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防衛省は、陸海空自衛隊を動員した大規模実動演習を来月1日から、九州や沖縄県を中心に実施すると発表した。
上陸作戦や輸送訓練を予定しており、事実上の離島奪還訓練となる。主な訓練場所は那覇の南東約400キロにある無人島で、米軍の射爆撃場となっている沖大東島(北大東村)だという。
尖閣諸島周辺で続く中国との緊張関係などを踏まえた演習であるのは明らかだ。
尖閣周辺海域や空域での中国の挑発行為は許し難い。だが、口で言っても聞かない相手には軍事で対抗する、という短絡的思考にはまることは避けなければならない。
軍事的な対応能力を見せつけた上で、その先に外交交渉で協調関係に持ち込む手だてが今の日本政府にあるのだろうか。中国を敵視して圧力をかけつつ、米軍との協調関係をアピールする。それ以外の対中国外交の青写真が安倍政権にあるようにはみえない。
軍事に軍事で対抗するのが抑止につながる、との考え方は根本的解決にはつながらない。一時しのぎというだけでなく、軍事的なエスカレートを招くジレンマも抱える。
沖縄で暮らす住民の立場として沖縄周辺の緊張をさらに高めることにならないか、危惧しないわけにはいかない。
自衛隊は今回、米軍提供施設を利用する。共同使用は今後加速していくだろう。
「中国の脅威」と「日米一体化」と「共同使用」はセットで日本の安全保障政策に盛り込まれている。これでは沖縄の負担軽減が図られる要素は容易に見いだし得ない。
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民主党は2009年の衆院選マニフェスト(政権公約)で「東アジア共同体」を掲げた。東アジアを重視する外交構想は新鮮だった。
あれから4年余り。日中、日韓関係は領有権問題をめぐり険悪化した。歴史認識問題もひきずり、日本は東アジアにありながら孤立感が深い。
過度な対米追従からの脱却を図ろうとした鳩山政権は普天間問題で挫折。鳩山由紀夫氏は「対米関係」という虎の尾を踏むかたちとなった。
安倍晋三首相はどうだろうか。首相は現憲法を「米国に押し付けられた」と捉え、改正を唱えている。過去の植民地支配と侵略を謝罪した「村山談話」については、国会答弁で「継承しているわけではない」「『侵略』の定義は国際的にも定まっていない」などと発言したこともある。
首相の歴史認識に対する警戒は中国や韓国だけでなく、オバマ政権内部にも根強い。
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安倍首相の本心はどこにあるのか。軍備強化による自主路線に向かう過程として対米協調を装っているのか。
いずれにせよ、中国敵視の政策に傾く現状は危うい。米国は、領有権問題に関しては中立の立場を堅持しており、過度な期待は禁物である。
対中包囲網は中国との軍事的な緊張を固定化する。旧来型の軍事的抑止力に過度に依存した安全保障観では軍拡競争にはまり、地域秩序を不安定にするだけだ。
日本の東アジア外交は危機的である。この現実を打破する手腕こそ求められている。