メインイメージ

 「鉄腕アトム」が原発をPRする冊子「アトムジャングルへ行く」(右)と「よみがえるジャングルの歌声」(左上)。左下は手塚治虫さんが原発について語ったインタビュー記事

 東京電力福島第1原発事故の後、インターネットの掲示板などに「鉄腕アトム」への批判的な意見が相次いだ。多くは「原発のイメージアップに加担しているのではないか」という書き込みだ。

 手塚治虫の長女るみ子(48)は不安に駆られ、何度も声を上げそうになったが、そのたびにファンが反論して"疑惑"を打ち消してくれた。

 おかげで今はそんな批判も、冷静に受け止められるようになった。「あらためて原作を読み、真意をくみ取るきっかけにしてほしい」

 有名なアトム誕生のエピソードからして「父の思いがよく出ている」とるみ子は言う。

 わが子を失った天馬博士が悲しみのあまり、息子そっくりのロボット、アトムをつくる。博士は最初は喜んでかわいがるが、成長しないアトムにいらだち、ついに追い出してしまう...。

 「幸福のためにあるはずの科学技術が、人のエゴや欲でゆがめられてしまう。アトムはいつもそのはざまで悩んでいるんです」

 手塚は1985年夏、東京・西新宿で開催した「手塚治虫漫画40年展」で1枚の風刺漫画を展示した。

 米国が行った核実験で被ばくした「第五福竜丸」が海に浮かんでいる。

 アトムに向かって「この原子力ロボットめ、死の灰を降らせるな!」と叫ぶ村人たち。涙を浮かべたアトムに、手塚はこうつぶやかせている。「ボクは正義の味方だと思っていたのになあ」

 「アドルフに告ぐ」「グリンゴ」など手塚は後年、社会派の作品を残した。時流に敏感な手塚が生きていたら、原発事故から着想を得て、シリアスな人間ドラマを描いたに違いない。

 「なのはな」「プルート夫人」など、福島の事故後、原発をテーマにした作品を次々に発表した漫画家の萩尾望都(63)は、「鉄腕アトム」が原発と関連づけて語られることにやるせなさを感じ、こんな「アトム最終話」のあらすじを考えた。

 原発の事故直後、アトム、コバルトの兄弟と妹ウランが一緒に、放射性物質の除染のために福島に向かう。3人は発電所内で除染を終えた後、壊れて動かなくなる...。

 「その物語を、いつか私に描かせてほしい。(福島の現状を見て)手塚先生は、きっと許してくださると思うんです」(大津薫、文中敬称略)

facebook

日本を創る 連載企画原発編 原発と国家

①原発と国家

第1部「安全幻影」
第2部「『立地』の迷路」
第3部「電力改革の攻防」
第4部「『電力』の覇権」
第5部「原子力の戦後史」
第6部「原子力マネー」
番外編・原子力の戦後史を聞く
第7部「原子力人脈」
第8部「漂流する原子力」
番外編・アトムの涙 手塚治虫が込めた思い

②復興への道

第1部「漂う人びと」
番外編・専門家に聞く
第2部「再建のハードル」
第3部「地方のスクラム」
第4部「海外の被災地」

③インタビュー

震災と文明
震災後論
海外の原発政策
震災後論②
震災後論③
震災後論④