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世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較する「世界価値観調査」が1981年から、また1990年からは5年ごとに行われている。各国毎に全国の18歳以上の男女1,000サンプル程度の回収を基本とした個人単位の意識調査である。
ここでは、神の存在、死後の世界に対する各国国民の見方を図録にした。
対象国は、55カ国であり、存在していると考えている人の比率別の内訳は、以下の通りである。
存在していると考えている人の比率別の国数と国名
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神の存在 |
死後の世界 |
国数 |
国名 |
国数 |
国名 |
90%以上 |
24 |
エジプト、ヨルダン、ナイジェリア、インドネシア、マルタ、バングラデシュ、フィリピン、イラン、ウガンダ、ジンバブエ、プエルトリコ、タンザニア、ペルー、南アフリカ、メキシコ、トルコ、ポーランド、チリ、アルゼンチン、アイルランド、米国、インド、ポルトガル、ルーマニア |
4 |
エジプト、インドネシア、ヨルダン、イラン |
50〜90%未満 |
26 |
クロアチア、カナダ、イタリア、北アイルランド、ギリシャ、オーストリア、スペイン、アイスランド、スロバキア、セルビア・モンテネグロ、フィンランド、ベラルーシ、ウクライナ、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、ベルギー、ハンガリー、スロベニア、デンマーク、ドイツ、英国、ロシア、オランダ、ブルガリア、フランス |
26 |
ナイジェリア、トルコ、ウガンダ、フィリピン、タンザニア、マルタ、チリ、米国、南アフリカ、プエルトリコ、アイルランド、ポーランド、ジンバブエ、アイスランド、メキシコ、カナダ、ペルー、イタリア、クロアチア、インド、北アイルランド、スロバキア、アルゼンチン、バングラデシュ、ルーマニア、オーストリア |
50%未満 |
5 |
スウェーデン、エストニア、日本、チェコ、ベトナム |
25 |
リトアニア、ギリシャ、オランダ、スペイン、ルクセンブルク、英国、フィンランド、ポルトガル、ベルギー、スウェーデン、フランス、ドイツ、デンマーク、日本、ラトビア、ベラルーシ、チェコ、スロベニア、ウクライナ、ハンガリー、ブルガリア、エストニア、ロシア、セルビア・モンテネグロ、ベトナム |
日本人の回答結果(%)
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存在する |
存在しない |
わからない |
無回答 |
A)神 |
35.0 |
31.6 |
33.4 |
- |
B)死後の世界 |
31.6 |
30.5 |
37.9 |
- |
神の存在と死後の世界を比べると、神の存在の方が一般的に信じられている。神の存在は24カ国で90%以上の人が信じており、50%未満の人しか信じていない国は5カ国に過ぎないのに対して、死後の世界は、90%以上の人が信じている国は4カ国しかなく、50%未満の人しか信じていない国は25カ国もある。
エジプト人は、神の存在、死後の世界ともに、100%の人が信じている。ヨルダン、インドネシア、フィリピンといった諸国も、エジプトと同様の見方を示している。
逆に、ベトナムは、神の存在も死後の世界も信じていない者が多い点で目立っている。
日本は、ベトナム、チェコと並んで、神の存在を信じない人の多い国であるが、死後の世界については、信じない人が多いが、その比率は、ドイツ、デンマークと同程度であり、それほど目立っているわけではない。
日本人の特長は、「わからない」の比率が多い点にある。神の存在については、世界各国の中でも、「わからない」の比率は圧倒的であるし、死後の世界についても、「わからない」の比率は世界一高い。日本人は、神の存在や死後の世界に対して、存在するともいえるし、存在しないともいえるという立場をとっているように見える。悪く言えば、どっちつかずの見方で他国から理解不能な民族ととらえられる傾向があるともいえるし、よく言えば、存在を証明できない以上、どっちでも良いではないかと哲学的に考えている民族であるともいえる。
ヨーロッパ主要国における時系列変化は図録9522参照。
【コラム】中間的回答の多い日本人
林知己夫(1996)は、海外比較を含めた国民性調査の長い蓄積から、日本人らしさをあらわす「J−態度」の特徴として、以下の3点をあげている。
@人間関係重視
A中間的回答の多いこと
B宗教を信じないが宗教的な心を大切にする
ここで、中間的回答とは、「非常によい」と「まあよい」なら、「まあよい」の方の回答、また「どちらともえいない」、「分からない」といった回答を指す。
そして、1953〜88年の継続調査において、新しい年次の方が「J−態度」的であり、また現時点では若い世代の方が「J−態度」的だと分析している。また、中間的回答については、以下のようなプラスの評価を与えている。
「私はこの中間的回答をする発想そのものは(中略)本居宣長のいう「漢心(からごころ)」なき素直な見方ができ、不確定状況の下でうまく対処することが無理なくできる長所であると思われる。」「中間的回答好みは国際化時代に適用しないから「はっきりものをいえ」という人がいるが、これは日本人が日本人でなくなることを意味する。」
私の両親は近代的な明るい家族をつくろうと努力し、知り合いのインテリ医師にあこがれたり、朝日新聞なんかを購読したりしていたが、所詮、相撲力士の息子と北前船主の孫娘であるので、私を真のモダン・ボーイには育て損なっていた。
私は、幼い頃、ご主人が日銀マンの母親の友人宅を訪れ、ご馳走になった時のことを思い出す。母の友人である近代的な感じの夫人は、AとBとどちらが食べたいと私に尋ねたので、何の疑問もなく、「どちらでもいいです」と答えた。そうしたら、「どちらでもいいです」ではなくて「Aがいい」あるいは「Bがいい」とおっしゃいとたしなめられた。私は主体的な発言をした方が相手を敬うことになるという夫人の考え方に同意するとともに、これまで疑問もなく使っていた慣例的な発言に非があることを自覚させられたことに少し傷ついた。後で考えて、「どちらでもいいです」とは、何も、AもBもどのみち大したことない食事だという含意はもってはおらず、単に「私などはご迷惑が懸からない方で結構です」というへりくだり(謙遜)の表現をすることで相手を上位に置きたいということだったのになあ、と自らの軽い傷心を慰めたのだった。
不確定でも、はっきりAがBかを表明しないと、次に進めないとする考え方と、確定していても、AかBかをはっきりさせない方が、世の中うまくいくという考え方は、それぞれにそれなりの有効性があるのであろう。
中間的回答の具体例は、この図録のほか、図録8062(アジア的価値観の各国比較(日本・韓国・台湾・中国))、図録8598(米国を世界はどう見ているか)にも見られる。これらでは、欧米だけでなく中国、韓国などと比較しても中間的回答が多いという日本の特徴は明確である。
*林知己夫(1996)「日本らしさの構造―こころと文化をはかる 」東洋経済新報社 |
(2006年12月26日収録、2013年6月7日コラム追加、6月19日コラム修正)
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