特集・文化を紡ぐ「道」VOL.6―[武雄市]
幕末、蘭学を取り入れ、大砲鋳造など近代化を進めたのは佐賀10代藩主・鍋島直正の功績が大きいと言われてきた。しかし、直正をそこへと先導したのは長崎警固の失敗と、佐賀藩武雄領領主・鍋島茂義の存在があったからこそ。
1808年、鎖国時代、イギリス軍艦フェートン号がオランダ船を偽装して長崎に入り、食料などを奪ったフェートン号事件。当時、長崎警固に当たっていた佐賀藩は藩主・鍋島斉直が閉門、番頭2人が切腹。当時8歳だった茂義の心にも事件の雪辱、名誉回復の気持ちが育っていった。茂義は西洋の砲術研究や軍隊様式に目を向け、西洋砲術の第一人者・高島秋帆(しゅうはん)に家臣を入門させたほか、自身も積極的に学ぶようになる。1837年には、武雄市真手野で砲術訓練を行い、茂義自ら大砲を試している。当時、日本人として初めて鋳造したモルチール砲を高島秋帆が武雄に待ち込んだ。今も貴重な資料として武雄市図書館・歴史資料館の「蘭学館」に展示されている。
1840年には神埼市の岩田の台場から日の隈山に向けて武雄の砲術を披露。その成果を目の当たりにした直正は西洋砲術導入を決め、これがきっかけで佐賀藩で大砲鋳造が行われることになった。理化学研究所である精煉方が設置され、蒸気機関の研究も行われ、佐賀では幕府も一目置く近代化が進んでいく。
茂義は23歳から佐賀藩の家老を務め、16歳年下の直正のよき兄貴分でもありブレーンの1人だったという。そんな関係から直正が藩主になったころから、茂義の蘭学研究が非常に活発になる。研究に使うものを長崎から取り寄せている。それがわかるのが「長崎方控」。武雄鍋島家に伝えられる資料で、武雄領主の買い物帳。長崎でオランダや中国から輸入した鉄砲、火薬、蘭書、薬品、植物など砲術や理化学研究に必要なものや、地球儀や天球儀などさまざまな注文や、それを使って実験をしたメモなども記されていて、武雄の蘭学導入を克明に示す貴重な資料になっている。武雄に取り寄せたものの中には「赤ワイン」「コーヒー」「多葉粉(たばこ)」などの個人的な嗜好品も含まれる。海外への興味がどんどん広がったようだ。
しかし、その費用はどこからきたのか。武雄領はわずか2万7千石。「おそらく、本藩から出ていたと思うがはっきりしない。おそらく懸硯方(かけすずりかた)いわゆる機密費からと思われる」と武雄市図書館・歴史資料館の川副義敦(よしあつ)さん。
「もし、長崎警固の失敗と鍋島茂義がいなかったら、佐賀の近代化は違ったものになっていた可能性もある。理論だけでなく実践的に研究をやって近代化に導いた茂義が与えた影響は大きい」。
「茂義は臨終に際し、短くてもあきらめずに一生懸命に生きることが大事と言っている。蘭癖に違いないが、それを超えた興味や疑問を持ち研究をした蘭学導入の立て役者だ」と話す武雄市図書館・歴史資料館の川副義敦さん。
[左]佐賀藩への蘭学導入に心血を注いだ武雄の領主鍋島茂義(1800〜62)。31代目当主の鍋島綱麿が、武雄鍋島家の絵師であった広渡三舟(1841〜1931)に依頼して描かせたものである。
[中]コンパツ 〈江戸時代後期〉
製図用具として、武雄に残る大砲設計図の書写などに使用された可能性が高い。
[右]地球儀 〈オランダ製・1745年〉
オランダ・アムステルダムのファルク工房で製作された。球面にはヘラルト・ファルクとレオナルド・ファルク父子の名が記され、1745年製と記銘される。ファルク工房製作の天球儀・地球儀の球儀が残る例として、また、来歴も明らかな資料として極めて貴重である。
[左]赤葡萄酒瓶 〈江戸時代後期〉
赤葡萄酒の瓶が全部で7本残されている。瓶の形状は微妙ながら異なり、それぞれが手づくりであることがわかる。
[中]フランス枕 〈フランス製・19世紀〉
「フランス枕」と呼ばれるネジ巻式の置時計。専用の窓付きの箱に収納され、細密な唐草様の文様と金メッキが施されている。
[右]茂義公皆春齋御絵具・絵道具類 一式 〈19世紀中期〉
「皆春齋」は、武雄領主鍋島茂義の雅号。武雄には、豊富な種類の岩絵具が残る。
[左]オランダ王国軍歩兵教練演習規則〈1832〜1835年〉
[中]モルチール砲〈天保6(1835)年〉
日本人手によって鋳造された最初の西洋式大砲で、その形から臼砲とも呼ばれる。【武雄市重要文化財】
[右]天体望遠鏡 〈オランダ製〉
オランダ・アムステルダム製の屈折望遠鏡。砲術訓練や長崎警護などに用いるために輸入されたものであろう。
ショメル 日用百科事典 正続16巻 〈1778,1786〜1793年〉
※写真は全て、武雄鍋島家資料 武雄市蔵
特集・文化を紡ぐ「道」VOL.6―[武雄市]
武雄藩の蘭学研究の資金源になったのが「懸硯方(かけすずりかた)」。いわゆる機密費といわれているが、その収入の一部になったのが武雄温泉の入湯料だ。機密費だけに武雄温泉がどのくらいの収入を得ていたかはわからない。しかし、収入源にするほどの懸硯方、大勢の入湯客で賑わっていたのではないだろうか。
武雄温泉は730年ごろに書かれた肥前風土記に初めて登場する。ただし険しい場所に温泉がわき出ていて人はなかなか近寄れなかったとある。
その後、記述に出てくるようになるのは豊臣秀吉が朝鮮出兵のころ。湯治場として整っていたわけではないが、兵士が傷を癒やす一種の保養地になっていたようだ。秀吉は兵士に対して「朱印状」を出し、「湯賃を5文払いなさい」とか、地域住民に迷惑をかけることを禁じるおふれを出したという。
現在の武雄温泉は、1242年、武雄で静養していた聖一国師に帰依した領主・後藤直明が、建立した広福寺の広大な境内に温泉を開いたことが始まり。今でも正月元旦には「初湯の式」があるが、国師が元日の朝、お経をあげて湯を清めたことに由来するという。
江戸時代、武雄温泉は武雄領主の所有物で、身分に応じて湯船も入湯料も違っていたそうだ。領主や家老が利用した湯船「殿様の湯」「家老の湯」が残り、今では誰でも平等に楽しめる。当時は温泉周辺には宿屋や商店が軒を連ね、旅人や地元の人で賑わっていたという。シーボルトや、幕末には新撰組と袂をわけた伊藤甲子太郎が武雄温泉を利用しているが、長崎街道は人ばかりでなく、オランダなどから輸入した珍しい品々も武雄領に届けた。歴史ある温泉で旅の疲れを癒やしつつ、歴史を楽しんではいかが。
車がない時代、荷物は牛馬の背で運搬されていた。「新町」にあるかつての問屋にはつなぎ場の跡が残り、長崎街道の面影を色濃く残している
[左]高札場が設けられて、布告法令などが掲示された「札の辻」を曲がれば、そこは武雄温泉街
[右]江戸情緒を伝える宮野町の「宮の町夢本陣」。長崎街道には嬉野宿と塚崎(武雄)宿の2つの湯宿があった
[左]鍋島茂義の別邸跡の「御船山楽園」。4月中旬から5月上旬には色とりどりの20万本のツツジが咲き誇る
[右]歴代武雄鍋島藩主の菩提寺である「円応寺」。鍋島茂義の墓もここにある。参道に続く桜のアーチは見もの
[左]藩主が使った「殿様の湯」。身分の違いで湯船も違ったという
[中]武雄温泉のシンボル「武雄楼門」。東京駅を設計した唐津出身の辰野金吾がつくった
[右]1242年開創の「広福寺」。寺には鎌倉時代、運慶作と伝えられる木像四天王立像があり、国の重要文化財になっている
武雄市や周辺地区の取れたて野菜や、つけものなどの加工品、焼きものなど武雄ならではの商品や、県内各地の商品、西九州のお土産品も豊富にそろい、アジアの市場のような選ぶ楽しさがいっぱいの武雄温泉物産館。武雄育ちのレモングラスを使ったお茶やスイーツが人気。
自然あふれる地元の新鮮な野菜と、米、肉、魚をふんだんに使用した料理がテーブルに並びます。昼は90分、夜は120分制のバイキングで、種類も多過ぎず、ちょうど良い品数。焦らないでゆっくりできるスペース。ご宴会だけでなく、赤ちゃん連れのママにもゆっくりお食事していただけます。
武雄・北方ちゃんぽん街道
武雄・北方地区はその昔「炭鉱」で栄えた町。「炭鉱」で働く男たちに愛されたのが、ボリュームたっぷりの「ちゃんぽん」でした。その味は受け継がれ、いつしか『武雄・北方ちゃんぽん街道』と呼ばれる様になりました。今も、サラリーマンやドライバー等「働く男」たちの胃袋を支えています。
大町たろめん
大町たろめんは、炭鉱時代、多くの炭鉱マンに愛されていた逸品です。その秘伝の味を復活させ、現在大町町内8店舗で提供しています。うどん麺に豚肉やキャベツなどの野菜がたっぷり入り、牛骨等を使用し、しょうがの味がきいた独特のスープが特徴です。一度食べたらやみつきになる味です。
佐賀県には、活きのいい魚に、
軟らかいお肉、みずみずしい野菜など、
日本国中どこにも負けない
おいしいものがいっぱい。
ローカルで育った「ご当地グルメ」を
食べ尽くしませんか。
レモンに似た香り、
清涼感が広がる
武雄の棚田育ちのレモングラス
温泉や焼き物の里として知られる武雄市。その中山間地、標高約300mにある棚田には7月〜10月まで細長い葉のレモングラスが揺れる。農薬や化学肥料を一切使用せず、武雄の自然と水、農家の愛情によって育まれ、香り・色・味それに安全の4つが揃った武雄市自慢のハーブだ。和名「コウヤスイカヤ」の通り、一見するとカヤのようにも見える。
レモングラスはレモンと同じ香りの成分を持ち、リラックス効果や新陳代謝を高め、消化機能を助けるといった効果がある。タイではトムヤムクンといった料理にも良く使われるが、まずはお茶にして味わったほうが親しみやすい。レモングラスをポットに入れ、青臭みを取るために1回熱湯を通す。そこに熱湯を加え、待つこと5分。これでクリアな黄緑色とレモンに似た香りが充分に引き出され、飲めば爽やかな清涼感が口に広がる。最近は緑茶やコーヒーとブレンドした飲み方もある。まずはレモングラスのみでお試しを。