ソウル・汝矣島の金融監督院ビルの前には「東洋の事態に対する特別法を制定せよ」と書かれた横断幕が掲げられている。これから会社更生手続き(法定管理)が進められる中堅財閥・東洋グループの系列会社が発行したコマーシャルペーパー(CP)と社債に投資し、投資金を失う危機にさらされた「被害者」らが掲げたものだ。被害者らは、国が特別法を制定し、東洋グループの代わりに政府が投資元金の払い戻しに責任を負うべきだと主張している。
だが「東洋特別法」の制定は現実的に難しいというのが多くの専門家の意見だ。まず、被害補償のために特別法を制定すれば遡及(そきゅう)立法(法制定前にさかのぼって適用できるよう法を制定すること)に当たり、法治主義の根幹が揺るぎかねない。また、こうしたことで特別法が制定されれば、後に同様の事態が発生したときに再び特別法の制定を求める声が出るだろう。2011年、貯蓄銀行に対する営業停止処分が相次いだときも、選挙を前に政界が「貯蓄銀行特別法」の制定を推進したが、こうした問題のため世論の批判にさらされ、最終的に撤回した。
仮に法が制定されるとしても、根本的な問題が残る。東洋のCPと社債に投資していない一般国民が、今回の事態で生じた1兆7000億ウォン(約1575億円)余りの被害額の一部を負担することになるという問題だ。金融当局の関係者は「補償の財源として真っ先に考えられるのは銀行の預金者や保険加入者、金融投資家らが少しずつ支払った『預金保険料』だろうが、この金をそうした用途に使えばほかの投資家らの財産権を侵害することになる」と指摘する。少ない利子で我慢して財産を安全に管理している人たちが、高金利を狙って損をした人たちの損失を代わりに被ることになるというわけだ。
被害者らは自らを「金融詐欺の被害者」だと主張しているが、東洋のCPと社債に投資した人のうち、2回以上投資したケースが58%に達する。10人に6人ほどが、高収益を享受した後にまた投資したということだ。金融当局の関係者は「株に投資して損をした人が国に補償を求めることはないはずだ。どうして債券だけが特恵を受けなければならないのか、根拠を見つけ難い」と話している。
今回の事態は、最終的に政府ではなく金融会社と投資家が解決すべき問題だ。東洋証券は、不完全販売(基本内容や投資リスクなどの説明なしに金融商品を販売すること)が立証されれば被害額に対し相応の責任を負うべきだ。東洋パワー、東洋証券など負債よりも資産が多い系列会社の売却が実現すれば、被害額の補償を受けられる可能性は残っている。被害者らのもどかしい気持ちは理解できるが、投資の責任は一次的に自分にあるということを忘れないでいることが、より成熟した投資家の姿勢だと思う。