アベノミックスの「二本の矢」は既に放たれ、残る第三の矢の「成長政策」を審議する国会が10月15日から始まった。
安倍首相が第三の矢の目玉商品として「女性が輝く日本」と言う標題をつけて女性の社会進出の推進を取り上げた事は良いが、その詳細は未だ「矢筒」に入ったままでよくわからない。
これまでの発言を聞いて気掛かりなのは、更なる女性保護に向かうのではないか、と言う点である。
保護には金と時間が掛かる。だからこそ、「女性は弱いから保護しなければならない」と言う如何にも近代的に思える考え方が、実は女性の社会進出を妨げているのが現実である。
安倍首相が第三の矢の目玉商品として「女性が輝く日本」と言う標題をつけて女性の社会進出の推進を取り上げた事は良いが、その詳細は未だ「矢筒」に入ったままでよくわからない。
これまでの発言を聞いて気掛かりなのは、更なる女性保護に向かうのではないか、と言う点である。
保護には金と時間が掛かる。だからこそ、「女性は弱いから保護しなければならない」と言う如何にも近代的に思える考え方が、実は女性の社会進出を妨げているのが現実である。
礼儀正しいはずの日本人が電車の中で席を譲るケースが少ない、身体障害者、妊婦、乳幼児連れ、高齢者など、本来なら女性より保護が必要な筈の人々の席は「優先座席」と呼び、健全な成人女性のように特別保護に価しない女性用の車に「優先」より遙かに強制力のありそうな「専用車両」と言う言葉を何故使うのか?
この辺が、流行に流されてよく考えもせずに行なう保護政策の間違いの典型であろうが、かつてアメリカで人種差別の正当化に用いられた「分離すれども平等(separate but equal)」の考えが違憲となる可能性が高い事を知る国交省は「女性専用車両」は「男性の乗車に対しては禁止する法的根拠はなく、男性利用者の協力のもとに成り立っている」任意の施設だと強調する辺りが官僚の小利口さの表れであろう。
それにしても日本の女性の社会進出の遅れは異常で、OECDの統計の国別順位で100位以下、男女間の給与格差は40歳以上では40%にも上り韓国に次いでワースト2位、上場企業の役員の女性の割合はわずか5%、と最低レベルに位置する正真正銘の「女性差別国家」だと言う不名誉なお墨付きを受けてしまった。
このOECD報告書が指摘しているように、経済成長にとっては同一労働、同一賃金、男女平等が鍵であり、能力ではなく年齢によって正規職に就く人材が決まる年功序列制度が女性の社会進出や公正、合理性に欠ける二重労働市場を支えている事は否定出来ない。
中でも、若年層では平均して男性よりも高学歴の日本女性の社会進出の促進は、人口減少に悩む日本の将来に問題になる事は間違い無い。
成長戦略には、男女差別と正規職員・非正規職員の差別と言う二重差別で構成する「二重労働市場」の改革は避けて通れないが、その解消に一番合理的な方法は米国型の”Employment-at-will”(雇用主も雇用者も夫々の自由意志で解雇したり、離職することができる雇用制度)の導入である。
この制度を「アメリカでは従業員をいつでも解雇することができる」と言う日本の一般理解は大変な間違いで、組合がある場合は労働協約が優先され、組合のない企業でも「法律上許された公正の原則」内での解雇しか認められず、社内規則で解雇出来る日本に比べ決して簡単なことではなく、むしろ日本よりハードルが高い場合が多く、女性の進出を促進するにも極めて有効な手段である。
とは言え、法律上の権利、義務意識が薄い割に阿吽(あうん)の呼吸と前例に縛られる日本での導入が簡単にいかない事も残念ながら現実である。
女性の進出には、産後の職場復帰の困難さや既婚女性の仕事へのモチベーションを削がせている「配偶者控除制度」などの制度改正も必要だが、それ以上に問題になのが、日本人の持つ「女性蔑視」とは異なる「女性別視」である。
その典型は、女性は弱いから保護が必要だと言う考えだ。
「女性が輝く日本」と言う聞き心地の良い標題を、男女の違いを「強弱」で表す時代錯誤的な感覚で捕らえ「女性の保護の強化」に結びつける事は、女性の社会進出を妨げるだけで百害有って一利なしである。
必要な事は女性保護ではなく、女性の働き易い環境作りから始める事だ。
女性の職場進出の障害は色々あるが、その大きな障害の一つに子供を職場近くに連れて行けないという現実とその圧力に依る中途退社がある。
職場(或いはその近く)での児童預かり施設の増強と公共交通機関を使って親子が安心して通勤出来るようにする事は、その気になればすぐ出来る事で、これが現実のものとなれば、親子一緒に昼食をとる事も出来、家庭生活の充実や女性の労働継続のインセンテイブにもつながる。
最近、ジムを併設するビルは増えているが託児所併設の商業ビルが少ないのが残念で、この実現には文科省管轄の幼稚園と厚労省管轄の保育園を廃止し託児所に纏め、商業ビルに一定以上の託児所を設けた場合は軽減税率を適用するなど企業にもインセンテイブを与える工夫も必要であろう。
そして、女性保護の「女性専用車両」を廃止して「親子専用車両」を設置し、ラッシュ時でも親子が安心して通勤出来る工夫をすべきである。
日本の女性専用車両の歴史は古く、1912年に登場した「婦人専用電車」が最初とされているが、これは「男女七歳にして席を同じうせず」と言う当時の国民性を反映して導入されたもので、この考えが廃れると共に廃止された。
その後も復活廃止を重ねて来たが、2000年代に入ると、車内における迷惑行為や痴漢行為が社会問題として大きく取り上げられ、女性が安心して乗車できる事を目的として女性専用を謳った車両が導入され始めたが「すり無し保証車」や「酔っ払い専用車」を設けてくれた方が遙かに良かった。
日本の大きな問題に少子化があるが、欧州の例を見て興味深いのは、最も手厚い育児休暇制度を持つチェコの出生率は世界の214番目の1.29で日本と大差なく、保護政策の効果が薄いことは世界共通だという事がよく理解できる。
安倍総理が「女性が輝く日本」の実現を真剣に考えるのであれば「女性専用車」のような保護政策ではなく、働く女性にインセンテイブを与える政策を考えて欲しいと思い「女性専用車」を例にした次第である。
2013年10月15日
北村隆司
この辺が、流行に流されてよく考えもせずに行なう保護政策の間違いの典型であろうが、かつてアメリカで人種差別の正当化に用いられた「分離すれども平等(separate but equal)」の考えが違憲となる可能性が高い事を知る国交省は「女性専用車両」は「男性の乗車に対しては禁止する法的根拠はなく、男性利用者の協力のもとに成り立っている」任意の施設だと強調する辺りが官僚の小利口さの表れであろう。
それにしても日本の女性の社会進出の遅れは異常で、OECDの統計の国別順位で100位以下、男女間の給与格差は40歳以上では40%にも上り韓国に次いでワースト2位、上場企業の役員の女性の割合はわずか5%、と最低レベルに位置する正真正銘の「女性差別国家」だと言う不名誉なお墨付きを受けてしまった。
このOECD報告書が指摘しているように、経済成長にとっては同一労働、同一賃金、男女平等が鍵であり、能力ではなく年齢によって正規職に就く人材が決まる年功序列制度が女性の社会進出や公正、合理性に欠ける二重労働市場を支えている事は否定出来ない。
中でも、若年層では平均して男性よりも高学歴の日本女性の社会進出の促進は、人口減少に悩む日本の将来に問題になる事は間違い無い。
成長戦略には、男女差別と正規職員・非正規職員の差別と言う二重差別で構成する「二重労働市場」の改革は避けて通れないが、その解消に一番合理的な方法は米国型の”Employment-at-will”(雇用主も雇用者も夫々の自由意志で解雇したり、離職することができる雇用制度)の導入である。
この制度を「アメリカでは従業員をいつでも解雇することができる」と言う日本の一般理解は大変な間違いで、組合がある場合は労働協約が優先され、組合のない企業でも「法律上許された公正の原則」内での解雇しか認められず、社内規則で解雇出来る日本に比べ決して簡単なことではなく、むしろ日本よりハードルが高い場合が多く、女性の進出を促進するにも極めて有効な手段である。
とは言え、法律上の権利、義務意識が薄い割に阿吽(あうん)の呼吸と前例に縛られる日本での導入が簡単にいかない事も残念ながら現実である。
女性の進出には、産後の職場復帰の困難さや既婚女性の仕事へのモチベーションを削がせている「配偶者控除制度」などの制度改正も必要だが、それ以上に問題になのが、日本人の持つ「女性蔑視」とは異なる「女性別視」である。
その典型は、女性は弱いから保護が必要だと言う考えだ。
「女性が輝く日本」と言う聞き心地の良い標題を、男女の違いを「強弱」で表す時代錯誤的な感覚で捕らえ「女性の保護の強化」に結びつける事は、女性の社会進出を妨げるだけで百害有って一利なしである。
必要な事は女性保護ではなく、女性の働き易い環境作りから始める事だ。
女性の職場進出の障害は色々あるが、その大きな障害の一つに子供を職場近くに連れて行けないという現実とその圧力に依る中途退社がある。
職場(或いはその近く)での児童預かり施設の増強と公共交通機関を使って親子が安心して通勤出来るようにする事は、その気になればすぐ出来る事で、これが現実のものとなれば、親子一緒に昼食をとる事も出来、家庭生活の充実や女性の労働継続のインセンテイブにもつながる。
最近、ジムを併設するビルは増えているが託児所併設の商業ビルが少ないのが残念で、この実現には文科省管轄の幼稚園と厚労省管轄の保育園を廃止し託児所に纏め、商業ビルに一定以上の託児所を設けた場合は軽減税率を適用するなど企業にもインセンテイブを与える工夫も必要であろう。
そして、女性保護の「女性専用車両」を廃止して「親子専用車両」を設置し、ラッシュ時でも親子が安心して通勤出来る工夫をすべきである。
日本の女性専用車両の歴史は古く、1912年に登場した「婦人専用電車」が最初とされているが、これは「男女七歳にして席を同じうせず」と言う当時の国民性を反映して導入されたもので、この考えが廃れると共に廃止された。
その後も復活廃止を重ねて来たが、2000年代に入ると、車内における迷惑行為や痴漢行為が社会問題として大きく取り上げられ、女性が安心して乗車できる事を目的として女性専用を謳った車両が導入され始めたが「すり無し保証車」や「酔っ払い専用車」を設けてくれた方が遙かに良かった。
日本の大きな問題に少子化があるが、欧州の例を見て興味深いのは、最も手厚い育児休暇制度を持つチェコの出生率は世界の214番目の1.29で日本と大差なく、保護政策の効果が薄いことは世界共通だという事がよく理解できる。
安倍総理が「女性が輝く日本」の実現を真剣に考えるのであれば「女性専用車」のような保護政策ではなく、働く女性にインセンテイブを与える政策を考えて欲しいと思い「女性専用車」を例にした次第である。
2013年10月15日
北村隆司