クローズアップ2013:伊豆大島土石流1週間 台風警戒、低い意識 町、未明まで反応鈍く
毎日新聞 2013年10月23日 東京朝刊
甚大な土石流被害は、火山や地震への備えを整えていた東京都大島町(伊豆大島)で起きた。災害対策の盲点を襲った台風26号による被害を拡大させたものは何か。その背景を探ると、土砂災害に対する町の警戒意識の低さが見えてきた。
「明日は忙しくなるぞ。早く家に帰って、風呂でも入って休んで来い」。15日夕。川島理史町長、原田浩副町長が出張中の大島町役場では、職務代行者の教育長を筆頭に各課長らが集まり、接近する台風26号への対応を検討していた。
結論は「全員帰宅、午前2時再集合」。総務課長が「私がやります」と現場指揮役に名乗りを上げ、午後4時7分、電話で町長から了承を得た。
町幹部によれば、週末を含む10月1日までの3日間は東京国体への対応で職員は出ずっぱりだった。「正直部下を思いやる気持ちもあった」。今までの大雨の際も上司に同じ言葉を掛けられてきたという。
職員は午後6時半までに順次、役場を離れた。留守番役は置かなかった。「警備員がいるし、異常があれば総務課長と同課防災係長に連絡を取ることになっていた」(町幹部)。
しかし結局、総務課長が出勤するまでの「無人状態」が生まれ、土砂災害警戒情報のファクスも放置された。
その頃、川島町長がいたのは、火山活動などの痕跡が残る場所を抱える自治体で構成する「日本ジオパーク隠岐大会」が開かれた島根県隠岐の島町だった。参加を見合わせる選択肢について、大島町同様に台風26号の予想進路上にあった千葉、神奈川、静岡の3県計19のジオパーク関係自治体に尋ねたところ、静岡県伊東市を除く18自治体の首長が不参加だった。「台風の影響が気がかりだった」と話し、代理を出席させた首長もいた。
午前0時ごろ。再登庁した総務課長が警戒情報のファクスを確認後も、町の反応は鈍かった。風雨は激しさを増す前で、集合時間を早める必要まではないと判断された。
「遅いぞ」。先に来ていた上司が午前1時半に登庁した防災係長をからかう場面もあった。「台風と言えば大島では雨、風、波のこと。土砂災害なんてピンとこない。全員同じ感覚でいたのでは。手抜きをしたつもりはない」。町幹部は率直に打ち明けた。
第1次非常配備という警戒態勢がようやく敷かれたのは午前2時。「泉津(せんづ)地区で崖崩れ」「神達(かんだち)地区で住宅倒壊」。直後から被害情報が相次ぎ、総務課長は慌てて「元町地区のホテル1階で浸水です」と町長に電話した。混乱を極める中で午前3時25分には役場が停電。暗闇の向こうで土石流はすぐ近くまで流れ込んでいた。