Business Media 誠 9月27日(金)11時34分配信
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(写真と本文は関係ありません)
JASRACに聞いてみた:
YouTubeやニコニコ動画には、国内外含めて有名アーティストの動画が多数アップロードされている。1970年代に青春まっただ中で、ばりばりのロック少年だった筆者としては、「こんな映像があったのね!」というヴィンテージ系ロックの驚きの映像を見つけるたびに、自分のブログやFacebookの「近況」にエンベッド(埋め込み)し、「こんなの見つけたぜ」と「いいね!」の数が増えるのを眺めながらオヤジモード全開で追憶の境地にどっぷりと浸りきっているわけで、ああ、なんて後ろ向きな人生なんだろう……。
【画像:YouTubeの著作権侵害についてのスリーストライク規定、ほか】
そんなオヤジでなくても、お気に入り動画を外部サイト埋め込むという行為は、今では多くの人が普通に行っている。ただ、ここで原点に立ち返ってふと考えた。このような行為は、著作権的にどう判断すればいいのだろうか、と。いとも簡単に埋め込めるからといって、他人の、しかもプロである有名アーティストの演奏やプロモ動画を外部サイトにペタペタ貼り付けてもいいのだろうか。
というわけで早速、1ユーザーとしてJASRACのネットワーク課にYouTubeとニコニコ動画の利用方法について電話して聞いてみた。それによると……、
・動画へのリンクを張るだけなら許諾不要。ただし、埋め込みは、配信の主体がサイト側になるので次の注意が必要
・有名アーティストのPVや演奏動画を埋め込む場合、権利者(アーティストや楽曲管理者)の許諾が必要
・権利者の許諾があって初めてJASRACも許諾を出せる
がくぜんとした。冒頭で紹介したような有名アーティスト動画の使い方をしたら、アーティスト本人なり、楽曲を管理する出版社なり、レコード会社なりの許諾に加え、JASRACの許諾が必要になるということだ。それを無断で行っていた筆者は他人の権利を著しく侵していることになる。ごめんなさい。削除します。
JASRACでは、「動画投稿(共有)サイトにJASRAC管理楽曲を含む動画をアップロードすることについて」というガイドラインを明示し、「はい」「いいえ」式のフローチャートで、権利者やJASRACの許諾の有無を説明している。このフローチャートを追っていくと筆者の行った埋め込み行為は完全にアウトだ。
その一方で、最近では公式チャンネルの中でアーティスト自身が積極的に動画を公開している。動画サイトを楽曲のプロモーションの場として利用しているわけで、権利者側からすると、動画サイト内だけにとどまらず、なるべく多くのリンクや埋め込みを使ってもらって外部サイトにも広まったほうがうれしいはず。そのような動画にも「権利者の許諾が必要」というのであれば、せっかくのプロモーション効果も半減であろう。
●オフィシャル動画は貼り付けOK
ならば、「直接聞いてやれ」ということでJASRACに取材を申し込み、疑問をぶつけてきた。答えてくれたのは業務本部副本部長の小島芳夫氏。
まず、「有名アーティストの動画を貼り付けるのであれば、原則として権利者の許諾は必要。ただし、公式チャンネルで提供されているオフィシャル動画であれば、外部サイトへの貼り付けを想定した規約になっているはず。貼り付けるのであれば、オフィシャル動画にしてほしい」とのこと。
なるほど、サザンオールスターズやAKB48といったビッグネームが、自らYouTubeの公式チャンネルを開設し積極的に動画を公開している。中には、クリエイティブ・コモンズライセンスに基づいて再編集を許す形で公開している動画もある。
これらのオフィシャル動画であれば、大手を振って埋め込めるということだ。また、公式チャンネルでなくてもアーティスト本人がパブリックにOKを出したものであれば、それもオフィシャル動画に準ずると理解して埋め込みを行っても大丈夫なのだろう。
例えば、このような例がある。2013年6月20日、「VAN HALENからのお知らせです」という文言で始まる、あるツイートが話題になった。海外大物アーティストを多数招聘(しょうへい)していることで知られる「ウドー音楽事務所」のアカウントでつぶやかれたそのツイートは、「バンドからの希望によりVAN HALEN公演に限り写真/ビデオ撮影がOKになりました」とつづられていた。
VAN HALENというのは、ヒット曲「ジャンプ」でお馴染みのあの「ヴァン・ヘイレン」だ。大物アーティストのライブでは、入場時に必ずカバンの中をチェックされるほどに、無許可の録音、録画、撮影には、神経をとがらせているライブ会場のいつもの様相を知るものからすると、驚きの告知だった。
実際、そのツイートには偽りはなく、会場でもそのようにアナウンスされ、公演終了後には「撮影した写真や映像をTwitterやFacebookなどのSNSにアップしてほしい」といった趣旨のメッセージも流れた。実際、YouTubeには、ライブの模様を記録した写真や動画が観客の手によりたくさんアップロードされており、会場の熱い様子をうかがい知ることができる。
ちなみに米国を中心とした海外のライブでは、プロ機材を持ち込まない限りは、スマホなどでの撮影を解禁する動きが定着しており、YouTubeやFacebookには、客席から撮影したワールドクラスのアーティストの公演動画が多数存在する。
ヴァン・ヘイレンの日本公演のように「アーティストがOKを出した」という情報が明確になっていれば、心おきなく埋め込めるわけだが、海外ものの公演動画については、こちらでそれを判断するのは難しいから困ったものだ。スマホなどを使って客席から撮影した明らかにライブの映像と分かるものは、「おそらく大丈夫」と判断すればよいのだろうか。
●アフィリエイト収入があっても個人が利用する分には目くじらは立てない
筆者には、かねてよりもう1つの疑問があった。YouTubeやニコ動には、有名曲をカバーした「歌ってみた系」「演奏してみた系」の動画がたくさんある。JASRACが管理する有名楽曲であれば、ユーザーは無許諾で自演作品を投稿できる。YouTubeやニコ動側とJASRACが包括的な利用契約を結ぶことで可能になった仕組みだ。
では、投稿は無許諾でもOKだが、このような動画を外部サイトに埋め込むことについては、どのように解釈すればよいのだろうか。アマチュア作品とはいえ、「友達」にも紹介したくなる秀逸な作品を多数みかけるので大いに気になる。それに、楽器を演奏する筆者自身も、自ら演奏してYouTubeに投稿したものを自分のブログやFacebookに埋め込んで「友達」に見てもらっているからだ。
そこで、冒頭のJASRACへの電話でこの件も聞いてみた。
・サイトが非商用であれば、ブログやソーシャルメディアでの利用はJASRACの許諾不要
・企業やネットビジネス系のサイトは、商用利用なのでJASRACの許諾が必要
・個人ブログであってもアフィリエイトを行なっていれば、広告収入があるので、商用と見なしJASRACの許諾が必要
またまた、がくぜんとした。「俺って、アフィってる自分のブログで動画を無許諾でがんがん貼り付けてたし……」と。
ただ、いろいろな疑問が立て続けにわいてきた。例えばココログやアメブロなどで無料ブログを開設すると本人の意志とは無関係に広告が挿入される。あるいは、Facebookにしても同じだ。PCでアクセスすると右側のコラムには常に広告が表示されている。そのような場合も商用利用と見なされ許諾が必要なのだろうか。
この件についても小島氏に確認してみた。ブログサービス等で本人の意志とは無関係に広告が挿入されるものについては「個人に広告収入がなければ商用とは見なさない」とのこと。つまり、無料ブログの記事に強制挿入される広告から得られる収入はすべて事業者に入るので、この場合は許諾不要で利用できる。
ただ、個人サイトやブログなどでアフィリエイト収入がある場合は、商用と見なされ許諾が必要になり使用料の支払いが生じるのは本当だろうか。「原理原則論からいえば、個人でも広告収入があれば許諾は必要。問い合わせの窓口で、アフィリエイト収入=商用と判断するのは当然」(小島氏)とキッパリ。
ただ、小島氏は、少しばかりの苦悩をにじませながら、原理原則から離れた部分で、現実に則した見解を示してくれた。
「今や多くの個人サイト、ブログがアフィリエイトを導入している。有名曲の歌ってみた系動画が埋め込まれているからといい、それらすべてに対しダメ出しするのは非現実的な話だ。あまりに派手にやっているのは問題があるが……」
「動画サイトの利用者が増加し、アーティスト側からすると動画サイトがプロモーションの場として利用されている昨今、権利者、投稿者、動画サイト、JASRAC、動画利用者と、それぞれにメリットがもたらされるエコシステムが形成されている。白か黒かで一刀両断に断ずることはできない」
小島氏はこれ以上の明言は避けたが、筆者はこのコメントを次のように解釈した。有名曲動画をがんがん埋め込んで、明らかにアフィリエイトで稼ぐことを目的とした「派手」な使い方をしない限りは、目くじらは立てないということのようだ。確かにアマチュアの作品であっても優れたパフォーマンスに接すると、「原曲を聴いてみたい」と思うこともあるわけで、そのような拡散効果に期待する権利者も増えていることは想像できる。
●「おめでとう東京」禁止は、知財からの利益を最大化するため!?
そもそも権利者というのは、保持、管理している権利から得られる利益を最大化するように努力するのが普通だ。歌ってみた系カバー楽曲の拡散で、元歌の認知度が上がると判断すれば、たとえそれがルールから外れた使い方であっても、それを許すこともある。権利者から委託されているJASRACにしても、同様の考え方があってもおかしくない。前述のヴァン・ヘイレンの撮影とアップロードの解禁措置は、権利者として、権利を行使し制限するよりソーシャルメディアでの拡散効果の方がメリットがあると判断したという側面もあるのだろう。
その逆に、利益が損なわれると判断すれば、締め付けに入るのも権利者だ。筆者の会社で、朝の連続ドラマ『あまちゃん』の挿入歌である「潮騒のメモリー」のウクレレによるカバー曲をiTunes Storeで配信したところ、楽曲を管理する出版社から「商用カバーは禁止」という通達を受け、配信を取り下げた。「潮騒のメモリー」は、JASRACで「録音」や「配信」の許諾を得ることができ、カバー曲であれば問題はないはずだ。制度的に制限をかけたければ、「専属楽曲」として管理するか、「支分権」の仕組みを利用し、他者が録音や配信を行う部分のみを権利者側管理とすることも可能だ。
だが、権利者が「他曲であれば問題はないのだが……」と前置きしつつ、この曲に限ってカバーを禁じたのは、ドラマ放映中の旬なタイミングにおいては、カバー曲の存在によりオリジナル楽曲から得られる利益が分散し損なわれることを嫌ったのだろう。ちなみに、歌ってみた系の非商用カバーの動画投稿については、「非商用なので問題ない」とのことで、こちらは拡散効果を期待しているわけだ。
また、これは筆者個人の身に降りかかったことだが、筆者は過去2回にわたりYouTubeの自演動画が「著作権侵害」を理由に削除されている。1回めは、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」で、2回めはキング・クリムゾンの「スターレス」という楽曲の演奏してみた系動画だ。
2つの楽曲ともにJASRACの管理下にあるので、YouTubeに自演動画を投稿する行為自体はまったく問題はないはずだが、2曲ともに権利者からの申告で削除されてしまった。YouTubeからの通達メールには理由が書かれていないので、何が問題となって権利者がYouTubeに削除を命じたのかは分からないが、何らかの不利益があると判断したのだろう。
知的財産ビジネスにおいて権利を持つものの立場は強い。その主張は、時としてルールを超越した実効力を伴う。日本オリンピック委員会が、「おめでとう東京」などの便乗ビジネスやその文言に目を光らせるのも、超有名テーマパークが建造物の外観写真の使用に制限をかけるのも、すべては知的財産の付加価値を上げ、権利から得られる利益を最大化せんがための施策だ。もし、私が権利者であれば、今このタイミングにおいて、「倍返しだ」や「じぇじぇじぇ」といった台詞の商業利用にも制限をかけるだろう。
ことほどさように他人の知的財産を利用するというのは、ややこしくて面倒なことだらけだ。YouTubeやニコ動の動画の二次利用はその身近な例といえる。メディアがどのような形に変容しようとも、権利者というのは、さじ加減を見ながら「制限」と「許諾」を使い分け、利益の最大化を目指しているのだ。[山崎潤一郎,Business Media 誠]
最終更新:9月27日(金)11時34分
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