石川和男の霞が関政策総研
【第2回】 2013年8月26日 石川和男 [NPO法人 社会保障経済研究所代表]

柏崎刈羽原発再稼働で利益効果は最大1兆円
それを原資に福島支援と料金値下げに充てろ

3期連続赤字回避に必死の東電
切り札は柏崎刈羽原発の再稼働

 8月13日付け日本経済新聞ネット記事などマスコミ各社の報道によると、東京電力・柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の運転停止が続いた場合、東電が2014年3月期の経常黒字を達成するには、14年1月に8.5~10%程度の電気料金再値上げが必要になるとの試算を、東電が金融機関に示したとのことである。

 東電は12年4月に企業向けを平均14.9%値上げし、同9月に家庭向けを8.46%値上げしており、再値上げに関して実際にどうなるかは全く予断を許さない。

 しかし、記事にもある通り、東電は12年5月の総合特別事業計画で14年3月期の経常黒字を見通しているが、経常赤字になれば3期連続となって金融機関が資金を引き上げてしまう可能性がある。

 東電がまず稼働させたいと考えているのは、柏崎刈羽原発6・7号機のようだ。報道によると、柏崎刈羽原発の停止が続けば、14年3学期の経常損益は8.5%の再値上げで均衡し、10%の料金再値上げで300億円程度の経常黒字となる。柏崎刈羽原発の停止が15年3月期まで続いても、8.5~10%の料金再値上げで2100~2300億円の経常黒字になるようだ。

 ところが、柏崎刈羽原発の再稼働に関しては、泉田裕彦・新潟県知事の反対で見通しはまったく立っていない。

火力発電所の計画外稼働で
約8500億円もの追加負担

 そんな状況も手伝ってか、東電については破綻処理論が叫ばれる場面が今でもしばしばある。しかし現実的に考えれば、1兆円の公的資金が注入された東電を政府が破綻処理することはおよそ考えにくい。

 12年の料金値上げは、柏崎刈羽原発などが稼働できないことに伴う火力発電所の計画外稼働に要する、追加化石燃料費の負担のためであった。

 筆者の試算によると、柏崎刈羽原発が稼働率85%で稼働していれば、12年度の燃料費は1兆9000億円であったところを、原発が停止していたために追加的に約8500億円の負担が発生した。即ち、東電の営業費用6兆300億円に占める燃料費の割合は、原発が計画通りに稼働すれは37%のところを、原発が停止したので46%に上昇したのだ。

 これにより、上述のように、企業向けで平均14.9%、家庭向けで8.46%の料金値上げとなってしまった。

 今回の料金試算に関する動きも、12年の料金値上げの際に想定していた化石燃料費では収まらず、柏崎刈羽原発の稼働が見込めないことに伴う火力発電所の計画外稼働に要する追加化石燃料費(13年度に柏崎刈羽原発が全く稼働しなければ約4100億円)の負担見込みを加えざるを得ないことによるものだ。

 このように、柏崎刈羽原発の帰趨は、東電の経営動向だけでなく、東電管内の一般消費者など電力需要家の負担動向も大きく左右する。そこで以下では、柏崎刈羽原発の運営が東電管内需給にどのような効果と影響をもたらすか、具体的なシミュレーションを行いながら示していくことにする。

◆資料1:柏崎刈羽原発の1〜7号機の配置図
 

◆資料2:柏崎刈羽原子力発電所1〜7号機の出力・運転開始時期

 シミュレーションの際に、定期検査周期が最も大きな要因であることから、それを幾つかの類型(13ヵ月、18ヵ月、24ヵ月)で区分した。この区分に関しては、現行周期が「13ヵ月」であるところを、震災前に「24ヵ月」にまで延ばすことが検討され、その手始めに「18ヵ月」から試行しようとの方針が固まっていたことを参酌した。また、定期検査の期間は「60日」と置いた。

独自試算で判明!再稼働で
最大1兆円の利益増効果

(1)柏崎刈羽6・7号機の稼働が14年1月から容認される場合

① 2013年度の効果

運転期間が3ヵ月のため定期検査はしないと想定すれば、稼働率は8.14%で、化石燃料費は▲929億円、利益増効果は871億円。

② 2014年度以降の効果

  イ) 13ヵ月周期(稼働率28.67%)の場合

 追加化石燃料費(年間3272億円分)が生じないこと等による利益増効果は年間3066億円。原子炉の寿命を40~60年とすれば、これをあと23~43年継続することが可能となる。

  ロ) 18ヵ月周期(稼働率29.76%)の場合

 追加化石燃料費(年間3396億円分)が生じないこと等による利益増効果が年間3182億円。原子炉の寿命を40~60年とすれば、これをあと23~43年継続することが可能となる。

  ハ) 24ヵ月周期(稼働率30.52%)の場合

 追加化石燃料費(年間3482億円分)が生じないこと等による利益増効果が年間3263億円。原子炉の寿命を40~60年とすれば、これをあと23~43年継続することが可能となる。

(2)柏崎刈羽6・7号機の稼働に続き、同1~5号機の稼働が14年7月から容認される場合

① 2014年度の効果

14年度の定期検査について、6・7号機は13ヵ月周期(検査期間60日)と想定し、1~5号は稼働期間が9ヵ月のため定期検査はしないと想定すれば、稼働率は79.0%で、化石燃料費は▲9010億円、利益増効果は8442億円。

② 2015年度以降の効果

  イ)13ヵ月周期(稼働率86.83%)の場合

 追加化石燃料費(年間9908億円分)が生じないこと等による利益増効果は年間9284億円。原子炉の寿命を40~60年とすれば、これをあと12~32年継続することが可能。

  ロ)18ヵ月周期(稼働率90.12%)の場合

 追加化石燃料費(年間1兆285億円分)が生じないこと等による利益増効果は年間9636億円。原子炉の寿命を40~60年とすれば、これをあと12~32年継続することが可能。

  ハ)24ヵ月周期(稼働率92.41%)の場合

 追加化石燃料費(年間1兆545億円分)が生じないこと等による利益増効果は年間9880億円。原子炉の寿命を40~60年とすれば、これをあと12~32年継続することが可能。

利益は福島復興の原資
政治決断で実現可能

 こうしたシミュレーションを提示すると、「安全性の確保を蔑ろにした、なし崩し的な原発再稼働はけしからん」、「十分な安全策を取らずに、何でもいいから原発再稼働させたいのか」、「安全確保よりも電力会社を儲けさせる方が大事なのか」といったようなヒステリックな反応が出てくると思われる。

 しかし、そういうことでは決してない。先に施行された原発の新規制基準に適合する工事、その他の手当てを同時並行で行うべきであることは言うまでもない。安全と経済を合理的に両立させていくための行政判断が必要だ。

 上記シミュレーションによる利益増効果分については、

①福島原発被災者支援・復興(賠償、除染)
②福島第一原発の適切な廃炉(汚染水対策等含む)
③政府への返済
④12年値上げ分の引下げの原資

 などへ適切に振り分けることとすれば、東電問題の克服への早道となるであろう。

◆資料3:原子力稼働率(主要国の推移・比較)

 上記のシミュレーションは、原発の稼働に関して技術的に可能な範囲で行ったものであり、政治判断さえあれば実現するものだ。尚、上記のシミュレーションにおける設定稼働率については、主要国における原発稼働率と比べても何ら違和感のあるものではない。

 もっとも、これは一つのシミュレーションに過ぎないので、政府や東電におかれては、今後速やかに公開の場で、より精緻なシミュレーションを行われたい。

 こうしたことを通じて、原発運営を早期に適正化するよう、安倍政権の早急な政治決断が切に望まれる。

(註:本稿のシミュレーション等で用いた全ての数値データは、政府資料や東電有価証券報告書などの公表資料を出所とする。)