韓国国防部(省に相当)の金寛鎮(キム・グァンジン)長官は14日の国会国防委員会国政監査で、北朝鮮の核ミサイルへの対応について「多層防衛の手段を研究して対応したい」と発言した。「多層防衛」とはミサイルが最終的に着弾する段階だけでなく、それ以前の飛行中の段階でも迎撃するという意味だ。ただしこれには、これまで以上に遠くまで探知可能なレーダーと、より遠くまで飛ぶ迎撃ミサイルが必要なため、数兆ウォン(数千億円)の予算が追加で必要という意味合いにもなる。
韓国政府はこれまで、韓国型ミサイル防衛(KAMD)により北朝鮮の核兵器を無力化できると考えてきた。KAMDは飛来する北朝鮮の核ミサイルを落下直前の段階でPAC3ミサイルによって迎撃するものだ。ただしこれについては当初から「音速の数倍の速さで落下する弾道ミサイルを、最終落下段階で迎撃するのは難しい」などの指摘が出ていた。
しかし韓国政府はこれまでの方針を変えず、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領は今月1日の「国軍の日(韓国軍創設記念日)」の演説で「KAMDによって北朝鮮の核兵器を無力化する」と明言した。ところが15日、ある韓国政府関係者は「KAMDだけで北朝鮮の核兵器に対応するのは根本的に限界がある」と述べた。最初から駄目なものを無理に「できる」と主張し、後から駄目だと言えば信頼を失う。また米国が戦時作戦統制権移管の再延期に応じる代わりに、韓国が米国主導のミサイル防衛(MD)体制に入るという話もある。いずれにしても安全保障の基本方針についての議論が、このような形で進められるのは望ましいことではない。
北朝鮮の核ミサイルに対する備えを多層防衛に拡大すれば、米国主導のMD体制に取り込まれるとの見方はどうしても出てくる。なぜなら多層防衛というのは最初から米国によるミサイル監視体制と連動しているからだ。中国は韓半島(朝鮮半島)に米国の高性能Xバンドレーダーが配備されるのを恐れている。このレーダーは北朝鮮だけでなく、渤海湾周辺にある中国のミサイルの動きも把握できるからだ。
しかし、たとえ中国が反発したとしても、わが国の防衛に必要であれば、導入を進めるのは当然のことだ。つまり北朝鮮の核兵器が韓国に対して多層防衛を検討させる形になったのだ。また韓半島へのミサイル防衛体制導入を検討するに至ったのはあくまで北朝鮮の核に対応するためであり、この事情については中国にはっきりと説明し、理解を求めねばならない。また国民にもMDと戦時作戦統制権移管との関係について率直に説明すべき時を迎えている。