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学力テスト誰がどう公表するのか

10月23日 16時35分

岡本綾記者

全国の小学6年生と中学3年生を対象に行われている「全国学力テスト」。
今、テスト結果の公表の在り方を巡って議論になっています。
学校ごとの結果を公表するかどうかは現在は学校の判断に委ねられていますが、これを教育委員会も公表できるようにすることについて意見が大きく分かれているのです。
社会部の岡本綾記者の報告です。

“学校の結果は学校の判断で”

「全国学力テスト」は、子どもたちの学習上の課題を把握し、授業や指導方法を改善して学力向上につなげるのが目的です。

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文部科学省が平成19年度から小学6年生と中学3年生で行っていて、ことしは4年ぶりにすべての児童生徒、およそ230万人が対象となりました。
テストの結果は、▽学校ごと、▽市町村ごと、▽都道府県ごとにまとめられますが、文部科学省は過度な競争や学校や地域の序列化につながらないようにと、市町村ごとの結果を都道府県が公表することや、学校ごとの結果を市町村が公表することは認めていません。
学校が学校の判断で公表するのは問題ないとされています。

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ところが、ことし、静岡県が成績が上位だった86の小学校の校長の名前をホームページに掲載したほか、大阪市教育委員会が市内のすべての小中学校に公表を義務づけることを決め、文部科学省は「実施要領から逸脱している」という見解を示しています。

保護者、学校、知事・・・大きく分かれる意見

実は、こうした動きの前から「自治体の判断に任せるべきだ」という指摘があり、文部科学省は、ことし7月から有識者会議で来年度の公表の在り方を検討してきました。
検討の参考にするため文部科学省は初めて大規模なアンケート調査を実施。
都道府県知事や市町村長、それに教育委員会や985の小中学校と1万人余りの保護者が回答しました。

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この中で、学校ごとの結果を誰が公表するのが適当か尋ねたところ、保護者の52%が「従来どおり学校だけが公表できるのがよい」と答え、公表するかどうかの判断を学校に委ねることが望ましいと考えている一方で、「教育委員会も公表できるようにしたほうがよい」として、一律に公表することを求める人も45%を占めました。

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また、▽学校と市町村教育委員会はいずれも80%近くが判断を学校に任せる今のやり方が適当だとしているのに対し、▽知事の場合、今のやり方を何らかの形で変えたほうがよいと考えている人が76%に上り、意見は大きく分かれました。
「従来どおり学校だけが公表できるのがよい」という人の理由で最も多かったのは、「学校や地域の序列化につながる」という意見でした。
また、「教育委員会も公表できるようにしたほうがよい」理由としては、「教育委員会には学校の状況について説明責任がある」が多くなりました。
東京・品川区の商店街で子どもを持つ母親にインタビューしたところ、「学校の成績が低いと分かれば塾に通わせることができるので公表してもらいたい」という人や、「1回でも低い結果が発表されれば、数字だけが先走り、レッテルを貼られると思うので公表は心配です」という人などさまざまでした。

会議では慎重意見相次ぐ

アンケートの結果を受け、10月21日に開かれた有識者会議では教育委員会による公表に慎重な意見が相次ぎました。

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都内の小学校の校長で全国の校長会の会長を務める委員は、「成績上位の校長名をホームページに掲載した静岡県では、自分たちの校長の名前がないのを見た児童が『成績が悪くてごめんなさい』と校長室に謝りに来たという話もある。子どもへの影響や序列化が心配だ」と話しました。
また、公表に前向きな委員は、「学校の実情をいちばんよく分かっている教育委員会が結果の公表にも責任を持つべきだが、平均点を並べることに意味はない。学校が抱えている課題や取り組みの成果を公表するなど工夫が必要だ」と指摘していました。

公表懸念する過去の教訓

学力テストの学校ごとの結果を一律に公表することが専門家などの間で問題視されているのは、過去に過度な競争を呼んだ事例があるためです。
文部科学省によりますと、昭和31年に「全国学力調査」というテストが、小学6年生と中学3年生、それに高校3年生を対象に始まりました。
当時、国は学校や都道府県の具体的な結果は一切公表しないと決めていました。
ところが、今回の有識者会議の座長で学校法人「奈良学園」の梶田叡一理事によりますと、学校や地域ごとの結果が流出し、報道されるなどして競争が激しくなったといいます。
成績が低い地域から高い地域へ越境入学するケースが相次いだほか、成績の振るわない子どもをテスト当日に休ませるなどの不正があったということです。
こうした事態を受けて「全国学力調査」は11年で打ち切られました。
6年前の平成19年、学力テストが43年ぶりに再開されましたが、過去の教訓から学校ごとの結果を公表するかどうかは学校の判断に委ねられているのです。

議論は“子どもたちのために”

序列化などの弊害を生まないような公表方法はあるのか。
有識者会議では具体的な学校名を挙げて平均点を明らかにするのではなく、学校の規模などでグループに分けて成績の分布を示したり、学習習慣と成績の関係を分析できるようにしたりといった工夫が必要だという意見が出ていました。
文部科学省は、11月に開かれる会議で、教育委員会による公表も可能にする案を示したいと話しています。

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学力テストの結果をどう活用するのか、忘れてはならないのは、このテストが“子どもたちのために”行われているものだということです。