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NGから見るウルトラマンの秘密

10月24日 21時15分

添徹太郎記者

世界的にも知られる日本の特撮技術が生み出したヒーロー「ウルトラマン」。
そのウルトラマンが撮影されたときの失敗映像を集めた、いわば「NG集」ともいえる40年以上前のフィルムが発見されました。
本来であれば、そのまま捨てられてしまうはずのフィルムが奇跡的に残っていたのです。
その映像には特撮に妥協せず挑み続けた製作スタッフの試行錯誤や苦労が記録されていました。
科学文化部の添徹太郎記者が解説します。

ウルトラマンと特撮

ニュース画像

ウルトラマンは、昭和41年の放送開始以来、幅広い世代に愛されてきました。
人気の理由は、そのストーリーもさることながら、精巧なビルや飛行機などのミニチュアのほか、「スペシウム光線」などの必殺技を表現する光学合成といった高度な「特撮」の技術です。
コンピューターで映像を作る「CG」技術がなかった頃、特撮は極めて高度な技術と費用のかかる撮影方法でした。
ウルトラマンを製作した円谷プロダクションを創業した円谷英二監督は、「特撮の神様」とも言われ、「ハワイ・マレー沖海戦」や「ゴジラ」などの映画で特撮技術を発展させてきましたが、カラーのテレビ放送で、毎週、特撮番組を製作するのはウルトラマンが初めての試みでした。

発見されたフィルム

その特撮の舞台裏を知る貴重なフィルムが新たに見つかりました。
初代ウルトラマンが撮影されたときの失敗映像などを集めたフィルムおよそ1時間分です。

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円谷プロダクションの関係者の自宅に40年以上、保管されていました。
フィルムで撮影・編集されていた当時、放送に使われなかった映像は、本来であればそのまま捨てられてしまうはずでしたので、残っていたのはまさに奇跡的です。

細部への”こだわり”

残っていた「NG集」とも言えるフィルムには、怪獣を持ち上げて投げようとするものの勢い余って転んでしまうウルトラマンなどクスッと笑える場面などが記録されていました。

動画:10月23日 ニュースウオッチ9より

動画:10月23日 ニュースウオッチ9より

しかし、取材を進めると、その映像の1つ1つに想像を超える奥深さがありました。
円谷英二監督の愛弟子で、カメラマンとして撮影に携わっていた佐川和夫監督は、映像を見ながら撮影現場の様子を語ってくれました。
例えば、怪獣が石油コンビナートを襲って炎上するシーンなど、燃え上がる炎を表現するには合成のアニメーションだとリアリティが出ないため、危険性を分かったうえで、本物の火を使ったということです。
そのため、怪獣の着ぐるみは燃えない素材で作り、撮影の際には消火器を持ったスタッフのほか、医師や看護師が常に待機していたそうです。

動画:10月23日 ニュースウオッチ9より

また、見つかった映像の中には、ウルトラマンが誤ってセットに生えている木を抜いてしまうというシーンもありましたが、よく見ると、この木には根が付いています。

動画:10月23日 ニュースウオッチ9より

佐川さんによると、セットの背景には作り物の木ではなく、本物の木を1本1本植えていたというのです。
佐川さんは「それがリアリティを追求するうえでのこだわりだった」と話していました。

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このほか、佐川さんは、住宅地のミニチュアを作る際は撮影のシーンは何時ごろかを考えて物干しざおにかかっている洗濯物の乾き具合まで再現。
さらに、怪獣に壊される建物は蹴られて壊れるのか、尻尾で壊されるのか、あるいは怪獣が倒れて壊れるのかによってミニチュアを作り分けていたということで、製作チームの細部にかけた思いに驚かされました。

「うそ」を「本物に」

架空のシーンを現実のように撮影する「特撮」。
「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」の監督を務めた満田かずほ監督(「かずほ」は、「のぎへん」に「斉」の字)は、「うその世界をどう本物に見せるか」ということが作品作りの大きなテーマだったといいます。

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過酷な撮影スケジュールの中、「怪獣がどこから出て来るのか、水の中か土の中か、何のために、どうやってここまできたのか」という必ずしも映像には現れない細部についてまで、撮影所のそばにある喫茶店でスタッフが本気で議論していたそうです。
ウルトラマンシリーズは、日本だけでなく、世界100以上の国と地域で放送され、多くの映像作家がその特撮表現に影響を受けています。
これだけ長く愛され、大きな影響を与えた番組が作られた裏には、当時の若いスタッフたちのリアリティの追求へのただならぬ情熱があったからではないでしょうか。

「特撮」の未来

テレビやカメラの高画質化に伴い、特撮に求められる技術のレベルはますます上がっています。
特撮の撮影現場では、データから複雑な形を正確に作り出す3Dプリンターを導入し、より精巧な物作りに生かしています。
しかし、CGの技術の発展で、本物と見間違うような映像作りも可能になるなかで、新しいウルトラマンシリーズの現場では今も「特撮」にこだわっています。
登場する怪獣も一体一体、職人が原型を粘土をこねて作ります。

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「怪獣マエストロ」と呼ばれる造型師の品田冬樹さんは、「怪獣は必ずしも左右対称ではないなど、デジタル技術が苦手なゆがみがある。手作業で作ったほうが、より迫力のある顔が作れる」と話していました。
当時の撮影現場を知る佐川監督、満田監督、それに現在の特撮現場のスタッフから共通しているのはその「映像に妥協をしない」という姿勢です。
円谷監督はその弟子たちに次のように話していたそうです。
「どんな映像でも、手を抜かずに一生懸命やれば、お客さんに必ず喜んで貰える」誰にもどんな仕事にも通じる重みのあることばです。
妥協をせず一生懸命にやることで成果が生まれる。
子どもから大人まで世代を超えて心をつかんだウルトラマンの本当の“秘密”なのではないでしょうか。