安倍政権の目玉政策のひとつである「国家戦略特区」の概要が固まった。検討作業を担った民間の有識者グループと政府は「都市も地方も対象」「地域単位に限らず分野(プロジェクト)[記事全文]
近ごろ、教育現場への上からの押しつけが目につく。文部科学省は沖縄県竹富町の教科書採択をめぐって、県教委に是正要求を指示した。東京都や神奈川県の教育[記事全文]
安倍政権の目玉政策のひとつである「国家戦略特区」の概要が固まった。
検討作業を担った民間の有識者グループと政府は「都市も地方も対象」「地域単位に限らず分野(プロジェクト)でも認定する」とした。自治体や企業から約200の提案があり、それも参考に規制改革のメニューが決められた。
容積率や土地利用規制の緩和、国際医療拠点での外国人医師・看護師の業務解禁、世界共通の資格取得をにらんだ公立学校の民間委託……。
大都市、とりわけ20年の五輪開催が決まった東京を念頭に、海外からヒトやカネを呼び込もうという狙いが色濃い。
一方、地方の活性化に役立ちそうな項目は「農業者は農地にもレストランを開ける」「古民家をお店や宿泊施設に転用しやすくする」など、わずかだ。
国際的な都市間競争が激しさを増すだけに、大都市圏の魅力を高めることは大切だろう。
ただ、地震など大規模な災害にどう備えるのか、都市と地方との間で開く一方の格差にどう向き合うのかなど、課題が少なくない。
むしろ、地方からの提案に注目したい。
兵庫県の北部、約2万6千人の住民のうち3分の1が65歳以上という養父(やぶ)市は、高齢者を担い手に農業を発展させる構想を描く。
市が今春、全額出資で立ち上げた株式会社に弾みをつけようと、この会社が遊休農地を直接所有できるようにし、農地に関する手続きで農業委員会の関与をなくすよう求めた。
株式会社による農地所有も、農業関係者が取り仕切る農業委員会の抜本見直しも、農林水産省などの反対で進まない「岩盤規制」の代表例だ。
これらの項目は「早急に検討」どまり。林農水相は部分的に規制を緩和する考えを示したが、実験的に取り組んでもらってこその特区ではないのか。
「里地里山エネルギー自給特区」を掲げる岐阜県は、バイオマス発電を進めるため、保安林の指定解除に関する権限を県に移し、生育が早い木を遊休農地で育てる際の農地転用許可を届け出制に改めるよう求めたが、ゼロ回答だった。
地域の活性化は、自治体や地元の企業、住民で知恵を絞るのが出発点だ。国も地方も財政難が深刻だけに、規制改革への期待は大きい。
その突破口になってこその特区である。政府は、この原点に立ち返るべきだ。
近ごろ、教育現場への上からの押しつけが目につく。
文部科学省は沖縄県竹富町の教科書採択をめぐって、県教委に是正要求を指示した。
東京都や神奈川県の教育委員会は、特定の歴史教科書を選ばぬよう各高校に指導した。
大阪市教委は、全国学力調査の結果公表を各校に義務づける方針を決めた。
国―都道府県―市町村―学校を川になぞらえれば、いずれも川下の判断を川上から縛る動きとみることができる。
わが国は戦前への反省や地方分権の理念から、なるべく上からの口出しを控え、川下の判断を尊重する制度を築いてきた。その理念がいま、転機に差しかかっているようにみえる。
沖縄の教科書問題は、採択地区の3市町で中学校の公民の採択が割れた。そこには価値観の対立がある。竹富は基地問題、他の市町は領土の記述を重視したという。どちらも沖縄には切実な問題だ。そこへ国が口をはさめば、結果として教育の政治的中立を危うくしかねない。
竹富の生徒には有志の寄付で教科書が無償で配られており、教育を受ける権利が侵害されてはいない。混乱の一因には法の不備もある。文科省もそう認めるだけに、是正要求という強硬手段には疑問がある。
高校の教科書選びも、これまでは採択権は教委にあるとしつつ、各校の判断を尊重する運用がなされてきた。しかし、東京と神奈川の両都県教委は、国旗国歌をめぐる記述の一点を理由に、現場の選択を縛った。
政府は96年に当時の行政改革委員会の提言で、各校が「自らの教育課程に合わせて教科書を採択する意義」を強調。09年の閣議決定などでも教育の多様性や自主性を重んじる考えを示してきた。今回の文科省や両教委の姿勢はこれと相いれない。
大阪市の成績公表方針も「各校の判断に委ねる」との国の指針があるのに、「従わなければ処分も検討する」と校長の判断を縛った点で似通っている。
三つの問題から共通して感じられるのは行政の現場不信だ。いじめや体罰問題への対応にみられる学校や教委の閉鎖性は市民の不信も招いており、現場の立場を弱くしている。
しかし、文科省は一方で、これからの日本は自ら問題を見つけ、解決できる力を養うことが必要だと強調している。
ならば、上から言われた通りにしか教えられないような学校にしてはならない。そこから自立した人材が育つとは、とても思えない。