斎藤環の東北:10月 「あまちゃん」の震災
毎日新聞 2013年10月17日 東京夕刊
宮藤氏によれば「あまちゃん」は、震災で被災した町をご当地アイドルを使って活性化する話、とのこと。それでわかった。ヒロイン・アキはドラマにおける空虚な中心であり、触媒なのだ(だから描けない)。朝ドラのヒロインでありながら、結婚も出産もせず、あえて言えば「成長」もしない。にもかかわらず、周囲の人々を変えていく存在。
考えてみれば、このドラマにはまともな家族がほとんど出てこない。アイドルに憧れる痛いヤンキー少女とニートの兄、くっついたり離れたりを繰り返す“だらしない”男女、家族を棄(す)てて失踪する主婦、身寄りの無い海女、故郷を棄てて上京したがモノにならずに帰郷する青年、などなど、“弱く”て“ダメ”な人間群像。スナックでは楽しげに盛り上がっても、“美しい絆”などは描かれない。
しかし、だからこその希望がある。ばらばらでも、職がなくても、ろくな絆がなくても、ここに描かれたのは間違いなく「希望」だ。「恐竜の化石発見」という意表を衝(つ)くラストは、「何が起こるか分からない」という、真の意味での希望を与えてくれた。
確かに日常は空虚かもしれない。でも、それが続いていくことに意味がある。「アイドル」とは、そんな「日常」をつないでくれる、一つの象徴なのかもしれない。(さいとう・たまき=精神科医、筑波大教授)=毎月1回掲載します