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林智彦の電子書籍days

「電子書籍の父」富田倫生さんが遺したもの--日本が目指す方向性とは(前編) - (page 2)

2013/10/24 08:00

青空文庫は唯一の成功した和製「プラットフォーム」

 だが青空文庫の意義は、単に提供しているコンテンツの質や量にとどまるものではない。オープンな電子書籍「プラットフォーム」である点も重要だ。青空文庫は、民間主導で発展した、「プラットフォーム」として、日本ではまれな成功例の一つである。

 「プラットフォーム」とは何か。さまざまな含みがあり、その定義は容易ではない。ある企業にとっては「多数の企業から利用料を取るビジネス」のことであったり、別のある企業にとっては、「多数の利用者から利用料を一括して徴収し、コンテンツやサービス提供者に割り振るサービス」であったりする。

 さらに、「配信サーバ」の意味で使う人もいるし、「規格や配信経路、端末をトータルでコントロールすることで利益を得るサービス」といった意味で使う人もいる。最後の例は、「垂直統合モデル」とか「エコシステム」などという別名もある。念頭におかれているのはiPhone、iPad、iPodといったデバイスを販売する一方、そのデバイス向けのアプリマーケット「AppStore」からも収入を得るAppleだ。

 「プラットフォームビジネス」はこの数年間、日本の実業界のバズワードになり、一時は、猫も杓子もプラットフォームを目指している感があった。しかしこれまで述べたように、定義は人により組織によりまちまちだから、複数の企業や業界をまたがった会議で、各自がてんでんバラバラな定義のプラットフォームを念頭において話をする、といった笑えない風景が、あちこちで繰り広げられたようだ。

 特に、「多数の企業・利用者」が活用できるオープンさを強調する定義と、Apple型の「一社(少数の企業)によるコントロール」を強調する定義とでは、その意味するところは場合によっては真逆であり、矛盾は深刻になる。

 とはいえ、「多数の個人や企業が共通して利用できる土台を提供することで、ビジネスを発展させる仕組み」という概念だけは、最大公約数的な合意として取り出せそうだ。鉄道の駅のプラットフォーム(ホーム)のように、様々なパートナーが、アクティブに活用できるよう整備された技術的、ビジネス的なベース、ないしそれを前提とした事業のあり方、という概念である。

 上に述べたように、プラットフォームは一時、日本の産業界のバズワードだった。そのため、2010年以降続々と立ち上がった電子書籍事業も、そのほとんどがプラットフォームを志向した。

 例えば、2010年にソニー、KDDIなどが立ち上げ、後の「ブックリスタ」に発展したジョイントベンチャーは、発足時のリリースの中で、プラットフォームの立ち上げを使命として謳った(情報公開:このリリースの起草作業には、筆者も加わっている)。

 同じ年にNTTドコモと大日本印刷が発表し、後の「トゥ・ディファクト」の設立につながった提携事業のリリースでも、翌2011年1月に発表されたBookliveのリリースでも、プラットフォームがキー概念として使われている。

 さて、問題は、それらのプラットフォームが、スタートから数年の時を経て、前宣伝通りの役割を果たしているかどうかだ。

 AppleやAmazon、Google(Android)などがプラットフォームとして機能を提供していることは、アプリに関しては、特に証明してみせる必要はないだろう。数千、数万といった多数のデベロッパーが参加し、その上でビジネスを展開している。

 その中には、他社製の電子書籍サービス向けのビューワー(一部は、ストア)アプリも含まれる。つまりこの3社以外の電子書籍サービスの利用者も、制限はあるにせよ、この3社の端末上で本が読める(一部は、買える)、ということだ。

 電子書籍サービスについては、どうだろうか。3社とも、特別な契約を結ばなくともオンラインで申し込み(これも契約ではあるが、手続きがオンラインで完結するところが日本企業の通常の契約と違うところ)さえすれば、本を出版できる仕組みなので、これまで本を出したことがない新人作家や、電子専門の出版社が、自由に本を刊行できる。実際、3社のストアでは、こうした新興勢力の本を毎日のように目にすることができる。

 3社の事業が、さきほど定義した「プラットフォーム」の最低限の基準、すなわち、「多数の個人や企業が共通して利用できる土台として機能する仕組み」のクリアに成功しているのは、一見して明らかであるように見える。

 なお自己出版というと、一部の人だけに関係するように思えるが、自己出版に対応しているということは、何の予備知識も持たない利用者が、出版の申し込みから販売までの手続きをオンライン上で完結させられるように、利用のためのハードルが非常に低いシステムができている、ということでもある。そして、それに必要な情報や仕様が、ドキュメントなどの形で分かりやすくまとめられ、公開(申し込みが必要な場合とそうでない場合があるが)されている、ということでもある。

 例えばAmazonのKindleストアで本を出したいと思ったら、Kindle Direct Publishingのサイトへ赴き、「Kindleパブリッシングガイドライン」をダウンロードすればいい。同じページには、国際的に広く使われている電子書籍フォーマットであるEPUBのコンテンツを、Kindle用のフォーマットに変換するためのツールや、Kindle用コミックを制作するためのツール、そして、利用者が運営者に質問したりできるフォーラムが用意されている。

 このページで提供されているツールや情報は、出版社がKindle本の制作の時に参照しているのと同じものだ。つまりKindle本の出版に関して、出版社と個人、新興企業の間に入手できる情報の差は、基本的にはない。

 Amazonほどわかりやすく、また詳細でもないが、AppleやGoogleにも同様のページがある。Appleのガイドページはこちら、Googleのガイドページはこちら(英語)にある。

 後編に続く

 
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