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ポストさんてん日記

3.11を契機に放射線・原発・エネルギー関連の情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。                              QLOOKアクセス解析

セシウムの体内動態(文献による勉強)

[ 2012/12/04 (火) ]
 今更ながらですが、たまたま、判り易い文献2点に巡り合ったので、以前の幾つかのメモと一緒にアーカイブしておきます。(自分のための勉強です。)

1.人体放射除去技術 挙動と除染のメカニズム 放射線医学総合研究所 1995年 内山正史 渡利一夫

(一部のみ引用)

1.放射性核種の生体内挙動

 放射性核種が体内に摂取されると、化学的性質によってそれぞれ特有な体内挙動、すなわち吸収、移行、分布、滞留、排泄を示す。通常これらを体内動態あるいは代謝とよんでいる。

 現在、線量算定においてICRPの方式(ICRP Publ.30)で最も完成度が高く、世界で広く使用されている。

 ただし、ICRPの線量算定も、時代とともに少しずつ変化していることには注意する必要がある。たとえば。1990年には従来の放射線感受性組織とそれを反映した組織荷重係数の見直しが行われ、また、1994年には新しいヒト呼吸気道モデルが設定されている。

 生体はそれを構成する種々の元素の動的平衡のうえに存在している。短期的にみれば生体内の元素はそれぞれ平衡状態にあり、摂取量は排出量に平衡し、代謝速度は体内量と摂取量によって規定される。

1・2 放射性セシウム

 セシウムは元素の周期表でナトリウム、カリウム、ルビジウムなどと同じアルカリ金属に属し、化学的性質が似ているので、体内の挙動にも類似したところがある。ナトリウムやカリウムは人体にとって必須元素であり、体内に広く分布している。この2つの元素は経口摂取されると消化管から100%吸収されて血液中に入り全身に分布する。
同じようにセシウムも消化管からほぼ100%吸収され、その後極めて迅速に体内に移動する。骨に集まるストロンチウムと違って、セシウムが特に高い濃度まで蓄積する組織や器官はなく、全身に分布するが、筋肉にはやや多く蓄積する傾向がある。

 アルカリ金属元素はいずれも全身に分布しているが、カリウムとナトリウムの体内での機能はそれぞれ対照的で、人体中における分布には著しい違いがある。
ヒトの血液ではナトリウムが赤血球に少なく血漿に圧倒的に多いのに比べ、カリウムはほとんどが赤血球に含まれる。このようにナトリウムは細胞外液に、カリウムは細胞内液に、おおく分布する。

セシウムはナトリウムとカリウムの中間の分布をしていて、血液中75%のセシウムは赤血球に含まれている。このことは、血液中の安定セシウムの放射化分析、あるいは大気圏で行なわれた核実験の結果生じた放射性セシウムCs-137の分析からも明らかにされている。

血液中の存在比の違いについては、これら元素のイオンの透過性の違い細胞のイオン選択性あるいは、イオンの移動速度の違いなどと関連があるものと考えられる。
これらの元素に見られる血液中での分布の違いはK-42(半減期12.36時間)、Rb-86(半減期18.66日)、Cs-132(半減期6.48日)をトレーサーとしてヒトに経口摂取させた実験からも確かめられた。セシウムの血液中から身体組織への移行はカリウムやルビジウムに比べて遅いこと、図1.4に示すように、生物的半減期もルビジウムとセシウムの間で大きな違いがあることがヒューマンカウンタによる測定で観察されている。
Cs132の体内残留量

また、経口投与されたCs-132の全身分布は、図1.5に示すように投与後30分で主として胃の周辺に集まっているが、1日、2日と経過するに従い、肝臓、心臓、腎臓およびふくらはぎに相当する部分に放射のピークが現れ、約7日でほぼ全身に分布するようになる。
セシウムの全身分布

 体内に入ったセシウムは主に尿に、一部が糞便に、さらにごくわずかな分布が汗の中に排泄される。投与後のセシウムは、ごく短い生物的半減期で減少する部分長い生物的半減期で減少する部分とに区別することができる。

 日本人男子の場合、長い生物的半減期は約50~160日、平均85日である。もちろん個人差や人種による違いはあるが、平均値としてこの範囲に入る報告が多く、ICRP Publ.30では、セシウムに対する生物的半減期を110日としている。

 乳幼児についてセシウムの代謝を研究した例はあまり多くない。フォールアウト中に含まれるCs-137は地面に落ち、根から吸収されて牧草に入る。このCs-137で汚染された牧草を雌牛がたべることで、Cs-137はやがて牛乳中に出現し、Cs-137の含まれた粉乳を飲む乳児の体にCs-137が蓄積することになる。

この乳児の全身に含まれるCs-137の代謝について成人に対して知られている放射の摂取と全身に含まれる量、および生物的半減期との関係がそのまま乳児の場合にも成り立つと考え、乳児の全身中の放射と粉乳を飲んで1日に乳児の体に入るCs-137の量とから、乳児についてセシウムの生物的半減期が求められている。
乳幼児の生物的半減期は成人に比べて短く、新生児や乳児で約10日~25日である。また、9歳から15歳の子供では40~60日程度で、成長するにつれてしだいに成人の約110日に近付いていく。
子供は生物的半減期が人よりも短いが、体格からみて飲み物を食べる量が多いことや、発育の途上にあるために、被曝による影響は成人よりも大きい。
また、妊娠中は、生物的半減期が60%まで短くなることが知られている。筋肉の萎縮する病気である筋萎縮症にかかると、妊娠時と同じように生物学的半減期が短くなる。

 チェルノブイリ事故後1年間、ギリシアで102人の授乳婦から採取した母乳中のCs-137が測定されている。この平均汚染濃度は16.4Bq/ℓで、食品から母乳への移行係数も計算されている。またフォールアウト中のCs-137について観察した結果では、摂取した放射7%が最初の一週間に、10%が2週間までに母乳中に分泌されている。食事を通じて摂取する放射性セシウムの量と、体内の放射性セシウムの量との間に平衡が成り立っている場合、摂取したCs-137のうち43%が母乳中に分泌される。

年齢や性別によるセシウムの生物的半減期の変化を図1.6に示した。
セシウムの生物的半減期




 こちらも、大変勉強になりました。一部のみ引用。

 セシウム摂取直後は心・肝・腎臓に多く、その後、移動して10日ほどで臓器相互の保持率が一定化し、約80%が全身の筋肉7%が骨に分布することが知られている。これは臓器ごとにCs+の流入率や流出率が異なり、10日ほどで平衡状態に達するためである。

 骨格筋が多いほどCs+の滞留する場所が増えて排出も遅くなるので個人差は大きくなり、また女性よりも男性、子供より大人のほうが減少速度は遅い。臓器からCs+が流出しにくい理由は細胞にある。

 人体を構成する細胞が生存して活動する際には、細胞の中のNaとKの濃度を適切に保つ必要があり、細胞はこれらを吸収したり排出したりしている。細胞は油膜に包まれた小さな袋である。NaやKは油膜を通過できないので、細胞は油膜の中にゲートとなるタンパク質(ポンプ,チャンネルと呼ばれる)を埋め込んでイオンの出入りを制御している。セシウムの細胞内への吸収にはNa-Kポンプが、細胞内から外への排出にはKチャンネルが作用するとされる(図3*)。
 Na-Kポンプはエネルギーを使って、細胞の外のKを中に取り込むと同時にNaを外に汲みだす。その選別にはイオンの直径の相違(NaはKの70 ~ 80%)が利用される。Na-KポンプはKの1.2~1.3倍の直径をもつCs+を取り込むが、その効率は低く、Kの約0.25と見積もられている。
一方、Kチャンネルは細胞の中の過剰のKを細胞の外に流出させるためのトンネルであるが、イオン直径が大きくなると通過しづらくなり、Cs+の流出率はKの0.2~ 0.02以下とされている。
骨格筋の組織ではイオン代謝がさらに複雑化しているので、Cs+滞留率が著しく高まると予想されている。

* キャプチャー禁止のため原典をご覧ください。
【個人的メモ】「気ままに生物学」電気性理学 1.イオンの濃度


(一部のみ引用)

セシウムの体内動態モデル00

血中への取り込み:胃腸管吸収割合(f 1)値→ヒト及び動物実験のデータから,可溶性Csの胃腸管から血液中への吸収は急速であり,ほぼ完全に吸収される。一方,食物中のCsについては,吸収が必ずしも完全でないことを示すデータもある。しかし,情報が十分ではないため,モデルの胃腸管吸収割合(f1)値は,全ての年齢に対し1(100%)とする。
通過コンパートメント:血液
全身A:早いクリアランス→血中から数時間内に腎臓に排泄される結果
全身B:遅いクリアランス→筋肉や他の部位に蓄積されたセシウムが主に尿中に排泄される結果



4.参考

体内吸収率

「専門家が答える 暮らしの放射線Q&A」セシウムの生物学的半減期について教えてくださいから引用

 口から入り消化管に入った(摂取した)セシウムがすべて体内に吸収されるのではなく、水に溶けている場合は摂取した内の90%弱、トナカイ肉では50~90%、無機物に付着した状態(離脱し易い状態)では29~36%などと、セシウムの吸収率はその化学形に依存します。



人体中には放射性でない安定なセシウムCs-133が約6mgある

人体中のセシウム

 「専門家が答える 暮らしの放射線Q&A」セシウムの毒性について教えてください
 John Emsley,“Nature's Building Blocks:An A-Z Guide to the Elements,”Oxford University Press(2011): 山崎昶 訳,『元素の百科事典』,丸善(2003), pp.265-270

【細かなつぶやき】
 Cs-133が6mgは今問題にしている放射性セシウムに比べると大きな量です。放射性セシウムCs-137が人体中に500Bq*ある場合、重量(質量)では1.6×10-7mgですので、Cs-133は人体中にその約4000万倍あります。
* 500Bqは1960年代の最大値がその程度なので比較のために仮定した次第。
 このCs-133は何に由来するものでしょうか?
天然由来(セシウムは地殻中で多いほうから46番目の元素?)、核分裂生成物であるXe-133の崩壊でできたものか(過去の原発関連施設から?核実験?)、多分、前者かと。


つぶやき

 細かな点は文献によって違いがあるようですが、アウトラインを再確認できました。
 今までは、セシウムの生物的半減期は大人が110日とか筋肉に多いとか、の結果のみの把握でしたが、2項のような物質~組織レベルまでの説明で、なぜそうなるのか(そういう傾向があるのか)、生物的半減期は日本人男子で約85日、個人差が大きいことなどが理解できました。

 セシウムが特定の臓器に集まるとの主張もあるのは承知していますが、いずれも、専門家の間では否定的に捉えられているものと理解しています。


関連エントリー

★【後編】放射性セシウムの影響をカリウムK40を指標として評価する
★【前篇】放射性セシウムと放射性カリウムの人体影響は同じレベル(内部被ばく)

【個人的メモ】
★「六号通り診療所所長のブログ」2012/1/20 尿中セシウムの測定結果を考える
★「小波の京女日記」2012/06/03 放射性セシウムはどんなふうに体内に留まるのか
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[ 2012/12/04(火) ] 放射線の勉強・知識 | TB(0) | CM(0)

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