片田珠美(49)♪アイム・プラウド…あの歌手にTV収録で激高されてしまった私
精神科女医のつぶやき】片田珠美(49)♪アイム・プラウド…あの歌手にTV収録で激高されてしまった私
先日、東京のあるテレビ局から出演依頼があり、番組の収録に参加した。芸能人の悩みに専門家が答えるという趣旨の番組なのだが、歌手の華原朋美さんが、私が精神科医だと自己紹介した途端、拒否反応を示して激高した。そのときは原因がわからず、ただびっくりした。
後日、そのシーンがカットになったと連絡を受けた。「どうして精神科医に拒否反応を示されるのだろう」といぶかしく思い、調べてみると、華原さんが以前、精神的に不安定になり、壮絶な体験をされていることがわかった。
有名人が精神的に不安定になると、本人が有名なだけに話題にもなりやすい。女優のマリリン・モンローは、美貌だけでなく、その不安定さでも多くの人々を魅了したが、睡眠薬に依存するようになり、精神科病院に入院したこともある。また、いまだに絶大な人気を誇る作家の太宰治も、薬物依存の治療のために精神科病院への入退院を繰り返していた。
2人とも、「ボーダーライン・パーソナリティー・ディスオーダー(境界性人格障害)」だったのではないかといわれている。これは人格障害の一種であり、かつては「不安定パーソナリティー」と呼ばれていた。そのことからもわかるように、感情が非常に不安定で、怒りをコントロールすることができず、しばしば激しい怒りを爆発させる。
対人関係の面でも不安定で、相手を理想化していたかと思うと、突然こきおろすようになる。そのため、その人に見捨てられるのではないかという不安にさいなまれがちであり、それを避けるためになりふりかまわぬ努力をする。
また、境界性人格障害の患者さんは、薬物乱用やリストカットなどの自己破壊的行為を衝動的に繰り返すことが多い。薬物依存も、境界性人格障害の症状の一つとみなすべきであり、根底にある不安定な感情や「見捨てられ不安」が解消されなければ、再発する危険性が高い。
患者さんの中には、過去とは決別して、振り返りたくないという気持ちを抱いている方もいる。その気持ちは痛いほどわかるが、薬に依存したりした弱い自分もやはり自分なのだと受け入れてはじめて、真の回復への道が開けるのである。
当コラムでは、世間を騒がせたニュースや、日常のふとした出来事にも表れる人の心の動きを、精神科医の片田珠美さんが鋭く分析します。
片田さんは昭和36(1961)年、広島県生まれ。大阪大医学部卒、京都大大学院人間・環境学研究科博士課程修了。著書に「無差別殺人の精神分析」(新潮選書)、「一億総うつ社会」(ちくま新書)、「なぜ、『怒る』のをやめられないのか」(光文社新書)、「正義という名の凶器」(ベスト新書)など。
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