社説[「強い国」とは]急な政策転換は危うい

2013年10月20日 09時22分
(10時間9分前に更新)

 「『強い日本』。それをつくるのは、ほかの誰でもありません。私たち自身です。皆さん、共に、進んでいこうではありませんか」

 臨時国会の所信表明演説で安倍晋三首相は、自信に満ちた口調で、そう呼び掛けた。

演説で重点的に取り上げたのは、経済成長と外交・安全保障である。

 安倍首相の言う「強い日本」「強い国」とは、「強い経済」と「強い安保」をあわせもった「強い国家」のことなのだろう。

 安倍政権の外交・安全保障政策を特徴づけるキーワードは「積極的平和主義」と「価値観外交」の2点である。

 代表質問で海江田万里・民主党代表から「積極的平和主義」とは何かと問われ、「世界の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献する」ことだと答えた。この答弁は同義反復で説明になっていない。

 憲法9条や日米安保条約によってはめられている「たが」を取り除き、憲法や安保条約が想定する範囲を超えて、日米が海外で一体となって軍事行動を展開する。それが「積極的平和主義」の中身なのではないか。

 集団的自衛権行使のための憲法解釈の変更や日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直しは、「積極的平和主義」を具体化するための取り組み、だと見たほうがよさそうだ。特定秘密保護法案もこうした動きの一環として理解すべきだろう。

 その先に憲法改正による国防軍創設が位置づけられている。これは戦後体制を転換するための政策パッケージだ。

    ■    ■

 安倍首相は価値観外交について、中国を意識し「日米同盟を軸とし、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった価値観を共有する国々と連携を強めていく」ことをあらためて強調した。

 中国や韓国との関係改善が極めて重要な課題であるにもかかわらず、所信表明演説はその点には触れなかった。対中外交に対する方針を欠いた所信表明演説は異常である。

 安倍首相は「中国との対話のドアはいつもオープン」だと口癖のように言う。

 その一方で、9月の訪米時には「私を右翼の軍国主義者とお呼びになりたいならどうぞ」と、中国側の批判に対して感情をむき出しに応酬した。

 高い支持率に支えられた自信とおごりは紙一重である。売り言葉に買い言葉の空中戦を自制し、対話の可能な環境を意識してつくり出していくことが日中双方に求められている。

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 日米安全保障協議委員会(2プラス2)に出席するため来日した米国のケリー国務長官とへーゲル国防長官は、千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪問し、献花した。

 靖国神社の秋季例大祭を控えた時期に、靖国ではなく千鳥ヶ淵を選んで献花したのである。安倍首相に対する政治的メッセージだ。

 東アジアの国際環境は、この一事が示すように、複雑で多面的である。空気に流されず、言葉に幻惑されず、どこに向かおうとしているのかをしかと見極めたい。

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