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[Webオリジナル] 中東原発最前線

[第2回] 「日本との協力も一つの方法だ」

韓国原子力産業会議・具翰謨常勤副会長に聞く

 

アラブ首長国連邦(UAE)での受注に成功し、念願の「原発輸出国」となった韓国。「予想外」の成功は日本の原発業界に衝撃を与えた一方、「実績作りの無理な受注」との冷ややかな見方も強い。韓国側の見方はどうか?韓国原子力産業会議の具翰謨(ク・ハンモ)常勤副会長に聞いた。(6月22日 ソウルの韓国原子力産業会議で。聞き手:稲田清英)

 

――韓国はなぜ今回、UAEで受注できたと思いますか。

具翰謨

「韓国は原発の運営において、他国と比べても粘り強く努力を続けてきた。まず工期の短さをアピールすることができた。費用軽減の最も重要な要素だ。また国内で20基を運転し、稼働率も世界平均より高い。そうした積み重ねで原発の原価が相対的に低い。直接的な技術力は日本や米国、フランスといった原子力先進国の80%程度としても、付随的な技術力がすぐれ、目に見えない競争力として作用している」

 

――単純な技術力だけの勝負ではなかったと。

「日本は最高の技術を持つが、韓国より人件費が高い。製品の3分の1は人件費。韓国はこの面でも建設費を軽減できる。結果、UAEに他よりも有利な条件を示すことができた。韓国の製品が日本や先進国に比べて非常に遅れている、というわけではないので、様々な他の利点がアピール材料になる。総合評価すると、原発は30年、40年、50年と運営するので、韓国の建設・運営方式を利用すれば、UAEも国家的に利得があると判断したのだろう」

 

――今回の受注は価格などかなり無理な内容で、収益性や安全性で今後問題が起きるだろう、という指摘があります。

「そうした指摘は私も多く聞くが、客観的な条件をみて欲しい。人件費が安く、工期も短い。我々が安く受注したと言うが、とんでもない。相当な利潤を確保している。少しだけ詳細にみてみればわかることだ」

 

――UAEでの成功は今後の原発輸出にどんな意味を持ちますか。

「韓国の原発運営技術などが認定される、いい機会となった。ただ、今後の案件では、対象国の特性に合わせて他国と連合するなど、やり方はいろいろある。そうすれば世界の原発市場に我々が参画できる割合も高まる。韓国を常に負かす、日本を常に負かす、となれば相互に機会が減る。協力も一つの方法だ」

 

――UAEでは運転支援や人材教育なども含めて成功しましたが、今後の新興市場で一つのモデルになりますか。

「UAEには原発の運営経験もなく、十分な人材育成も進んでいないので、トータルディール(運営を含む丸抱えの提案)を行ったが、そうでないケースもある。たとえば東南アジアで、日本が輸出を主導し、運営技術は必要なら韓国が協力するという形もある。UAEのような形が必ずスタンダードではないし、我々も必ずそうしようとしているわけではない。状況により、協力して成功の確率が高まるなら、そうする、ということだ」

 

――韓国の電機メーカーは日本を凌駕しつつあります。原発でも韓国が先行したと考えますか?

「そんな考えはない。先進国はどこも似たような水準で、日本などは我々より20%ほど先を行っている。だがその技術力の効率的な利用を(韓国は)熱心に進めてきた。UAEで成功したからといって、技術力も先んじたわけではない。今後もフランスや日本から学ぶ点があり、競争よりも協力して進むのが世界の需要に質的にも量的にも応えられる」

 

――韓国が建設するUAEの原発は、基幹技術を外国に頼っています。

「国産化を焦る必要はない。外国企業とうまく協力すればいい。政治ではなくてビジネス。部品のいくつかが国産化できていない、といったようなことは大きな問題ではない」

 

――今後の課題は何でしょうか。

「最も重要なのはやはり人材だ。技術開発も重要だが、技術は不足すれば、たとえば日本や米国から買ってくればいいし、UAEがそれに反対する理由もない。ただそれらを運営できる人が必要。技術は買えても、設置して運転し、保守する人材の育成を急ぐ必要がある」

 

(文中敬称略)

 

ク・ハンモ

1944年生まれ。70年に韓国電力公社に入り、原発所長を務めるなど原発畑での経験が長い。2009年2月から現職。

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