イギリスとフランスの間に位置するチャンネル諸島のひとつジャージー島は、ガーンジー島、マン島とともにイギリスの王室属領で、ヨーロッパの代表的なタックスヘイヴンとして知られている。
知り合いから、ジャージーにあるプラーベートバンクから送られてきた手紙を見せてもらった。「IMPORTANT INFORMATION(重要情報)」と太字のブロック体で大書された手紙は、口座保有者に向けて、今年度以降のさまざまな税法上の変更をまとめたものだ。日本人(日本の居住者)には直接の関係はないが、興味のある方もいると思うので紹介してみたい。
(1)アメリカ人の顧客に関する口座情報は、2014年度分が2015年6月までにIRS(米内国歳入庁)に提供される
FATCA(Foreign Account Tax Compliance Act/外国口座税務コンプライアンス法)の本格施行にともなって、米国外の金融機関は、IRSとFFI(Foreign Financial Institution)契約を結び、米国人口座を特定したうえでその詳細をIRSに報告しなければ、米国源泉の所得(利子・配当)や米国資産の売却額などに対し30%の源泉徴収が行なわれることになった。
これまで非課税だった金融所得や資産の売却代金(譲渡益ではない!)への30%もの課税は業績に大きな影響を与えるが、それ以前に、国際的な業務を行なう金融機関がFATCAを拒否することは自ら“ブラック”のレッテルを貼るようなものなので、この規定は米ドル取引を行なうすべての金融機関に対し、米国人口座の情報提供を実質的に義務づけたものと考えられている。
こうした極端な規制が議会を通過したのは、いうまでもなく、2008年にプライベートバンク最大手UBSの幹部が米国で拘束され、スパイもどきの手法で脱税幇助を行なっていた実態が暴かれたからだ。「犯罪銀行」のレッテルを貼られかけたUBSは、米当局との司法取引に応じ、総額7億8000万ドル(約780億円)の罰金を支払うとともに約5000件の顧客情報をIRSに提出した。
今年1月には、スイス最古のプライベートバンク、ヴェゲリンが脱税幇助への関与を認め、米当局との和解に必要な罰金に耐えられないとして廃業を決めた。さらにスイス政府は今年8月、金融機関が米国人顧客の隠し口座の情報を提供し一定の罰金を払うかわりに、脱税幇助での起訴を免れるという合意を米司法省と結んだ。これによって、「鉄壁」といわれたスイスのプライベートバンクの守秘性は完全に崩壊した。
ジャージーをはじめとするヨーロッパのタックスヘイヴンが雪崩を打ったように米国人顧客の情報開示に踏み切ったのは、米国の逆鱗に触れたスイスの惨状を目の当たりにしたからだろう。
<執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。
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