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著者インタビュー

更新日
2013年05月15日
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自治・分権再考―地方自治を志す人たちへ/西尾 勝 〔編集協力 自治体学会〕

著者:西尾勝

聞き手:月刊 ガバナンス 編集部

<執筆者プロフィール>

にしお・まさる/1938年生まれ。東京大学法学部教授、同学部長、国際基督教大学教授を経て2006年から.東京市政調査会〔現(公財)後藤・安田記念東京都市研究所〕理事長。専門は行政学・地方自治論。地方分権推進委員会委員、第27・第28地方制度調査会委員、地方分権改革推進委員会委員(委員長代理)などを歴任し、現在第30次地方制度調査会会長。主著に『権力と参加』『行政学』『未完の分権改革』『地方分権改革』など。

インタビュー記事

「自治の情熱を次の世代に伝えたい」

 急速に進む少子・高齢化による地域課題の高度化や複雑化、人員・給与の削減、公務員バッシングなど自治体を取り巻く環境は激変し、職場には疲弊感が漂う。一方、次代を担う若者にとっての自治体職員像は「安定した職業」としてしか映らず、職員として何をしたいのか、その将来像が描けない――。
 かつて自治の夢や理想を追い求め、全国から2000人が集った自治体学会。その自治体学会も、いまでは会員は1400人ほどになり、50歳以上が6割を超えている。そこから読み取れるのは、「自治の夢や理想が若い世代に引き継がれていないのではないか」という一つの反省だった。
 全国4か所で行われた西尾勝さんの連続講義「自治・分権再考.地方自治を志す人たちへ.」をまとめた本書は、そんな想いから生まれた。講義は、2012年7月の奈良県桜井市を皮切りに、松江市、宮城県富谷町、福井市で実施。2時間、5コマの10時間にわたる充実したもの。沖縄から北海道まで400人が参加し、各地の最後のコマではその地域にまつわるテーマを扱った。
 今回の連続講義のきっかけは、自治体学会代表運営委員である中島興世さんからの依頼だった。
 中島さんは北海道恵庭市役所入庁後、職場の閉塞感を打破するため自主研究グループを組織。そこで、かつて感銘を受けた西尾さんの自治への情熱を仲間と共有したいと「恵庭まちづくりセミナー」を開催した。この体験が中島さんの職員として原動力となった。
 「西尾先生の自治についての考えを学ぶ機会をつくり、自治の夢や情熱を次の世代に伝えたいと強く願った」という。
 連続講義の各地の印象を西尾さんはこう振り返る。
「2泊3日で実施したところではかなり活発に質問が出てきた。質問が集中したところは、第1講など原理・原則の部分。また、聴衆の関心も高かったのでしょう。第3講目の分権改革では、その流れを私がどのように見ているのかと随分質問がありました。第5講以降は、4会場それぞれ違うテーマを扱い、道州制構想や大都市制度再編構想、東日本大震災、原発問題などをかなり詳しく話した」
 ただ、「市民参加の武蔵野方式の話や長期計画、地域生活環境指標については質問が少なかった。自治体職員は、市民自治からは関心が移っているのではないか。私はそこに戻ってくれと言いたいのですけれどね」と少し残念そうな表情を見せる。
「西尾さんにとっての自治の原点は?」と問うと、「武蔵野での経験」と即座に答えが返ってきた。
 武蔵野では、1971年に策定した第一期長期計画(=総合計画)以来、有識者を含め全て市内在住の市民委員による策定委員会を中心とした市民参加・議員参加・職員参加による「武蔵野方式」を採用。また、個別計画との整合性を重視し、公募市民の市民委員会など広範な市民参加機会の設定といった試みも取り入れている。
「私は、武蔵野で市民自治の実践に携わって20年間を過ごし、50代の前半は大学行政に専念していた。50代後半から今日までの20年間、国の分権改革に関わり続けたが、市民自治の実践が一番楽しかった。武蔵野市民や市長、議員、職員、みんなが私を鍛えてくれた。その経験がなければ分権改革の仕事も務まらなかった。正直にそう思う」と語る。

「西尾私案」の真意

そんな西尾さんは、いまの分権改革の状況をどのように捉えているのか。
「明治以降、国の仕事を引き受けさせられてきたのが日本の自治体。それ以降、国民健康保険、国民年金制度などの事務の一端は市町村が担い、今度は介護保険。どんどん増える一方だった。それが、まともな自治体だという考え方が染み付いているのではないか。そうではなく、何も政府に頼まれていない状態がもともとの自治ではないかと『西尾私案』でも言っているのです。出先機関の原則廃止の経緯について、出発点はハローワークと地方労働局だったが、私が全面的な地方移管に反対した経緯を講演で比較的詳しく話したら『そういうことだったのか』と反響があった。政権交代後、分権改革が動かないことがはっきりしているので、私案の真意をそろそろ言わせてもらおうと発言し始めている。私自身の『再考』としても講演で語ってしまおうと」と話す。
 終講の辞(あとがき)で述べる「西尾私案」の真意に目を開かれる読者は多いのではないか。
「これまでの分権改革の成果を職員は活かすべきだ」と西尾さんは強調する。地域課題が複雑化していくなかで、自治体職員にはどのような姿勢が求められるのか。
「『自治は住民のため』ということに尽きるのではないか。住民と頻繁におしゃべりできる職員でなければ良い職員になれっこない。机に座っていたんじゃダメなんだ。その意味で、自治体職員が持つべき誇りは『公共感覚』。市内の何町何丁目何番地といったらあの辺と具体的にイメージできるくらいでないといけない。まちの状況が分かり、『あの人はこういうことを言っていて、あの人はこうで』と分かっていることが自治体職員の資質。また、これからのまちづくりを考える上で重要なのは、地域に育ち始めている提案型NPOとのコミュニケーション能力。自発的に生まれる彼らを役所が育てようと考えてはいけない。長期的に見ると、日本社会の土台を変えるのは彼らだろう。その人たちと自治体職員の間に、全部とは言わないけれども、意気投合する部分が出てくると本物になってくるのではないか」(平)

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