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「選択の日曜日」
「だって私だったら絶対に見るもの!」
香子がそう断言した次の瞬間、万里の脳裏には(この人はなにを言っているんだ!)という気持ちと、(確かにこの人なら絶対に見るだろう!)という気持ち。この二つが、まったく同じ分量、まったく同じ濃度でよぎっていった。
だがのうのうとそんなもんをよぎらせている場合ではもちろんなくて、
「……だ、か、ら! 俺は見てない、って言ってんだろ!」
「そんなのありえない! 愛していたら相手のすべてを知りたいのが普通でしょ! それとも私を愛してないの!?」
「いきなり自分の普通を押し付けんな!」
「今は愛してるかどうか聞いてるの! 答えて!」
「はあ!? 話すり替えんなよ! そもそも俺はその手帳がそこにあることすら気づいてなかったのに、どうやれば見られるんだよ!?」
イミフな寝言には、堂々たる正論で言い返すほかに手立てはなかった。ついでに焼きそばを大きく二口思いっきりすすって、香子の手元にあるチャーハンとチェンジ。その途端、香子はとんでもない暴虐を受けたようにせっかく綺麗に整った顔を歪め、
「……まだ半分食べてないの!」
そのチャーハンをくるりともう一度、自分の手元に取り返す。
プラスチックのレンゲで「ここまでは私の分だから!」とチャーハン上にきっちり境界線を引き、ついでに具材の豚角煮をいくつか自分の陣地にさりげなくぽいぽい放り込み、万里に奪われないように腕でガードしながらパクパクと食べ進む。
「まったく、これだから油断も隙もないのよ……見たところ、焼きそばもさりげなく半分以上食べちゃってるし。エビマヨも一気に三つ、食べちゃってるし。どこから見ても、万里には有罪判決がお似合いだよ。万里を切ったら全断面が、『こいつはギルティ!』って叫んでるはずだよ」
「だ、断面……? 俺の……? なんかそれこわ……じゃなくて! エビマヨはだって、全部で六つ入ってたから、俺が三つ食ってもいいじゃん」
焼きそばに関しては、確かにまあ――あれだ。勢いで、半分より多く食べてしまったかもしれない。というのも、青梗菜がちゃんと切れていなくて、箸で引っ張ってみたら思った以上にずるりと大きくて、噛み切るのもなんだし、つい食べてしまったらいきなり嵩がごそっと減ってしまった……というのはある。
でもエビマヨについては、なにを責められるいわれもない。と、思うのだが。
香子はチャーハンをモグモグしながら、ふぅ、と疲れたように首を横に振ってみせる。
「万里。あのね、エビマヨはね、最大、大、中、小、小、小、の六つだったのよ。私はね、男女の基礎代謝量の違いも勘案して、あなたに最大、中、小を捧げて、自分は大、小、小、でいいって思ってた。エビマヨ大好きだけど、私にとっては万里の方がずっと大切だし、私は万里を正々堂々愛してるし、それでいいって思ってた。万里に最大を勧められたら『えーいいよいいよ、一番大きいの万里食べなよ!』って譲る決意はとっくに固まってた。ところがあなたは、こんなに健気な香子ちゃんの考えなどガン無視。なにも言わずに立て続け、いきなり最大、大、と二連続で責めた。愛が全然、感じられなかった。でも私は、あとの四つをくれるつもりなのかな、というかすかな可能性に賭けた。ところがあなたのお箸は止まらなかった……私は私との賭けに負けた!」
「……あ、あれ? そうだった?」
「しかもあなたが三つ目に選んだのは……」
きっ、と香子の大きな瞳が鋭く底光りして、真正面の万里を見据える。
「中、だった!」
「ええー……。そんなの、そのとき言ってくれればよかったのに……」
「あなたは私が口を差し挟む間もないほどの速度で、最大、大、中を自分勝手に食べてしまったの! そして私に残されたのは、ほら見て、これだよ!」
香子は芝居がかったアンニュイな表情で、紙箱を傾けてみせる。レタスの敷かれた底に残っているのは、小さめのエビマヨが三つ。一つを箸でつまんで持ち上げ、
「これはもはやエビマヨじゃない……。プランクトンマヨ」
うふ、とわざとらしいほど哀しげに微笑み、ポーズ。もったいぶって、ぱくりと口に入れる。もちろん、プランクトンなんてことはない。ちゃんとまともなエビだが、言われてみれば、万里が食べたエビよりはだいぶ小ぶりではある。
「わかった。……悪かったよ。確かに俺が悪うございました」
「そうでしょ? 最初からそうやって素直に認めていれば話は早かったんだよ」
香子はチャーハンの半分を食べ終えて、焼きそばとチェンジ、万里の手元に置いてくれる。心なしか声もすこし優しさを取り戻して、
「というわけで、手帳も見たんだよね」
「……はい?」
「じゃあ今回のことは不問に付してあげる。でも将来、いつか私が万里の携帯かなにかをこっそり覗いたことが発覚しても、その罪は相殺して。必ずだよ。誓って、絶対に怒らないって。自分だって同じことしたんだから。ちなみにだけど、私は見るから。あ、今は見てないよ? ほんとだよ? あくまでも将来、いつかの話。私たちは未来永劫永遠絶対運命必中のカップルでしょ? だからこんなふうに未来の事柄についても具体的に話し合っておく必要があるんだよ。というわけ。わかった? わかったよね! 私は将来万里の携帯を見たりするけど、万里はそれを怒らない。はい、この話はここで終わりでいいよね! 以上だよ!」
「……」
万里は、話が大きく一周した末に元の地点に戻ってきた――上に、不思議なバレルロールをして、未来の時空における不利な約束を結ばれてしまったことに気がついた。
だから、さっきから、ずっと、見てないって、言ってんだろうが! ……そう喚くことは簡単だ。しかし、
「……ああ、そうすか! はいはい、いいよそれで! 見たよ! 見ました、俺はあなたの手帳を見たことを認めますよ! 言うとおりでございますよ!」
卑屈も丸出しに方針転換。
「だからもう一回見る。見返す。それ貸せよ」
手を差し出すと、香子はいきなり無言になって動かなくなる。なにを今更、と万里は思う。
ここまできたら、赤い手帳の中身に却って興味が出てきたのだ。盗み見野郎の濡れ衣も、別に被ったって構わない。目の前で堂々見てやろう。なんなら音読してやろう。
「なんだよ、嫌なのかよ? 手帳を渡さないつもりなら、香子も結局、俺がまだそれを見てないってことをちゃんとわかってる、ってことになるぞ?」
そのまま、数秒間。香子は自分の手の中の手帳と万里の手をじっくり見比べ、微妙に難しい顔で考え込み、やがてその口を開いた。
「……まあ、安心したよ」
言葉の意味は、まったくわからない。ちなみに手帳をこちらに渡す気はないらしく、敷いているクッションの下にぎゅっと押し込むのを万里は見た。
「でもね、そもそも、問題はそこじゃないから。単純に、見た、見ないの話じゃないの。見たいかどうかの話だから」
「なんだそりゃ?」
「万里は、私のプライベート秘密手帳を、やっぱり見たいんだ? そうだよね?」
麗しい笑顔でいきなり上から目線、香子は食べ終えた焼きそばの紙箱をテーブルに置いて、一口お茶を飲む。改めまして、とでも言いたげに、万里の顔を覗き込んでくる。
「私のこと、愛してるから手帳を見たいんだよね? それならちゃんとそう言ってくれなきゃ。香子を愛してるから全部知りたい、なんでも見たい、って。はい、言ってみて」
はいはい、俺は香子を愛してる――なんて、さらりと言えるわけもなかった。こんな下らない口喧嘩の延長線上で言いたい言葉とも思えないし、こんな状況を利用して言わせようとする香子もどうかと思う。これは微妙な男心の、超えられない一線だ。
「言えるわけないだろ! そんなに軽々しく!」
その瞬間、香子の両目がくわっと大きく見開かれる。
「な、なによ……! つまり私の愛が、軽々しいって言うの!? どうしてよ!? こんなにディープに愛してるのに、なぜそんなこと言うのよ!」
「だって軽々しいだろ、明らかに! 簡単に連発しやがって!」
「だって愛してるんだもの! 私は万里を愛してる! 本当のことを言ってなにが悪いの!
万里にも言ってほしいよ! 私を愛してるなら、何度でも言ってほしい!」
「いやだ! 俺は言いたくない! 全然重みが感じられない! 安くなる!」
「……じゃあ、もう、喋らない! 軽々しいなんて思われるなら、思いっきり、重々しくしてやる! 万里が愛してるって言ってくれるまで、私はもう口聞かない!」
「だから、そういう取引材料に利用するのが軽々しいって言ってんじゃねえかよ!」
「……」
ぷい、と香子は口を真横に引き結び、リモコンでテレビの電源を入れる。気が済むまでそうしてろ、と万里も箸を置いて、お茶を飲んだ。
ところでその頃、別の街では、岡千波がバイト先であるおしゃれなカフェの更衣室で、ユニフォームのエプロンを外すのも忘れて、ぼんやりと傾いていた。ベンチに座り込んだまま、ぐっと前方に身体を傾けて、ロッカーに額をくっつけているのだ。冷たい鉄の素材が、発熱した頭に心地よかった。
今日はランチから夜までずっとシフトが入っていた。しかし風邪を引いてしまい、どうにか自宅は出てきたものの使い物にならず、店長から帰るように指示されたのだ。全身がだるくて重くてたまらず、鼻水も咳も連発で、考えはまとまらない。結んだ紐を解けばエプロンも脱げるのに、千波は動くこともできない。次になにを行動しようとしていたのか、考えるそばからシュワシュワと蒸発していく状態だった。
そしてまた別の街では、柳澤光央と二次元くんが、野郎二人でカウンター席に並んで座り、ハンバーガーで腹を満たしていた。たまたま揃って今日は暇で、のんきな休日のひと時をともに過ごしているのだ。
「やなっさん、こないだは本当に助かったよ。マジありがとう! 今日三万、きっちり持ってきたから」
「おお、学校ででもよかったのに。持ってると使っちゃうから、後で銀行寄るわ。口座に入れとかねえと。それまで二次元に預けといていい?」
「いいよ。じゃあそのときに渡すわ」
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「だって私だったら絶対に見るもの!」
香子がそう断言した次の瞬間、万里の脳裏には(この人はなにを言っているんだ!)という気持ちと、(確かにこの人なら絶対に見るだろう!)という気持ち。この二つが、まったく同じ分量、まったく同じ濃度でよぎっていった。
だがのうのうとそんなもんをよぎらせている場合ではもちろんなくて、
「……だ、か、ら! 俺は見てない、って言ってんだろ!」
「そんなのありえない! 愛していたら相手のすべてを知りたいのが普通でしょ! それとも私を愛してないの!?」
「いきなり自分の普通を押し付けんな!」
「今は愛してるかどうか聞いてるの! 答えて!」
「はあ!? 話すり替えんなよ! そもそも俺はその手帳がそこにあることすら気づいてなかったのに、どうやれば見られるんだよ!?」
イミフな寝言には、堂々たる正論で言い返すほかに手立てはなかった。ついでに焼きそばを大きく二口思いっきりすすって、香子の手元にあるチャーハンとチェンジ。その途端、香子はとんでもない暴虐を受けたようにせっかく綺麗に整った顔を歪め、
「……まだ半分食べてないの!」
そのチャーハンをくるりともう一度、自分の手元に取り返す。
プラスチックのレンゲで「ここまでは私の分だから!」とチャーハン上にきっちり境界線を引き、ついでに具材の豚角煮をいくつか自分の陣地にさりげなくぽいぽい放り込み、万里に奪われないように腕でガードしながらパクパクと食べ進む。
「まったく、これだから油断も隙もないのよ……見たところ、焼きそばもさりげなく半分以上食べちゃってるし。エビマヨも一気に三つ、食べちゃってるし。どこから見ても、万里には有罪判決がお似合いだよ。万里を切ったら全断面が、『こいつはギルティ!』って叫んでるはずだよ」
「だ、断面……? 俺の……? なんかそれこわ……じゃなくて! エビマヨはだって、全部で六つ入ってたから、俺が三つ食ってもいいじゃん」
焼きそばに関しては、確かにまあ――あれだ。勢いで、半分より多く食べてしまったかもしれない。というのも、青梗菜がちゃんと切れていなくて、箸で引っ張ってみたら思った以上にずるりと大きくて、噛み切るのもなんだし、つい食べてしまったらいきなり嵩がごそっと減ってしまった……というのはある。
でもエビマヨについては、なにを責められるいわれもない。と、思うのだが。
香子はチャーハンをモグモグしながら、ふぅ、と疲れたように首を横に振ってみせる。
「万里。あのね、エビマヨはね、最大、大、中、小、小、小、の六つだったのよ。私はね、男女の基礎代謝量の違いも勘案して、あなたに最大、中、小を捧げて、自分は大、小、小、でいいって思ってた。エビマヨ大好きだけど、私にとっては万里の方がずっと大切だし、私は万里を正々堂々愛してるし、それでいいって思ってた。万里に最大を勧められたら『えーいいよいいよ、一番大きいの万里食べなよ!』って譲る決意はとっくに固まってた。ところがあなたは、こんなに健気な香子ちゃんの考えなどガン無視。なにも言わずに立て続け、いきなり最大、大、と二連続で責めた。愛が全然、感じられなかった。でも私は、あとの四つをくれるつもりなのかな、というかすかな可能性に賭けた。ところがあなたのお箸は止まらなかった……私は私との賭けに負けた!」
「……あ、あれ? そうだった?」
「しかもあなたが三つ目に選んだのは……」
きっ、と香子の大きな瞳が鋭く底光りして、真正面の万里を見据える。
「中、だった!」
「ええー……。そんなの、そのとき言ってくれればよかったのに……」
「あなたは私が口を差し挟む間もないほどの速度で、最大、大、中を自分勝手に食べてしまったの! そして私に残されたのは、ほら見て、これだよ!」
香子は芝居がかったアンニュイな表情で、紙箱を傾けてみせる。レタスの敷かれた底に残っているのは、小さめのエビマヨが三つ。一つを箸でつまんで持ち上げ、
「これはもはやエビマヨじゃない……。プランクトンマヨ」
うふ、とわざとらしいほど哀しげに微笑み、ポーズ。もったいぶって、ぱくりと口に入れる。もちろん、プランクトンなんてことはない。ちゃんとまともなエビだが、言われてみれば、万里が食べたエビよりはだいぶ小ぶりではある。
「わかった。……悪かったよ。確かに俺が悪うございました」
「そうでしょ? 最初からそうやって素直に認めていれば話は早かったんだよ」
香子はチャーハンの半分を食べ終えて、焼きそばとチェンジ、万里の手元に置いてくれる。心なしか声もすこし優しさを取り戻して、
「というわけで、手帳も見たんだよね」
「……はい?」
「じゃあ今回のことは不問に付してあげる。でも将来、いつか私が万里の携帯かなにかをこっそり覗いたことが発覚しても、その罪は相殺して。必ずだよ。誓って、絶対に怒らないって。自分だって同じことしたんだから。ちなみにだけど、私は見るから。あ、今は見てないよ? ほんとだよ? あくまでも将来、いつかの話。私たちは未来永劫永遠絶対運命必中のカップルでしょ? だからこんなふうに未来の事柄についても具体的に話し合っておく必要があるんだよ。というわけ。わかった? わかったよね! 私は将来万里の携帯を見たりするけど、万里はそれを怒らない。はい、この話はここで終わりでいいよね! 以上だよ!」
「……」
万里は、話が大きく一周した末に元の地点に戻ってきた――上に、不思議なバレルロールをして、未来の時空における不利な約束を結ばれてしまったことに気がついた。
だから、さっきから、ずっと、見てないって、言ってんだろうが! ……そう喚くことは簡単だ。しかし、
「……ああ、そうすか! はいはい、いいよそれで! 見たよ! 見ました、俺はあなたの手帳を見たことを認めますよ! 言うとおりでございますよ!」
卑屈も丸出しに方針転換。
「だからもう一回見る。見返す。それ貸せよ」
手を差し出すと、香子はいきなり無言になって動かなくなる。なにを今更、と万里は思う。
ここまできたら、赤い手帳の中身に却って興味が出てきたのだ。盗み見野郎の濡れ衣も、別に被ったって構わない。目の前で堂々見てやろう。なんなら音読してやろう。
「なんだよ、嫌なのかよ? 手帳を渡さないつもりなら、香子も結局、俺がまだそれを見てないってことをちゃんとわかってる、ってことになるぞ?」
そのまま、数秒間。香子は自分の手の中の手帳と万里の手をじっくり見比べ、微妙に難しい顔で考え込み、やがてその口を開いた。
「……まあ、安心したよ」
言葉の意味は、まったくわからない。ちなみに手帳をこちらに渡す気はないらしく、敷いているクッションの下にぎゅっと押し込むのを万里は見た。
「でもね、そもそも、問題はそこじゃないから。単純に、見た、見ないの話じゃないの。見たいかどうかの話だから」
「なんだそりゃ?」
「万里は、私のプライベート秘密手帳を、やっぱり見たいんだ? そうだよね?」
麗しい笑顔でいきなり上から目線、香子は食べ終えた焼きそばの紙箱をテーブルに置いて、一口お茶を飲む。改めまして、とでも言いたげに、万里の顔を覗き込んでくる。
「私のこと、愛してるから手帳を見たいんだよね? それならちゃんとそう言ってくれなきゃ。香子を愛してるから全部知りたい、なんでも見たい、って。はい、言ってみて」
はいはい、俺は香子を愛してる――なんて、さらりと言えるわけもなかった。こんな下らない口喧嘩の延長線上で言いたい言葉とも思えないし、こんな状況を利用して言わせようとする香子もどうかと思う。これは微妙な男心の、超えられない一線だ。
「言えるわけないだろ! そんなに軽々しく!」
その瞬間、香子の両目がくわっと大きく見開かれる。
「な、なによ……! つまり私の愛が、軽々しいって言うの!? どうしてよ!? こんなにディープに愛してるのに、なぜそんなこと言うのよ!」
「だって軽々しいだろ、明らかに! 簡単に連発しやがって!」
「だって愛してるんだもの! 私は万里を愛してる! 本当のことを言ってなにが悪いの!
万里にも言ってほしいよ! 私を愛してるなら、何度でも言ってほしい!」
「いやだ! 俺は言いたくない! 全然重みが感じられない! 安くなる!」
「……じゃあ、もう、喋らない! 軽々しいなんて思われるなら、思いっきり、重々しくしてやる! 万里が愛してるって言ってくれるまで、私はもう口聞かない!」
「だから、そういう取引材料に利用するのが軽々しいって言ってんじゃねえかよ!」
「……」
ぷい、と香子は口を真横に引き結び、リモコンでテレビの電源を入れる。気が済むまでそうしてろ、と万里も箸を置いて、お茶を飲んだ。
ところでその頃、別の街では、岡千波がバイト先であるおしゃれなカフェの更衣室で、ユニフォームのエプロンを外すのも忘れて、ぼんやりと傾いていた。ベンチに座り込んだまま、ぐっと前方に身体を傾けて、ロッカーに額をくっつけているのだ。冷たい鉄の素材が、発熱した頭に心地よかった。
今日はランチから夜までずっとシフトが入っていた。しかし風邪を引いてしまい、どうにか自宅は出てきたものの使い物にならず、店長から帰るように指示されたのだ。全身がだるくて重くてたまらず、鼻水も咳も連発で、考えはまとまらない。結んだ紐を解けばエプロンも脱げるのに、千波は動くこともできない。次になにを行動しようとしていたのか、考えるそばからシュワシュワと蒸発していく状態だった。
そしてまた別の街では、柳澤光央と二次元くんが、野郎二人でカウンター席に並んで座り、ハンバーガーで腹を満たしていた。たまたま揃って今日は暇で、のんきな休日のひと時をともに過ごしているのだ。
「やなっさん、こないだは本当に助かったよ。マジありがとう! 今日三万、きっちり持ってきたから」
「おお、学校ででもよかったのに。持ってると使っちゃうから、後で銀行寄るわ。口座に入れとかねえと。それまで二次元に預けといていい?」
「いいよ。じゃあそのときに渡すわ」
つづく
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※『「ゴールデンタイム」アニメ化記念ニコニコスペシャル短編!【第三話】』は11月8日00:00 で公開終了となります。
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(C)YUYUKO TAKEMIYA
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