「今回検定を通過した8種類の高校用韓国史教科書は、どれも非常に大きな問題を抱えている。その理由は、教科書の執筆基準そのものが『民主運動史体系』でできており、韓国の歴史をきちんと記述できない形になっているからだ」
経済史研究の大家、安秉直(アン・ビョンジク)ソウル大学名誉教授は、最近起こった歴史教科書をめぐる議論と関連し、教科書の「基本的枠組み」が抱える問題点を指摘した。
安名誉教授は、先月26日に開かれたフォーラム「韓国現代史、どのように見るべきか」(主宰:憲政会)で講演を行い、その中で「(教科書の)執筆基準を作り直すべき」と主張した。韓国政府が整備・発表している教科書の執筆基準は、教科書の水準や内容、範囲を定める一種のガイドラインだ。
2011年に確定した現行の歴史教科書執筆基準は、現代史部門の第3項で「自由民主主義の発展過程」について、5・16軍事クーデター(1961年5月16日の朴正熙〈パク・チョンヒ〉陸軍少将〈当時〉らによるクーデター)などの政治変動と、4・19革命(1960年4月19日の、不正選挙に端を発したデモにより、当時の李承晩〈イ・スンマン〉大統領が下野した事件)、5・18光州民主化運動(1980年5月18日に起こった光州での民主化要求。光州事件)、6月民主抗争(1987年6月に起こった民主化要求運動)などの民主化運動を通して説明するよう定めている。また産業化の過程は、別に第4項を設け、経済発展と社会・文化の変化について理解させることとしている。
安名誉教授は「記述体系とは『どういう目で歴史を見詰め、事実を取捨選択するか』を決定する大きな枠組みだが、現在の執筆基準は、農民運動・労働運動・知識人運動・民主化運動など主として『抵抗運動』の視点で歴史を記述するように定めている」と指摘した。こうした枠組みでは、「独裁に立ち向かって戦った抵抗運動」だけが自由民主主義をつくり上げたかのように見えてしまう、というわけだ。
「こんな記述では、その種の『運動』の内部に、むしろ自由民主主義を転覆させて人民民主主義を樹立しようとする運動もあったという事実を見いだせなくなる」というのが、安名誉教授の指摘だ。
安名誉教授は「このような体系では、韓国の『建国』が自由民主主義体制を打ち立て、『産業化』の過程が中産層を生み出し、国の繁栄をもたらして自由民主主義の発展に大きく寄与していたとは書けない」「自由民主主義体制を共産主義から守り、韓国を維持する中心的存在だった反共主義と韓米相互防衛条約も、否定的に記述されることになる」と語った。
このような記述体系の誤りが原因で、(従来の)7種類の教科書はもちろん、保守系の執筆陣が参加した教学社の教科書でさえも▲自由民主主義の発展は民主化運動によってのみ実現したかのように記され▲最初の憲法で自由民主主義の制度が確立したという点が明確に記されず▲韓国経済発展の基本プロセスといえる第1次-第7次経済開発計画をほとんど説明できていない-というのが安名誉教授の見解だ。
安名誉教授は「(新たな執筆基準では)今の記述体系を変更し、『建国』と『産業化』のプロセスを『民主化』と共に記述する『大韓民国史』の記述体系にすべき」と強調した。また、韓国の現代史を論理的に説明できる理論的裏付けが必要であり、「後発の資本主義国は、自由貿易体制の下で、先発資本主義国が数百年かけて蓄積した資本・技術を活用し高度成長を成し遂げる」という「キャッチアップ理論」を導入すべきだと主張した。