国は、河口から15キロ地点までを汽水域と説明していた。ところが汽水性のベンケイガニが16キロ地点で多数見つかる。「『こんな所にもいるのか』と、どんどん好奇心がわいた」と伊東さん。さらに上流を調べると、32キロ地点でも生息していた。「塩水が流れ込む汽水域はそもそも広かった。堰がなくても塩害なんて起こらない」と強調する。

 そんな河口堰をなぜ造るのか。国が掲げる主目的は、60年代の計画当初は「利水」だったのに、着工時には「治水」に変わっていた。「建設ありきの事業。国は国民を欺いた」と憤る。行政への不信感は募るばかりだったが、反対運動とは一線を画し科学的な調査に徹した。

 その成果である報告書を刊行した1994年の翌年、河口堰は運用を開始。広大なヨシ原は消え、アユやサツキマスの漁獲量は大きく減った。川底にはヘドロがたまり、利水の水も余っている。

 本の副題には「湯水のように血税が使われ、たくさんの生命が失われた」という意味を込めた。河口堰の運用開始から再来年で20年。「長良川河口堰とは何だったのか。もう一度考えるきっかけになれば」と話している。

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