つなごう医療 中日メディカルサイト

米牛肉輸入規制緩和 消費者に抵抗感 「BSE検査体制、疑問点多い」

(2013年2月2日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】 この記事を印刷する

小売業など 安全性表示が必要

画像規制緩和に合わせて値下げされた米国産牛カルビ=1日、名古屋市昭和区の西友御器所店で

 牛海綿状脳症(BSE)対策で実施されていた米国産牛肉の輸入規制が1日、緩和された。これまで感染の危険性を避けるため生後20カ月以下に限っていた輸入対象を30カ月以下まで拡大。この規制緩和で輸入できるようにした牛肉は今月下旬には店頭に出回る見込みだ。消費者の信頼を損ねずに、牛肉の消費拡大につなげられるだろうか。(東京経済部・伊東浩一、経済部・後藤隆行、太田鉄弥)

 ■拡大
 規制緩和に先立ち、1月31日に米国産カルビを100グラム127円から97円に値下げした名古屋市昭和区の西友御器所店。1日は普段の倍の40パックを用意したが、夕方までにほぼ売り切れ。飲食業の男性(31)は「焼き肉が好きなので安くなるのはうれしい」。一方、「お肉も野菜も、まだ外国産には抵抗がある」と話す主婦(66)も。

 西友は親会社の米流通大手ウォルマート・ストアーズによる調達力を生かして米国産牛肉の入荷量を増やす見込み。今後、食品を扱う全店で平均25%の割引を続け、需要喚起を狙う。担当者は「おいしい肉を安く提供すれば消費拡大につながる」と話し、今年の米国産牛肉の売り上げを倍増させる目標を掲げる。

 ユニー(愛知県稲沢市)やバロー(岐阜県多治見市)も、米国産牛肉の輸入量を増やす方針。「均一価格でお値打ち感を出していく」(ユニー)「円安の流れがあるが、安くなるようなら歓迎だ」(バロー)と話す。

牛肉の推定出回り量

 ■期待
 米国産牛肉は、輸入牛の中でも適度に脂が乗り、肉質が軟らかいとされる。吉野家ホールディングスの担当者は「再びあの味が提供できる」と、今回の規制緩和を歓迎した。あの味とは、BSE問題によって2003年12月に米国産牛肉の輸入が禁止される前の牛丼の味だという。

 05年12月、生後20カ月以下の牛に限って輸入が再開されたが、入ってきたのは主に15カ月前後の若い牛が多かった。「今後はもっと、適度に脂が乗った牛肉を提供できる」と期待する。

 11年度の米国産牛肉の輸入量は12万4千トン。農林水産省は、規制緩和によって輸入禁止前の02年度の水準(24万トン)まで徐々に回復すると予測する。ただ、価格は米国での飼料の高騰や円安が進んだことを背景に、「大きく値下がりすることはないだろう」との見方だ。

 ■懸念
 しかし、消費者の米国産牛肉への不安は消えていない。輸入再開以降、米国から届いた牛肉の中に、BSEの原因物質がたまりやすい特定危険部位が交じっていたり、生後20カ月を超える牛の肉が紛れていたりする問題が17件起きている。

 主婦連合会の山根香織会長は「米国のBSE検査体制や月齢、生産履歴の確認方法には疑問点が多い。規制緩和で消費者の不安は増すだろう」と話す。

 こうした消費者側の不安を、北海道大大学院の一色賢司教授(食品安全)は「BSE発症の危険性は小さくなっているが、日本政府が米国から催促され続け、国民の不信感を解きほぐさないまま、規制緩和に踏み切ってしまったことは問題だ」と解説する。

 規制緩和への対応を名古屋大の竹谷裕之名誉教授(農業経済)は「消費者の不安を解消するため、小売業や外食産業は産地表示や検査方法の開示に努め、消費者から安全性を問われたら詳しく説明できるようにしておくべきだ」と指摘する。

 牛海綿状脳症(BSE) プリオンと呼ばれるタンパク質が異常化して中枢神経などに蓄積し、脳組織がスポンジ状になる牛の病気。1986年に初めて英国で確認された。感染牛の肉や骨が原料の「肉骨粉」を飼料として与えたことで感染が拡大したとされる。日本では2001〜09年にかけ計36頭の感染が判明している。人にもまれに感染する「人獣共通感染症」で、人の場合は致死性の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病を発症する。

中日新聞グループの総合案内サイト Chunichi.NAVI

中日新聞広告局 病医院・薬局の求人