旧日本軍の慰安婦問題をめぐって、朝日新聞と産経新聞が正反対の立場からスクープ合戦を繰り広げています。いずれも約20年前の話で、朝日はインドネシアで慰安婦問題の本が出版されないように日本大使館が圧力をかけたと書き、産経は日本政府が慰安婦問題で謝罪した「河野談話」の根拠が崩れたと報じました。長年にわたって慰安婦報道で対立してきた両紙が改めて激突した形で、ネット上の論争を加熱させています。

朝日の記事

 朝日はまず10月13日、「慰安婦問題の拡大阻止 92〜93年、東南アで調査せず」という記事を1面トップに載せました。慰安婦問題が日韓で政治問題化した1992〜93年、日本政府が韓国では実施した聞き取り調査を、東南アジアでは実施しなかったという内容です。韓国以外への問題の拡大を防ぐためで、「韓国以外でも調査を進めるという当時の公式見解と矛盾する」と記事は指摘しています。

 さらに朝日は14日の続報で、駐インドネシア公使が1993年8月、慰安婦の苦難を記録するインドネシア人作家の本が発行されれば、両国関係に影響が出るとの懸念をインドネシア側に伝えていたと報じました。記事は「当時のスハルト独裁政権の言論弾圧に加担したと受け取られかねない」と指摘しています。この本はスハルト政権崩壊後の2001年になって出版されたそうです。

 これら2つの記事は、情報公開で入手した外交文書や政府関係者への取材を基にしたといいます。

産経の記事

 一方の産経は16日、「元慰安婦報告書 ずさん調査 氏名含め証言曖昧 河野談話 根拠崩れる」との記事を1面トップに載せました。産経は、慰安婦募集の強制性を認めた1993年8月の「河野洋平官房長官談話」の根拠となった、韓国での元慰安婦16人の聞き取り調査報告書を入手。「証言の事実関係はあいまいで別の機会での発言との食い違いも目立つほか、氏名や生年すら不正確な例も」あったと報じています。

 記事の基になった報告書はA4判13枚で、政府はこの調査内容を「個人情報保護」などを理由に開示してこなかったそうです。

 産経は17日の社説で、河野氏や談話作成に関わった当時の内閣外政審議室長らを国会に呼んでこの問題を検証すべきだと主張。「(90年代前半)当時、日本の一部マスコミも慰安婦問題追及キャンペーンを展開した」と、名指しは避けつつも朝日などを批判しています。

河野談話をめぐる動き

 河野談話は、日本政府は慰安婦問題に旧日本軍が関わっていたことを認めておわびします、という内容で、政府の公式見解として歴代内閣に引き継がれてきました。第1次安倍内閣は2007年、「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」との答弁書を閣議決定しましたが、河野談話の見直しには踏み込んでいません。今回の産経の報道後も、安倍政権は静観の構えです。

 河野談話を擁護する朝日・毎日と、談話の見直しを求める産経・読売の主張はしばしば対立してきました。今回の朝日と産経のスクープ合戦は、ツイッターやブログなどネット上の反響が大きいようです。