IS〈インフィニット・ストラトス〉After the Days (ハルイ)
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筆者はアンチです。原作者によって書かれたキャラクター、機体が嫌いであり、設定に至ってはおよそ小説としては致命的に思えるほどに矛盾を孕んでいる点で。
ですので、本作は筆者が個人的な趣味で自己満足の下に、既にいくつか破綻している原作設定を再構築し、自分なりにメカ物として書いたものです。
以上を念頭に読んでいただければ幸いです。
ですので、本作は筆者が個人的な趣味で自己満足の下に、既にいくつか破綻している原作設定を再構築し、自分なりにメカ物として書いたものです。
以上を念頭に読んでいただければ幸いです。
第2話 一回戦
「…………」
「…………」
「……………………」
「さ、行こうか八雲ちゃん」
「…………はい」
ニコニコと満面の笑みを浮かべた紗稀に促され、八雲はため息をついて立ち上がった。
先ほどホームルームでクラス対抗戦の代表を決めたのだが、紗稀が言った通り誰も立候補せず、結局八雲が他薦されて代表に決まったのだ。
昼休みの食堂は混み合っていたが、何とか席を見つけてそこにトレイを置く。
「食べたらすぐにアリーナを予約しないとね」
そう言う紗稀は、まるで万馬券や宝くじの一等を確信したギャンブラーのような恍惚とした表情をしていた。既に八雲が優勝して食堂のデザート半年フリーパスを獲得した気でいる。
……いや、「次は式場の予約だね」と輝かしい未来を夢想する花嫁のようでもあるかな。私にとっては人生の墓場みたいなものだし。
色々納得いかないながらも、仕方がないので腹を括る。決まってしまった以上、八雲は戦うしかないのだから。
「あ、見て八雲ちゃん」
ふと正気に戻った紗稀が言った。その方向に八雲が目をやると、そこには赤毛を結い上げた長身の女生徒がいた。
「あの人、代表候補生かな」
「うん。アメリカだね――っと」
慌ててテーブルに目を落とすが間に合わず、その少女は八雲を見つけて闊歩してきた。足が長いので一見するとファッションショーのモデルのようだが、しかし細部に顕在しているのはむしろ、機能美的なものだった。
「ヤー! カンザキヤクモだったかな?」
八雲たちのテーブルまでやってきた赤毛の少女が快活なハスキーボイスで八雲に声をかけた。どうやら顔と名前は知られているようなので、八雲も相応の態度で応じることにする。
「……はじめまして、リンダ・シャーゴールド」
「隣いいかな?」
「あ、どうぞどうぞー」
アメリカの代表候補生リンダは紗稀に席を勧められ、「サンキュー!」と言いながら八雲の隣の空席に腰掛け、持っていた二つのトレイを置いた。どちらにも、これでもかというほどの食べ物が和洋など問わず載っている。
……まぁ、それだけ食べてればこのくらいの身長にはなるか。170センチ台後半……かな。
「たくさん食べるんだねー」
「あはは、ジャパニーズが少食過ぎるんだよ。日本のご飯はこんなに美味しいのに。ここにくる前の食事なんて豚の餌みたいな物だったから、ワタシは感動したよ?」
豚の餌って。
「……いや、豚の方が良い物食べてるか」
ボソッと、朗らかな声音から一転して真剣なトーンで呟くリンダ。
……ホント何食べて生きてきたんだ。
「ところでヤクモ」
「何?」
真顔からさらに一転、早速凄まじい勢いでサンドイッチを口に詰め込み始めたリンダを目を丸くして見ていた八雲に、リンダが言った。
「クラス対抗戦、楽しみだね!」
専用機持ちが専用機持ちにこう言うということは、完全に対抗戦に出るとタカを括っているのだろう。
ノーって言って驚かせてもみたかったな。
思いながら八雲は答えた。
「いや私はそんなに――」
楽しみじゃないよ。
八雲が日本人には珍しくはっきりノーを突きつけようとした所で、紗稀が被せるように言った。
「うっふっふっふ、優勝はうちのクラスがもらうよリンダさん!」
「オーゥ、自信満々だね! けど、優勝するのはワタシだよ」
「どうかな? 日本にはまだサムライがいるってことを教えてあげるよ」
「さささサムライ……!? ふ、ふん! ワタシはサムライなんて怖くないからね!」
「そうだね――怖くなるのは試合の後だもんね……?」
「…………‼︎」
八雲本人の知らない所で勝手に紗稀がリンダの気を呑んでいた。
というかリンダ、サムライにビビり過ぎ。
未だにアメリカ以外の国でも「サムライ」「ニンジャ」がいると信じ込んでいる人は多いらしいが、かといって無責任に煽られるのも問題だ。
「まぁ、他にも代表候補生はいるしね。試合で当たればいいけど」
八雲が言うと、サムライを頭から振り払うようにリンダがそっちの話に食いついた。
「そうだね! 負けたらダメだよ?」
「ん……それは大丈夫だよ」
八雲は言った。
「やるからには、負けるつもりなんて毛頭ないから」
「……いいねぇ」
八雲の表情を見て、リンダがニヤリと笑う。
「やる気があるのはいい事だよ?」
「どうも」
事も無げに返し、八雲は鶏の唐揚げを噛み砕いた。
「ヤクモは他の代表候補生にはもう会った?」
「初日の午前にそんな濃いイベントはなかったよ……イギリスのアリシア・エインズワースと中国の王美雨、だっけ」
八雲が言うと、リンダは今度は口いっぱいに詰め込んだ炒飯を呑み下して頷いた。既に、大量の食糧な半分近くがなくなっている。
おかしい、ついさっきは紗稀のあることないことに萎縮してたのに。まさか、その間も食べる手を止めなかったのか……?
「そうそう。特にアリシアはね、すんごいらしいよ」
「すんごいって」
「イギリスのIS開発関係者内部では、皆一様に『天才』って呼んでるらしいからね」
何で内部の人間の呼称を外部の人間の癖に知ってるんだよ……。
「天才、ねぇ……」
しかし興味深い言葉でもあるので、反芻しながら呟いてみる。
未だ未開発の部分が多い未知のテクノロジーを扱う上で、現在「天才」と称されているのは元凶、もとい開発者の篠ノ之束だけだ。それを考慮して内輪だけの呼び名にしているのかもしれないが、しかし天才とは。
「で、王美雨の方は?」
「何が?」
「何がって……噂とかだけど」
「ないよ」
あっけからんと言うリンダ。
「あってもタカが知れてるし」
それ、結構フラグだと思うんだけどな……大丈夫かな?
そんな八雲の表情を読んだのか、ヒラヒラと手を振ってリンダが言った。
「技術も教育もまともに進んでない中国からそんな麒麟児が出たら、それこそ大騒ぎだよ。それに中国が対外に開示してる情報では、王美雨の専用機の鳳仙は量産型の先行試作機だからね。あっちの量産型なんて、性能の程度も大したことはない」
バッサリと切り捨てられていくまだ見ぬ王美雨に、さすがに同情した。
「何であれ、眠れる虎なんて寝言をほざくならまともな成果を出してからにして欲しいよねぇ。口先だけの第三世代なんて、もう見飽きたよ」
そう言いながら、リンダはエビチリの海老をフォークで突き刺した。
学年別クラス対抗戦当日。
IS学園第三アリーナの格納庫に佇み、八雲は視線を自分の手首に落とした。銀と黒のリストチェーン――八雲の専用機の待機形態だ。
『神崎さん、準備はいいですか?』
「……はい」
教師に訊かれ、八雲は深呼吸してISに意識を集中し、全身にISアーマーを展開する。
第三世代型IS・叢雲。銀と黒を基調としたアーマーで、腕部と脚部は細身であり、他のISにあるような背面の大きなオートクチュールは存在していない。
これから初陣……初めての実戦だ。
目を閉じ、八雲は改めて自分に言い聞かせ、目的を確認する。
私はここに戦いに来た。一人で生活していくために代表候補生の資格得て、ISを使うことを生業とし、それが模擬戦であれ戦争であれ、要求される以上はISに乗って戦い続ける。それが私が決めた生き方だ。
模擬戦のルールは簡単。IS操縦者の命を守るバリアーがなくなったら負け。つまり負けは死と同義だ。そして八雲は死ぬつもりなどない。
ならば、戦って勝つしかない。相手の絶対防御――命を削って。
八雲は格納庫から飛び出した。対戦相手である中国の代表候補生・王美雨(ワンメイユイ)は既に空中に浮遊して待ち受けていた。
叢雲が美雨のISを分析する。
中国の第三世代IS、鳳仙(フォンシェン)――カタログでは量産を視野に入れた機体で、先行試作機のような位置どりとして紹介されていた。目に見える武装は、手に持つ長槍と背面の砲身。
八雲は叢雲のメインウェポンであるトンファー型の実体ブレードを呼び出し両手に握った。視界にはISのコンディションが表示され、叢雲の機能が問題なく稼働していることを告げている。
『試合――始め!』
アナウンスが鳴り響き、試合が始まった。美雨は冷静に長槍を腰だめに構えこちらの出方を窺っている。確かに、どちらも互いのISについて持っている情報は少ない。警戒は間違った判断ではない。
八雲はだらりと腕を垂らして自然体になった。
叢雲の情報は外部に一切開示されておらず、その点では叢雲は一つアドバンテージを持っている。それを生かした戦法はあるが、それが通用するのはほぼ一度きり、外せば終わる。そしてそれを出し惜しみする程、八雲は人生を舐めていない。
八雲は唐突に、ふっと右に視線を振った。その動きに、美雨の目も釣られる。
――掛かった!
美雨の意識が一瞬、半ば無意識に八雲から逸れた瞬間、八雲は左に猛然と身体を傾けて飛び出した。美雨もすぐさまそれに反応して八雲を追おうとする。リンダは中国では人材が育っていないと言ったが、それでも相手は一国の代表だ。能力はある。しかし、少なくとも今回は八雲がそれを上回った。
一瞬で急加速した叢雲を追尾しようと、美雨の視線は大きく動く。あまりの瞬発力に、美雨は訓練時の経験から、反応の遅れを予測で補い叢雲を補足しようとしたのだ。だが叢雲は美雨の経験にはない瞬発力で急制動をかけ、息つく間もなく切り返し、右に動く。
二段構えのフェイントで完全に美雨は完全に標的を見失った。その隙を衝いて八雲は美雨の死角から肉薄し、鳳仙にブレードを叩きつける。
「ぐっ――!?」
咄嗟に美雨は攻撃を防ぐが、その時には既に八雲の次の一撃が鳳仙を襲っている。刃がアーマーに直撃し、そのシールドエネルギーを削った。
「――――!」
鋭く息を吐き、八雲は間髪入れず立て続けにブレードと蹴りを繰り出し、反撃の暇を与えず攻めたてる。リーチの長い槍では至近距離戦に対応しきれず、鳳仙は叢雲の手数に圧倒される。が、一際強い一撃で鳳仙が吹き飛ばされ、叢雲と鳳仙の間に間合いが生じた。
その一瞬を見逃さず美雨が鳳仙の大口径グレネードを展開するが、叢雲は圧倒的な反応速度で接近し、砲弾が発射されるより先に膝から足の甲までレーザーブレードを放出してその砲身を蹴り砕く。そしてその回し蹴りの回転を利用して鳳仙に踊り掛かり、両腕のブレードで鳳仙のシールドを刻んだ。
『試合終了――勝者、神崎八雲』
ブザーとアナウンスが鳴り響き、八雲は呼吸を整えた。
常に相手に反撃を許さず攻め続けること。それが叢雲の瞬発力と機動力を生かすための戦法だ。それには八雲自身の身体能力と体力が必要とされる。
両者は互いに一礼し、それぞれの格納庫に戻った。そこで叢雲を待機状態に戻し、八雲は用意しておいたタオルで顔の汗を拭った。
八雲が正式に日本の代表候補生としてIS学園に入学するのが決まったのが、十月のこと。
その時倉持技研は白式と打鉄弐式の開発で人手がなかった。そして、八雲は内心それを喜んだ。ISは装着者を理解して、それに合った進化をしようとする。なら、最初から自分の操縦しやすいように機体を組んだ方が良いに決まっているではないか。代表候補生になる勉強をしている時からそう思い、一人で技巧の勉強もしていた八雲は、かねてから決めていた命題を元に独自に機体を構築した。
その命題とは、機体の反応速度だった。
初めて訓練で打鉄を装着した時の感覚は「重い」だった。八雲が意識するよりもワンテンポ遅れてアーマーが八雲の意識上の動きに追随する。ただの重りでしかなかった。だから、そういうのがない機体を作ることにした。
レスポンスに長じた機体なら機動力を生かした方が良く、平均以上の成績は取ったが射撃は感覚的に馴染めなかったので近距離特化をコンセプトに設計を始める。
まず、機体はスリムかつシンプルに。元から自分の身体に無いようなパーツには何となく違和感を感じていた。また、手足もできるだけ細身で、最低限の機構だけにするよう心がける。ISはあくまで自身の手足の延長なのだ。そして最後に、八雲は倉持技研の過去のデータ等から、あるイメージインターフェイスの簡易版を構築した。そう難しいものではなく、ごくごくシンプルなプログラム。それだけで良い。ベクトルの方向だけ定めておけば、あとはISのコアがその方向に伸ばしてくれるはずだ。
八雲は雛形の叢雲のフィッティングを行い、その結果、八雲の動きの癖を理解してファーストシフトを遂げた。
最大の特徴は、腕、脚、背中、肩、腰の装甲に組み込まれた小型のブースターだ。噴射時間が短いが、最高速度とそれに至るまでの加速力が極めて高く、スタッカートのように短く切るような高速・短距離移動ができる。
そして、そのブースターを八雲が感覚的に使いこなすためのイメージインターフェイス。
これらを併用し連続してブースターを吹かすことで、適宜進行方向を修正しながら高速移動できる。急発進・急制動・急旋回も、他のISを上回る精度で可能だ。
その分ピーキーな基本性能になっている上、装甲の中にブースターを組み込んだため装甲が薄くなり、衝撃に対する抵抗力が低くなっている。そして、八雲の感覚に合わせているため、八雲以外の人間では(仮に叢雲を装着できたとして)扱うどころか整備も難しい代物となった。
八雲がインターフェイス、アーマーの関節などを点検していると、格納庫にリンダが入ってきた。
「初戦突破おめでとう、ヤクモ!」
快活に笑いながらバサバサと威勢よく制服を脱ぎ、リンダはその場で着替えを始めた。下にISスーツを着ている訳でもなく、一からの着替えだ。
オープンだな、アメリカ人……。
八雲がさりげなく目を逸らすと、ISスーツを頭から被りながらリンダが言った。
「随分と面白い戦い方してたね!」
「面白い……?」
「日本では何て言うんだっけ……鬼強い? 鬼強かったよ!」
鬼みたいにって言いたいのかそのままそういう言い方を誰から聞いたのかは知らないけど、女の子相手に使う形容詞じゃないんだよなぁ……。
少し、女子としては複雑な気持ちだ。
「同じ代表候補生の専用機をあんな一方的に倒すなんて!」
「あれは完全に騙し討ちだったから」
それに、ボロクソに貶していたのは自分だったろうに。
「騙し討ちでも完封したってことはそれだけ強いってことだよ。それに、ISであんな動きしてるの見るの初めてだったしね!」
確かに、叢雲のような小刻みな動きをするISはそういないだろう。
「それはどうも、驚いてもらえたようで嬉しいよ。ブルズ・アイの試合、楽しみにしてる」
「やー、何だか照れ臭いね!」
既に裸体を晒しておきながら、今さら何に照れるというのだろうか。
リンダは着替えを終え、大ぶりのバックルのベルト――待機形態のISを指でコツコツと叩いた。そしてアメリカの第三世代型IS、ブルズ・アイが装着される。
スラスターが増設されて膨らんだ脚部と大型の背面武装が目立つ、ダークブラウンの機体だ。シルエットは叢雲とは対極といえる。
「相手はアリシアとエアロ・ハートだよね」
「天才」と、それと対峙するリンダと戦い方はかなり興味深い。
「相手が何だろうとワタシができるのは一つだけだよ。それしか能がないからね」
楽しげに笑い、リンダは格納庫から飛び出してアリーナに出た。格納庫のディスプレイでその様子を見守る。ややあって、反対側の格納庫から紅と黒の機体が出てきた。本体アーマーはブルー・ティアーズに酷似しており、背中には追加スラスター、肩付近にも一対の盾のような装備がある。
エアロ・ハート、イギリス製第三世代型ISだ。同じイギリスのISブルー・ティアーズとの共同運用が前提であり、ブルー・ティアーズの、その最大の特徴たるビット使用時に無防備になった本体の援護を目的としている。
そんな支援機を使い、天才がどのような戦い方をするか。
八雲が固唾を呑んで注視し、試合が始まる。
先に動いたのはリンダのブルズ・アイだった。オートクチュールを展開し、多数の小型ミサイルを驟雨のように放つ。エアロ・ハートは後退し、急上昇してミサイルの大半を振り切り、中距離用レーザーライフル、スターライトmkⅡと実弾のアサルトライフルの正確な射撃で残ったミサイルを次々と撃ち落とす。
その間にリンダはさらにアリシアから距離を開け、スナイパーキャノンを構え照準を合わせた。アリシアがそれに気づくが、時間差で放たれたミサイルが上空から降り注ぎ、それに対する回避行動を取る。
こうして多数のミサイルで相手を追い込んだ所で、ブルズ・アイのスナイパーキャノンが火を噴いた。アリシアそれを辛うじてかわす。リンダはさらに発射するミサイルの数を増やし、エアロ・ハートを牽制した。
「…………うっわぁ」
アリーナ上空に無数の炎の花開くのを見ながら、八雲は呻いた。
「金掛かりそうだなぁ……」
ミサイルって結構高いのに……。
湯水のように金が散っていくように見え、八雲は胸焼けを覚えた。
当たらない。
リンダはスコープを覗き、引き金を絞った。しかし弾丸は何もない空中を通過する。
リンダとブルズ・アイの戦法は極めて単純だ。ミサイルの飽和攻撃で戦闘の主導権を握り、「決め手」で相手を確実に削る。
しかし、アリシアは極めて高度な操縦技術でそれをかわしている。しかも、圧倒的多数のミサイルを動揺することなく撃墜している。
……肝が据わってるというか、冷静だねぇ。
泰然とその姿勢を崩さないエアロ・ハートを見て、リンダは不敵に笑む。
それなら、第二段階だ。
リンダはブルズ・アイのオートクチュール、ダウンポアーをさらに臨界させた。この装備は幾種類ものミサイルを搭載しており、随時それを切り替えられる。
どうしてもかわしきれない限りは回避しようとする、アリシアのその性向を利用する。
ミサイルが発射され、アリシアは今までと同様にミサイルを引きつけ、急な方向転換で撒こうとする。しかし、一定距離まで近づいたところでミサイルが突如爆発した。近接信管ミサイルだ。
その爆風で僅かに動きが止まった所に、さらにミサイルが襲いかかる。直進性の高い高速ミサイルが二発。これも近接信管型だが、先ほどのものとは違い、大規模なエネルギー爆発を起こす。そこにさらにパルスミサイルを撃ち込みエアロ・ハートの足を止め、リンダは空中から引き摺り出したレールキャノンを撃った。弾速破壊力共に一級品のその一射が確実にエアロ・ハートを捉える。が、爆炎の中から現れたのは無傷のエアロ・ハートだった。両肩の装備が展開されており、そこからエネルギーシールドが放出されている。
ブルー・ティアーズを守る盾か……!
機体コンセプトを体現した装備で難所を乗り切り、エアロ・ハートが両手のライフルを構える。
リンダは使い捨ての砲身をパージし、新しいものを接続して撃った。しかし、捻りのない射撃は易々と回避される。
再びミサイル戦法を採り、リンダはクラスターミサイルと近接信管ミサイルを発射した。
反撃できないほど攻め立ててやる!
より一層激しいミサイルの嵐がアリシアを襲う。爆炎爆風爆煙が立ち込めるが、エアロ・ハートは回避とライフルの応射でそれを凌ぎ、そして――
「――――ッ!?」
リンダは咄嗟にその空域から飛び退いた。先ほどまでリンダがいた場所を、ライフルの弾丸が通り過ぎる。
撃ち返された!?
驚愕するが、それと同時に弾幕を増やす。訓練やシミュレーションで試行錯誤した、最も回避されにくいミサイル群の種類と数の構成。しかし、その回避と撃墜の合間にも実弾とレーザーがリンダを狙って、恐ろしいほど精密に飛んでくる。
攻勢に出ていたはずのリンダはいつの間にか回避に徹していた。オートクチュールの機能でミサイルは設定した通りにミサイルを撃ち続けている。しかし、アリシアにミサイルが当たらないどころか、そのアリシアからの射撃のほとんどがブルズ・アイを掠め、じわじわとシールドエネルギーを削っていく。
やがてリンダは気づいた。自分のミサイル攻撃が予測されていることに。十数種類ものパターンで攻撃しているが、アリシアは規定のコースを飛行するように涼しげに空を泳ぐ。そして悠々と銃を撃つ。
相手の攻撃をほぼ完全に予測するずば抜けた判断力。冷静で抑制された精神と集中力。そして類稀な操縦技能。これらを併せ、アリシア・エインズワースは「天才」なのだ。
……なるほど、勝てない。
試合終了のアナウンスが鳴り、リンダは格納庫に戻った。
ニコニコでISをザッピングして思った。白式ってあれ近距離特化か?ACやってた身からすれば、あんな砲撃してる機体が近距離特化とか片腹痛いわ。しかも何だよ「だから敢えて至近距離で叩き込む(ドヤッ」って。んなことする暇あったら一撃必殺(笑)当てろよ。