「お歳暮で悩んだ頃が懐かしい」「振るだけで歳暮の中身当てる妻」「半袖（はんそで）で歳暮とおせちを注文し」。仲畑（なかはた）流万能川柳の入選作からの抜粋だ。お歳暮は市民生活の悲喜こもごもを映し出す▲ようやく暑さが収まり秋本番を迎えたばかりの関西で歳暮商戦が始まった。１６日に歳暮売り場を開設した高島屋大阪店を筆頭に他の百貨店も続々と参入する。気が早いといわれる関西人だけに売り場はもう列ができる盛況だ▲関西と関東では歳暮商戦の戦術が異なるという。価格にシビアな関西で各店は「早期割引」などの値引き作戦で客を引き寄せる。一方、実家が遠方にある人が多い関東では「送料無料」を売り物にする店が多い。顧客の要求に的確に応えなければ厳しい商戦は乗り切れない▲今年は有機農法で栽培した野菜のセットや生薬入り肥料で育てたコメ、近畿大学水産研究所が養殖したマグロの真空パックなど「食の安全」を重視した商品が増えた。消費増税前の駆け込み需要を見込み、自宅での消費を想定した品ぞろえに力を入れる店もある▲江戸時代に習慣として定着した歳暮は社会の変遷（へんせん）を見守ってきた。最盛期の１９９０年ごろ以降、経済停滞と虚礼廃止で市場規模は縮小したが、ここ数年はわずかに増える傾向にある。成熟社会を迎え、儀礼よりコミュニケーションの手段としての役割が強まりつつあるようだ▲物を贈り贈られる慣習は社会の大切な潤滑油だ。これからの時代を心豊かに生きるには「贈与」が一つのキーワードという説もある。２カ月以上の長い歳暮商戦。たくさんの家庭に笑顔を届け、景気上昇ももたらすだろうか。