第10部・潜む活断層(1)揺らぐ「不在証明」/異常隆起でも建設推進/着工前提論拠に疑問
 | 階段状の地形が特徴的な弁天島。専門家は未知の活断層の存在を警告する=青森県大間町沖 |
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<「M7級も」警鐘>
下北半島の突端、大間崎(青森県大間町)の沖合約600メートルの津軽海峡に、特徴的な形をした弁天島が浮かんでいる。
周囲2.7キロ、広さ14ヘクタールの小島。海面から階段状に2段、地面がせり上がった形をしている。
地質の専門家によると、「離水ベンチ(波食棚)」と呼ばれる地形。かつては波で削られたなだらかな浅瀬が広がっていたが、急激な隆起で長椅子(ベンチ)のような形状になった。
同様の地形は大間崎周辺にもっとあるし、30キロ近く南の景勝地、仏ケ浦(佐井村)にも複数存在する。離水ベンチのような変わった地形がなぜ、この辺りに多いのか。
「大間崎の北側と西側の海底に、2本の大きな活断層が存在すると考えるのが自然。ずれて地震を引き起こせば、マグニチュード(M)7クラスにはなるだろう」
東洋大の渡辺満久教授(変動地形学)は、未知の活断層の存在に警鐘を鳴らす。
<高低差が南北に>
根拠は離水ベンチだけではない。12万5000年ほど前に海岸線だった場所の高さは現在、大間崎付近で海抜60メートル、その南10キロになると20メートル弱になっている。この高低差は、断層の活動で生じる南北方向の強い力で、北側がより押し上げられたことを示すという。
大間崎から4キロほど南で電源開発・大間原発の建設が進む。世界で初めて、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料だけを使用する原発だ。
原発敷地内で電源開発が試掘した際にも、地層のずれは見つかった。だが2008年4月、国は原発付近や敷地内に活断層は存在しないと評価し、建設を許可した。
大間原発周辺の離水ベンチや異常隆起について、電源開発は「非弾性変形が起きる地域だから」と説明する。活断層や地震が関与した現象ではないとの見解だ。
火山地帯では、地下にあるマントルから伝わる強烈な熱エネルギーによって、局所的に地形が徐々に変化していくという理論になる。
<局所の判断困難>
電源開発はその根拠として、長谷川昭・東北大名誉教授(地震学)の論文を引いている。
「論文では、奥羽脊梁(せきりょう)山脈のような山地の東縁と西縁に、なぜ活断層が発達しているかを説明できる内陸地震発生モデルを提案し、部分的な非弾性変形の可能性を推定した」と当の長谷川名誉教授は話す。
ところが、非弾性変形だと検証することができるのは、かなり広範な領域を対象にしたケースに限られると言う。
「東北地方に火山地帯が連なるようになった背景といった大きなスケールでなら検証は可能。だが、大間崎のような(より狭い領域の)特定の場所に当てはめるのは難しい」
電源開発と国が共に唱える活断層不在説は原発建設の前提条件になったが、その足元は盤石とは言い難い。
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精密な地質調査に基づいて建設されたはずの各地の原発で、活断層評価の見直しを求める動きが強まっている。敦賀(福井県)、志賀(石川県)、そして青森県の東通(東通村)と大間。活断層は地震列島の宿命なのに、国策として原発を推進する陰で不当に過小評価されてきた経緯はないのか。過去の「不在証明」が地盤沈下し始めている。
(原子力問題取材班)=第10部は5回続き
[活断層]過去に繰り返しずれたことが確認され、これからも活動する可能性があると考えられる断層。地理学では、200万年前以降に活動した断層が活断層と認定されるケースが多い。この定義によると、国内には約2000もの活断層があると推定される。原発の安全審査では、活動の痕跡が確認しやすい12万5000年前以降に動いた断層が活断層とみなされる。航空写真などで確認されることが多いが、2000年10月の鳥取県西部地震(M7.3)のように、存在が全く知られていなかった陸地の活断層が突然、大地震を引き起こすこともある。
[大間原発]青森県大間町奥戸(おこっぺ)に建設中の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)。出力138万キロワットで、発電した電気は東北電力に売却する。2008年5月着工。福島第1原発事故の影響で現時点で運転開始時期は未定。全燃料棒にプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料だけを装荷するため、ウラン燃料と合わせて使用するプルサーマルに比べ、格段に多くのプルトニウムを消費する。核燃料サイクルによる余剰プルトニウムの消費が期待される一方、通常の原発より制御棒の効きが悪くなる可能性がある、との指摘もある。
2013年10月19日土曜日