伊豆大島土石流:被害から1週間 「命」のために 生死分けた奇跡
2013年10月23日
台風26号により、甚大な被害を受けた大島町。多くの死者・不明者を出した元町地区で、奇跡的に一命を取り留めた2組の夫婦は、国の中央防災会議が推奨する避難パターンの「垂直移動」と、土砂が襲う側から離れる「(一時的な)水平移動」を知らず知らずのうちに実践していた。土石流が一気に襲ってきたとみられる16日午前3時前後から、救助されるまでの状況を聞いた。【竹内良和、神足俊輔】
◆垂直移動
大金沢近くに住む那知三枝子さん(75)は雨漏りが気になり、午前3時ごろ目を覚ました。玄関と台所は水浸し。夫の雄司さん(74)を起こして2人で居間に入ると、「ザー」というごう音とともに水が入って来た。
「こっちに来い」。雄司さんが三枝子さんの身体を引き寄せた瞬間、畳とともに突き上げてきた濁流に押し上げられた。「音がしてから、10秒もなかった」という。築100年を超える平屋建て。雄司さんははりと畳に挟まれ、胸を強打。少し水が引いた時に身体が抜けた。「はりの下には行くな。挟まれるぞ」。そう三枝子さんに告げた。
頭上にあった天井を押すと板がはがれた。大人がやっと1人通れるくらいの大きさ。足が不自由な三枝子さんを先に押し上げ、自身も天井裏に逃れた。水は入ってこなかった。「これ以上動かない方がいい」。お互いに「生きなきゃ」と励ましながら、身を寄せ合い、明け方に救助された。
◆水平移動
元町地区の阿部比左志さん(83)と妻吉恵さん(80)は、土石流が自宅になだれ込む直前、たまたま大金沢沿いの寝室から離れたことで一命を取り留めた。
「うるさいな」。16日午前3時前、比左志さんは、就寝中に「ザー、ザー」という雨風の音が気になり、吉恵さんと2人で、沢沿いの寝室とは反対側の部屋に布団を移した。比左志さんは、テレビで台風情報を確認後、再び布団で横になった。
一方、吉恵さんは近くの部屋で、窓から外の様子をのぞいていた。路面を伝う大量の雨水。次の瞬間、目を疑った。「電柱のような丸太が流れてくるよー」。三原山からの土砂や倒木が玄関を突き破り、腰まで埋まった。土砂に流されぬよう、必死に壁や柱をつかんだ。吉恵さんの声を聞いた比左志さんは、既に布団の上を分厚い土砂に覆われ、すぐには起き上がれなくなっていた。