【海外事件簿】
東京電力福島第1原発の汚染水漏れ問題で激しい日本非難を繰り返していた韓国で、原発を運営する「韓国水力原子力」(韓水原)を中心に政官を巻き込んだ不正に対する捜査が進んでいた。韓国政府が今月公表した原発関連書類の偽造は2000件超。偽造や金品授受で韓水原の元社長や大物官僚ら100人が起訴された。不正発覚で複数の原発が稼働停止し、電力供給が逼迫(ひっぱく)。韓国では津波という天災ではなく、私利私欲にまみれた「原発マフィア」と呼ばれる業界の腐敗構造が原発の“安全神話”を押し流した。(桜井紀雄)
■「原発不正との戦争」…猛暑日にエアコン禁止令
これまでの韓国メディアの報道によると、韓国の原子力安全委員会のホームページに4月に寄せられた告発メールが発端だった。
「建設中の新古里(シンゴリ)原発3・4号機(蔚山市)の部品書類が偽造された」
安全委は調査を始め、3・4号機に加え、稼働中の新古里1・2号機(釜山市)や新月城(シンウォルソン)原発1・2号機(慶尚北道慶州市)の計6基で原発の制御ケーブルの性能成績証明書が偽造されていたことが明らかになった。
韓国政府は、新古里2号機や新月城1号機の運転停止を決めた。故障などで停止した原発もあり、韓国の原発23基中、10基が稼働停止するという異常事態となった。
鄭●(=火へんに共)原(チャン・ホンウォン)首相は「原発不正との戦争だ」として、他にも偽造がなかったか全原発の過去10年間の検査書類に対する調査とともに不正に関わった関係者の厳重処分を指示。韓国政府は、国民や企業に電力消費を制限するよう求め、猛暑となった8月の電力使用のピーク日には全国の役所でエアコン使用が禁じられた。
「原発業界の不正と政府の電力需給の見通しの甘さの尻拭いをなぜわれわれが…」と国民からは恨み節が上がった。
捜査のメスはその後、贈収賄容疑で、発電所建設大手の現代重工業の役員や、李明博(イ・ミョンバク)大統領時代に“キング次官”と呼ばれ、権勢を振るった元知識経済省次官の朴永俊(パク・ヨンジュン)被告=別の事件で収監中=ら李大統領周辺者にまで及んだ。
原発をめぐる一連の不正に対し、朴槿恵(パク・クネ)大統領は「国民の生命を担保に途方もない不正腐敗を犯した」と批判。「このような不正が今まで長らく明らかにならずにいたことがより衝撃だ」と怒りをあらわにした。
■原発運営とチェック側4者が結託 昨年うみをだしたはずが…
性能成績証明書の偽造が確認された制御ケーブルは、原発に事故が起きた際、原子炉を冷却させる信号を送るもので、原発にとって安全を維持する“命綱”と言えるものだ。この安全性を担保する書類が、製造会社に加え、試験会社と承認機関という厳しく安全性に目を光らせるはずの2機関の結託で改竄(かいざん)されていたのだ。