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女優人生50年、李麗仙さんが韓国名にこだわったワケ

「心まで日本に渡したくないという自尊心」

女優人生50年、李麗仙さんが韓国名にこだわったワケ

 「ハングクサラム(韓国人)」

 ずっと日本語でインタビューに答えていた70歳過ぎのベテラン女優が、この時ばかりははっきりとした韓国語で答えた。「では、あなたはどの国の人なのか」という質問に対する答えだった。「国籍は日本。日本で生まれ育ったので、韓国で暮らすのは難しい。保険の恩恵を受けようと思ったら日本で生活しなければならない。でも、心までは日本に渡していない」。そして、その言葉の最後に「血とはそういうもの」と付け加えた。

 23日まで大学路アルコ芸術劇場大劇場で上演される舞台『月の家~タルチプ』 (金守珍〈キム・スジン〉演出)の主人公ガンナン役を演じている女優・李麗仙(り・れいせん)さん(71)は在日韓国人3世。日本の現代演劇の先駆者・唐十郎氏の妻であり、女神のような存在だった。唐十郎は詩人・金芝河(キム・ジハ)氏と交流があり、同氏の『金冠のイエス』 を1972年にソウルで上演し、大きな反響を呼んだ。主人公がソウルと東京を行き来しながらもアイデンティティーについて悩む『二都物語』などで、日本人とは何者なのか、隣国・韓国とは日本にとって何を意味するのかを最も激しく問い掛けた劇作家だ。

 中学校のときに演劇部に入った李麗仙さんは20代で唐十郎氏に出会い、本格的な女優としての第一歩を踏み出した。その唐十郎氏の弟子が在日韓国人で劇団「新宿梁山泊」の演出家・金守珍氏だ。同氏は『月の家~タルチプ』の演出を手掛けている。「日本演劇史の巨匠・唐十郎氏が韓日演劇交流の架け橋になったのは、李麗仙さんの影響力が絶対的に大きい。日本国内で韓国の演劇人の存在を知らしめた新宿梁山泊も、さかのぼれば李麗仙さんに大きな借りがあるということだ」と話した。

 李麗仙さんは1960-70年代の日本演劇界で初めて韓国名で活動した女優だ。「名字の『李』という字を大きく書いて玄関に掲げていた父に影響を受けた。名前の3文字が象徴しているように、韓国人だというアイデンティティーが自尊心を守り、舞台に立つのに大きな力になった」と話した。

 韓日両国の舞台で活躍する李麗仙さんの韓国公演は、97年の呉泰錫(オ・テソク)作『母』以来16年ぶりだ。『月の家~タルチプ』はベテラン脚本家・ノ・ギョンシク氏の71年の作品。同年、イム・ヨンウン氏の演出で明洞国立劇場で初演された。今月中旬には、在日韓国人が中心の劇団・新宿梁山泊と韓国の劇団・スタジオ叛の共同制作により、東京で上演された。光復(日本による植民地支配からの解放)後、人々の上に思想が君臨していた時代、家と土地を守ろうと立ち向かう普通の人たちの物語。李麗仙さん演じるガンナンは日本の拷問により死んだ夫、パルチザンに加わって殺害された孫など「血のにじんだ韓国現代史」を象徴する人物として描かれる。

 これまで100本以上の作品に出演してきた李麗仙さんはこの作品について「70歳になって出会った代表作。40年前の作品だが、韓国人の血が流れている人なら誰でも切々と心に迫り、共感できるストーリーだ」と語った。

申晶善(シン・ジョンソン)記者
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