dot. 10月21日(月)7時3分配信
いよいよ始まるプロ野球クライマックスシリーズ。プロ野球チームで監督を務めてきた野村克也氏はその展望や、自身の野球観を明かした。
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セ・リーグは巨人が堅いだろう。広島も絶対的エースであるマエケン(前田健太)を中心に勢いがあるが、もともとの戦力が巨人は違う。2位の阪神はセの3チームの中でいちばんの「ぬるま湯」体質で勝負にかける姿勢に劣る。常勝を義務づけられた巨人、負ければ夜の街に出歩くこともはばかられる広島とは違い、勝っても負けても地元メディアを中心に選手をチヤホヤしてくれる。
私の現役時代、シーズン後半に南海対阪急の首位決戦があった。セの試合がないときで、さすがにスポーツ新聞の1面トップは俺たちだろうとワクワクして新聞を広げたら、〈不調にあえぐ掛布特訓〉でガクッときた。打撃練習で何本サク越えしたとか、エエ加減にせいや(笑)。
広島といえば今年、前田智徳が引退した。話をしたことはないが、高卒で入団して開幕早々ヤクルトとの公式戦に出てきた。素晴らしい選手なのにうちのドラフト候補にも上がっておらず、「なんであの選手がうちのリストにないんだ」とスカウトを叱責したことを覚えている。
逆にスカウトが「打撃に目をつぶってくれるなら、いい選手がいます」と推薦してきたのが、古田敦也と宮本慎也。センターラインは守備力重視なので指名し入団させて、宮本のグラブさばきに目を見張った。打力に乏しいというのですぐ、「一流の脇役になれ」と励ますと、犠牲バントにエンドランなど、勝利第一主義、チーム優先のプレーを徹底してヤクルトの優勝に貢献してくれた。
野球は「ドラマ」なので、主役ばかりじゃ勝てない。4番ばかり集めても失敗するのは、どこかの球団が証明したじゃない(笑)。とはいってもプロ野球だから、みんな目立ちたい。そこで宮本のようなプレーヤーは偉いよね。ベテランになってからは、マスコミのインタビューに答える内容も良くなっていった。だいたいな、プロ野球選手は30代になると、メディアの取材に熱心に答えるべきだよ。私は引退後にプロ野球評論家になりたかったから、取材と聞くと張り切ったよ。素人が気づかないプレーの説明をしたり、世間にアピールしているうちに評判を呼び、周囲の自分を見る目が変わってきた。今の現役はそれがわかっていないんだな。引退したりクビになって初めて「これからの生活をどうしよう」と戸惑う。それでは遅いっちゅうの。
野球ってのは、深く考えても浅く考えてもできるからやっかいなの。野球のプロなんだから当然深く掘り下げてほしいのだが、それが今の選手は全然なんだよ。でも最後に残るのは深く考えた選手。宮本は良い指導者になるだろう。
※週刊朝日 2013年10月25日号
最終更新:10月26日(土)10時53分
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