水説:民主「失敗の本質」=倉重篤郎

毎日新聞 2013年10月23日 東京朝刊

 <sui−setsu>

 民主党政権はなぜ失敗したのか。中野晃一上智大教授ら若手学者グループの論考に注目したい。政権中枢メンバーへの30回の聴取、同党現職議員へのアンケート(回収率80%)など丁寧な取材を「民主党政権 失敗の検証」(中公新書)にまとめた。

 ナルホド、と思う指摘がある。一つはマニフェスト政治の誤用である。その完成度が高いほど、つまり実現すべき政策の財源、工程表を詳細、かつ具体的に明示すればするほど、政権はその後の状況変化に対応する柔軟性を奪われ、一方で、計画通りにすべてを行うのが不可能な現実の中で、約束違反という批判を必然的に招来する。その負の側面にあまりに無頓着だった。

 二つ目に、統治能力の欠落である。政府与党間の意思決定システムと政策実現に必要な国会対応がなっていなかった。人事バランスの悪さから、要職に何度もつく日なた組とそうではない日陰組の乖離(かいり)が顕在化した。そんな中で消費増税など本来は政策対立であるべきものが、反小沢(一郎氏)か否かをめぐる属人的対立と一体化、ある意味、党分裂に陥るのは必然だった。

 この本の特徴は、だからといって小沢氏に失敗の原因を押しつけがちな民主党内の議論にはくみしていない点だ。人事や代表選に過度に頼らない意思決定システムを作り、リーダーシップとそれを支えるフォロワーシップを共に強化しない限り、また同じ道を歩むだろうと警告している。

 その通りであろう。だが、その統治能力の欠落はどこから来たのか。戦後連綿と続いた自民党一党支配が、他の政党にその能力を付与する機会を与えなかった。さらにいえば、民主党が政権を運営した3年3カ月という年月は、現実に統治しながら同時に統治能力を一から獲得していくには十分な期間ではなかった。

 それだけ統治技術は難しいのだ。権限と情報を握る官僚をうまく使いこなし、党内非主流派が反乱を起こさないよう目配りし、日本国の安全保障に決定的な力を持つ米国と上手に付き合い、野党とのパイプを生かして国会をスムーズに動かし、かつ、メディアへの巧みな発信により世論の高い支持率を維持する。

 このすべての技術における民主党の未熟さが、失敗の本質である。皮肉な話ではあるが、民主党がその壁を突破するためには再び政権につき3年余では足りなかった権力維持の学習を再開するしかない。問題は、国民がそれを許すかどうか。2大政党制を育てるか、一党支配でよしとするかにある。(専門編集委員)

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