斎藤環の東北:10月 「あまちゃん」の震災

毎日新聞 2013年10月17日 東京夕刊

 いつもはシビアな話題が多い本欄だが、たまには“ゆるく”行きたい。

 先日放送を終了したNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」について語っておきたいのだ。なにしろ、国民的ヒットとなったこの人気ドラマの舞台は、私の故郷である岩手県の久慈市(ドラマでは「北三陸市」)なのだから。

 もっとも、私はファンとしては途中参入組だ。評判を聞いて「東京編」から見始めてやめられなくなったのだ。さすがに朝は見る暇がないので、もっぱら「夜あま」派だったが。

 脚本の宮藤官九郎は、宮城県出身だけあって、東北人のユーモア感覚をしっかりと理解している。関西系のボケとツッコミではなく、軽い自虐にアイロニーを秘めた独特のグルーヴが番組全体のトーンとなっていて心地よい。流行語になった「じぇじぇ!」は久慈市以外では「じゃじゃ!」なのにと思いつつ、方言の再現度もほぼ完璧だ。

 感心したのは、作家の目線が常に“平等”だったこと。「あまちゃん」を語る人々は、みんな同じ目線になる。誰の感想が正しいとか、誰の深読みが凄(すご)いとか、あっちのドラマと比べてどうとか、割とどうでもよくなる風通しのよさがあった。視聴者を参加させて、共同作業で一つの空気を作っていくような連ドラならではの連帯感。こんな感覚は久しぶりだ。

 もちろん「その日」のシーンも、東北人として固唾(かたず)をのんで見守っていた。

 意外にも、被災シーンは直接描かれず、震災は東京での揺れと、トンネル内で列車が停止するシーン、あとは破壊されたジオラマだけで表現された。演出のテクニック以前に、このこまやかな「配慮」がうれしい。被災地の表現にあっては「向き合う」と「押しつける」が常にせめぎ合うが、このさらりとしたバランス感覚が絶妙だったのだ。

 この番組はさまざまな現象を巻き起こしたが、個人的に面白かったのは、「あま絵」ブームだ。プロの漫画家をはじめとする多くの絵師が、ネット上でお気に入りの登場人物の似顔絵を次々と発表したのである。ところが不思議なことに、誰が描いてもヒロインの能年玲奈だけはあまり似ていないのだった。

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