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阿曽山大噴火「裁判Showへ行こう」のイメージ画像

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか) 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)「裁判狂時代」「裁判狂事件簿」(河出文庫)、「被告人、もう一歩前へ。」(ゴマブックス)、「アホバカ裁判傍聴記」(創出版)。

モザイクの濃さとわいせつの関係

13年10月26日 [16:50]

 今回は今週火曜日に行われた夏岡彰こと太田章被告人と鑑知こと山畑拓司被告人の判決公判の傍聴記。罪名はわいせつ図画頒布。事件の内容は逮捕時の記事から。

 わいせつな漫画や写真を掲載した雑誌を販売したとして、警視庁は出版社コアマガジンの編集部長・太田章(55)、同社社員山畑拓司(39)、同高柳司郎(40)の3容疑者を逮捕した。わいせつ漫画が同容疑で摘発されるのは平成14年以来、2例目。警視庁によると、山畑容疑者は容疑を認め、他の2人は否認している。

 逮捕容疑は3月、わいせつ写真を掲載した雑誌「投稿ニャン2倶楽部」5月号3万6千冊と、わいせつ漫画を載せた雑誌「コミックメガストア」5月号2万4500冊を取次店に配布したなどとしている。

 両誌は「18歳未満禁止」のマークがつけられ、全国の書店約3千店の成人コーナーに置かれていた。警視庁は性器部分のモザイク処理の範囲が極端に狭く薄すぎると指摘。2010年以降、18回に渡って警告などをしたが、改善が不十分で悪質だと判断した。

 太田容疑者は「警告後にモザイク部分を濃くすると売り上げが伸びなかった」と供述しているという。

 この会社から出ている「スーパー写真塾」の執筆者の一人として、傍聴しないわけにはいかない気になる事件です。

 報道では3人同様に逮捕されたってことなんだけど、「投稿ニャン2倶楽部」と「コミックメガストア」は別の事件という扱いなのでこの法廷に高柳被告人はいませんでした。

 起訴されたのは、今年3月13日と14日、男女の性交場面を印刷した写真誌「投稿ニャン2倶楽部2013年5月号」を10箇所の取次店に頒布した、という内容。

 ニュースでは、山畑被告人以外は否認してるって話だったんだけど、罪状認否で2人共罪を認めていました。

 検察官の冒頭陳述によると、太田被告人は大学を卒業後、コアマガジンの前身となる会社に就職し、平成2年に創刊された「投稿ニャン2倶楽部」の編集に係るようになったという。

 山畑被告人は、専門学校を戸津業後、編プロを経て、平成9年にコアマガジンに入社し、平成19年から「投稿ニャン2倶楽部」の編集長を務めていたとのこと。

 平成22年11月5日に警察から、モザイクが薄い等の理由で警告を受け、誓約書を提出。それ以降、モザイクを広げるが売り上げが落ちたので、徐々にモザイクを小さくしていったらしい。

 検察官が冒陳を朗読して、書証を提出すると、次は弁護人立証。被告人が裁判官あてに書いた上申書が証拠として認められると、
弁護人「え~、本件に関しては罪を認め、非常に反省をしております、と。しかし、本誌は18歳未満禁止のマークが表紙に付けられ、成人コーナーという特定の場所で販売されていました。同コーナーには同じく18歳未満禁止マークの付いた雑誌が並べられ本誌と同程度、もしくはそれ以上にボカシの薄いモノもありましてですね。えーーー、ま、これは証拠として提出しませんけど、原本はここにありますので、検察官が見たければ、どうぞ見てください」
と、数冊のエロ本を頭の上に挙げて、上申書を朗読する弁護人。普通は「上申書は、被告人の反省と今後の更生について書かれてます」とか、表題と簡単な内容を言うだけなのに、一字一句読み上げるなんて!これは珍しい。

 さらに、
弁護人「今までは警察から指導を受けていたようなヘアヌード写真が、ある日突然、週刊誌に載り、普通の本屋に並ぶというのを体験しています。それは、宮沢りえのサンタフェという写真集で......」
と、まだまだ朗読を続ける弁護人。ウトウトと眠る傍聴人の数が増え続けると、さすがに、
裁判官「弁護人!ホント、簡単でいいですからね。弁護人の書証だけで、20分以上かかってますから」
と、注意。1分弱で終わるところですからね、ここは。

 そして法廷には、太田被告人の奥さんと山畑被告人の奥さんが情状証人として出廷し、今後の監督を約束していました。

 で、被告人質問です。まずは、太田被告人から。

弁護人「平成2年の創刊から係って、編集長や副部長をやった時期もあったようですけど、警察の捜査を受けたのは初?」
太田被告人「はい」
弁護人「8月26日に取締役を辞任したのは?」
太田被告人「摘発されてしまいましたので、責任をとって辞めました」
と、社内での罰は受けているようです。

弁護人「陳述書には4つの成年向け雑誌のカラーコピーが添付してありますけど、モザイクはニャン2倶楽部より濃い?薄い?」
太田被告人「モザイク消しで言えば、ウチより薄いのもあれば、同程度のものもあります」
弁護人「この4つの中で捜査されていない雑誌は?」
太田被告人「すべてです」
弁護人「陳述書の中に出てくる出版倫理懇話会って何ですか?」
太田被告人「社長が毎月出席してまして、成人向け雑誌の集まりです。どこかで警察からの指導があれば、皆で従うというか情報を共有してました」
弁護人「ちなみに、さっきの雑誌を出している会社が出版倫理懇話会のリストに載ってないんですけど、加盟してないんですかね?」
太田被告人「かも知れませんね」
弁護人「平成22年11月5日に警告を受けて誓約書を書きましたよね。それ以降、捜査を受けた雑誌は?」
太田被告人「ないと思います」
弁護人「じゃあ、何故、ニャン2倶楽部5月号とコミックメガストアだけが捜査されて、公判請求もされてるんでしょう?」
太田被告人「全くわかりません」
弁護人「取調べでも同じこと訊かれましたね」
太田被告人「はい。なぜ、ウチなのかわかりません、と」
どうやら、この受け答えが否認しているという報道になったようですね。そして、
弁護人「よくね、スピード違反は周りの車と同じ速さで走ってたのに1台だけ捕まるから不公平という人もいるんだけど、本件もそう思います?」
太田被告人「全く違うと思います。スピードは走り去っててわかりにくいですが、成人向け雑誌は書店の同じコーナーに並べられていて、何故うちだけなのかという気持ちはあります」
と、罪を認めた上で、他の雑誌を取り締まらないのは納得いかないと主張です。

 続いて、女性検事からの質問。

検察官「何故ダメなんだと思いますか?」
太田被告人「法律があるからです」
検察官「何故、法律があると思ってますか?」
太田被告人「わからないです」
検察官「考えたことはありませんか?」
太田被告人「本来あるものはあるがまま表現するべきだと思いますが、嫌悪感を抱く人もいるでしょうし、それでできた法律だと思います」
そもそも、わいせつとは何かと問われると非常に難しいんだけど、太田被告人としては「本来あるものは、あるがまま表現すべき」という考えを持っているようです。

検察官「風紀を乱すから取り締まったわけじゃないですか。誓約書の時、なんて言われました?」
太田被告人「性器の判断がつくから、わいせつだと」
検察官「そういわれてモザイクを濃くしたんですよね。今、当時と比べて濃さは変わりました?」
太田被告人「警告受けたときと同程度かと」
検察官「同程度じゃ、わいせつじゃないんですか?」
太田被告人「平成22年を最後に警告受けずで。この間、スマホが爆発的広がりを見せまして、子供たちがそのものズバリの写真を入手できるようになってるので、モザイクの消しは緩やかになっていると思ってました。というのも、それ以前は禁止されていたヘアヌードが突然書店に並んだのを経験していて、わいせつの定義が時代と共に変わるのだと認識していたので」
 四半世紀エロ本業界にいる大田被告人とっしては、様々なわいせつの変遷を見てきてるんでしょう。それで、2年以上、警察から何も言われない状況を緩くなったと思っていた、と。

検察官「他誌のモザイクが薄いので、真似をしたというのもあるんですか?」
太田被告人「はい。他で摘発されたとは聞いてなかったので、大丈夫だろうと」
検察官「これさー、他の消しが薄い雑誌が売れてるからマネたんじゃないの?」
急に、「これさー」とフランクな言い方になって、ぶっちゃけた答えを引き出そうとする女性検事。これに対し、
太田被告人「消しを薄くしたから売り上げがよくなったことはありません。私は本来、そのまま掲載したいというのがあって、薄く戻してもいいと」
検察官「とにかく上申書見るとね、他のやつらは何もなくて、なんでコアマガジンだけって言ってるように読めるんだけど?」
太田被告人「そういう気持ちはありますが、それで薄くしてしまったと反省しています」
と、不平等であると改めて主張して、質問終了。

 最後は、裁判官から。

裁判官「反省してるってのはどういうこと?」
太田被告人「会社の中で、もう少しちゃんと管理していれば、薄くすることもなかったと思っています」
裁判官「上申書には、ネットで無修正が広まっていて、大丈夫と思っていたけど、その考えが間違っていたと思っていると」
太田被告人「はい。判断が間違っていました」
裁判官「でも、そのまま出したいんでしょ?」
太田被告人「それが自然だと思っています」
裁判官「それがね、反省と繋がらないけどねぇ」
太田被告人「遵法精神はありますんで、守った上で仕事を続けたいと思っています」
と、法を守った上で雑誌作りを続けると約束したところで質問終了です。

 次は、山畑被告人への質問。どうせ、同じことを訊いて終わるんだろうと思ったら......。

弁護人「陳述書に添付してある4冊の雑誌の写真を見て、どう思いました?」
山畑被告人「自分の作っている雑誌より、消しが薄いのが出回っているな、と」
弁護人「太田さんから薄くして売り上げを上げろとは言われてました?」
山畑被告人「言われてません」
弁護人「ネットで無修正動画を見れる時代で、モザイクは薄くてもいいんじゃないか、という思いは心の底にありました?」
山畑被告人「はい」
この無修正動画の受け答えが、後で女性検事につつかれることになろうとは。

弁護人「雑誌は6月に休刊になって、あなたも副編集長になって、自分を見つめなおす機会になりましたね?」
山畑被告人「はい」
弁護人「今後も仕事は続けるって聞いてるけど、再犯はしませんね?消しについては?」
山畑被告人「濃く入れます」
と、他誌と違って、モザイクの濃いエロ本作りを心がけると約束して、質問終了。

 次は検察官からです。

検察官「平成22年の警告後、だんだんモザイクが薄くなった理由は?」
山畑被告人「毎日モザイクを見る中で、濃度が麻痺していたんだと思います」
検察官「警告直後は濃くしたんですよね。本件の5月号とは同じ濃さですか?」
山畑被告人「見比べてたわけじゃないですけど、大丈夫という認識でした」
検察官「他の雑誌と濃さを比べてました?」
山畑被告人「たまぁにはしてましたけど、あまり気にしてませんでした」
と答えると、女性検事は声を大きくして、
検察官「確かに!無修正動画がスマホやパソコンで見れる......おっしゃる通りなんですよ!」
わーー、法の番人でもある検事、それも美人検事がそんなこと言っちゃうのね。なんか、ドキドキ。

検察官「見れるんですけど、法律は側ってませんよね?」
山畑被告人「時代が変わったと思ってました」
と、太田被告人と同じ事を言うと、
検察官「いえいえいえ。あなたはモザイク気にしてなかったんでしょ!無修正動画が見れる世の中になって、規制が緩んだと思っていた太田被告人とは違うよね?あなたの場合、無修正動画、関係ある?」
山畑被告人「え~......、モザイクに関して気を使わなくてもいいのかなぁ、と......」
これは検察官の揚げ足取りのような気もするけど、この2問だけを抜粋するとどんな裁判なんだと思っちゃいますね。

 最後は、裁判官から。

裁判官「薄くしているとは思ってなかった?」
山畑被告人「はい」
裁判官「ネットで無修正が見れるというのも影響してた?」
山畑被告人「濃いか薄いかは私が決めますので、それはあったのかなと」
裁判官「でも、その判断が間違っていたと」
山畑被告人「はい」
と、山畑被告人の代弁者のように裁判官が語って被告人質問はすべて終了。

 この後、検察官は、太田被告人に懲役1年6月と罰金50万円、山畑被告人に懲役1年2月と罰金50万円を求刑。一方、弁護人は、彼らだけが起訴された説明がなく、法の下に平等に反するという、とても自白事件とは思えない無罪主張のような弁論をして、閉廷でした。

 そして、10月22日の判決。

 結果は、執行猶予3年の判決でした。判決の理由として、
裁判官「本誌はモザイクが薄くわいせつと言え、健全な性風俗の維持に影響を与えたと言える」
と、述べていました。まぁ、公判では裁判官も無修正動画が見れる現状を前提に喋っていたわけだけど。薄いモザイクの方がわいせつなのかもしれませんね。わいせつって深い。

 で、面白いのが、ここで傍聴記を書く場合は匿名でお願いしたいと、コアマガジンの担当者から連絡があったんだけど、この連載9年目にして初の注文ですよ。裁判って公開されている情報なんだけどな。っていうか、この出版社の被告人は、あるがままを表現すべきって主張じゃなかったか?

注目の裁判

10月21日(月)
被告人・三ヶ尻久美子、大石勝也
被告人・斉藤敬子、宮園恵理、長谷川容子
被告人・山崎和哉(初公判)

10月22日(火)
被告人・太田章、山畑拓司(判決)
被告人・上笹貫斉、原田隆一、鈴木孝夫、西村裕志、根本邦男(23日も)

10月23日(水)
被告人・三井浩嗣(初公判)
被告人・二本松裕太(初公判)

10月24日(木)
被告人・高柳史郎(判決)
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