名張毒ぶどう酒事件 最高裁再審退ける10月17日 18時48分
52年前、三重県名張市でぶどう酒に農薬が入れられ、女性5人が殺害された「名張毒ぶどう酒事件」で、最高裁判所は87歳の死刑囚が再審=裁判のやり直しを求めた特別抗告を退ける決定をしました。
「名張毒ぶどう酒事件」は、昭和36年に三重県名張市の地区の懇親会でぶどう酒に農薬が入れられ、女性5人が殺害されたもので、1審で無罪、2審で死刑となった奥西勝死刑囚(87)が無実を訴えて再審=裁判のやり直しを求めてきました。
最高裁判所は3年前に農薬の鑑定に疑問があるとして、改めて審理するよう命じましたが、名古屋高等裁判所が、去年、新たな鑑定結果などをもとに申し立てを退けたため、特別抗告していました。
最高裁判所第1小法廷の櫻井龍子裁判長は「高裁の鑑定結果や、その後提出された検察の意見書などから犯行に使われた農薬と本人が保管していた農薬が同じものだと判断できる」などと指摘して、17日までに特別抗告を退ける決定を出しました。
この結果、1審で無罪、2審で死刑となり、再審請求では最高裁がいったん審理を差し戻すという異例の経過をたどった事件は、再審を認めない判断が確定しました。
奥西死刑囚は、現在、東京の医療刑務所に移されていますが、弁護団によりますと、ことし、一時、危篤状態になるなど健康状態が悪化しているということです。
最高裁判所が再審を認めなかったことについて最高検察庁の松井巖刑事部長は「科学的知見に基づき証拠を的確に判断した適切な決定だ」というコメントを出しました。
異例の経過たどった裁判
「名張毒ぶどう酒事件」は発生から50年を超え、この間、死刑と無罪の間で裁判所の判断が揺れ動く異例の経過をたどりました。
「名張毒ぶどう酒事件」は、昭和36年に地区の懇親会で出されたぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡し、12人が中毒になったもので、奥西勝死刑囚(87)が殺人などの罪に問われました。
昭和39年の1審判決は「捜査段階の自白が信用できない」として無罪を言い渡しましたが、2審では逆に死刑となり昭和47年に最高裁判所で死刑が確定しました。
奥西死刑囚は無実を訴えて再審を繰り返し求めました。
これまでに7回の再審請求が行われ、平成17年には名古屋高等裁判所が「農薬の種類が自白と一致しない疑いがある」として、いったん再審を認めましたが、翌年、名古屋高裁の別の裁判官が、逆の判断を示して再審を取り消しました。
しかし、最高裁判所は3年前、「農薬の鑑定には疑問があり、事実が解明されていない」と指摘して審理のやり直しを命じました。
これを受けて、農薬の鑑定が行われましたが、名古屋高裁は去年「農薬が別のものとは言えない」として改めて再審を認めない決定を出したため、弁護団が最高裁に特別抗告していました。
その後も弁護団と検察からは、農薬について、それぞれの主張を裏付ける専門家の意見が提出されていました。
事件忘れられない
再審を認めない判断が確定したことについて、ぶどう酒を飲んだ被害者で、一時、意識不明になった神谷すず子さん(86)は「もっと早く終わってほしかった。事件のことは今でもはっきり覚えていて忘れることができません」と話していました。
また現場に居合わせて目の前で姉を亡くした神谷武さん(75)は「判決がひっくり返ることはないと信じていた。家族を亡くした人たちはみんなばらばらになり、惨めな思いをした」と話していました。
これからも支えていく
およそ10年前から奥西死刑囚との面会を続けるなど再審請求の支援をしてきた稲生昌三さんは「最高裁の決定は本当に残念だ。再審の決定を信じて頑張ってきた奥西さんを思うと非常につらい。あす面会して『これからも支えていくので頑張りましょう』と伝えたい」と話していました。
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