派手な色で目を引く地上デジタル化の広報車。「2012年12月31日、地上波アナログTV放送終了」と書いてある=ソウル駅前、隈元写す
日本のNHKとよく似た公営放送局KBS。玄関を入ると、ひときわでっかい画面にこんな文字が浮かんでいた。「5千万人のデジタルの世の中、KBSが開きます」
国策として進めるデジタル化が最大の課題なのもNHKと同じなのだろう。韓国は9年前、アジアで最初に地上デジタル本放送を始めた。本放送とはいえ、アナログも流し続けている。全国でアナログを完全に止めるのは12年末で、日本より1年半ほど後ということになる。
韓国の地上デジタル化で難しい点は何か。KBSで地デジの愛称「コリア・ビュー」推進チームの部長をしている高佑宗(コ・ウジョン)さん(42)に聞くと、大きく二つあるという。
「まず、MBCやSBSなどと合わせた5チャンネルがそのまま画質が良くなるだけでは、デジタルにしたいと思う視聴者は多くない。どう魅力を持たせるか。もう一つは、山岳地帯の多い韓国で難視聴をいかに解消するか」
新たな魅力については、デジタルならではの圧縮技術でチャンネルを分割し、テレビだけでも20チャンネルに増やす実験をしている。各局、総合編成のHD(ハイビジョン)が1チャンネル、ドラマやスポーツなど専門別のSD(標準画質)が3チャンネル。さらに余る部分はラジオやデータ放送に使う。
韓国の地上波はCATVやIPTV(ブロードバンド回線を使うテレビ)でも見ることができるが、それらの局にお金を払わなければならない。「地上波を直接受信する視聴者が20チャンネルを無料で見られるなら、喜んでデジタルに転換してくれるでしょう」と高さん。
難視聴の解消についても、CATVなどへの対抗意識が見える。「地上波を直接受信できる環境を作るのが、私たちの仕事です」。現在は90%ほどのカバー率を12年までに96%にする計画で、別に財団をつくって対策を進めている。
「コリア・ビュー」は、来年には試験放送に入る計画だ。CATVなどの反発で頓挫する可能性もある。だが、日本の総務省や放送局は、あの手この手でデジタルへの買い替えを勧めながら、高画質と多チャンネル化の両方を求めるような努力をしているだろうか。
「韓国と日本は、ほかの国にない共通点がある」。高さんは最後にそう言った。「コンテンツの多様化はいいが、家電メーカーが強いからテレビを買い替えさせようとしている。セット・トップ・ボックス(チューナー)だけ替えるなら、高費用にならずにすむんですが」
消費者の視点を忘れてはいけない。そう言いたいようだった。(編集委員・隈元信一)