2013年10月17日

傳左衛門日記 10月11日

今月は国立劇場、染五郎丈の「鏡獅子」。
「食べたものが出る」という喩えが有るが、幼少から厳しく仕込まれているだけあって、金太郎君の胡蝶が品も行儀も良い。楽屋での挨拶からして、やはり違う。
世襲は環境である。血統が有ってもちゃんと鍛えられなければ只の駄馬。
さて、八月から三ヶ月連続の獅子物であるが、よく曲中の「露の拍子」について、御覧になられた方々から楽屋口や道端でお声掛け頂き、ご質問ご評価を頂くので、回答まとめて。
あそこは古来、調べの音をさせなくてはならないところでは無いし、弱音でも無い。
或時、松竹座のこけら落とし辺りか、静寂の中の調べの音が更に静寂を喚ぶ感覚に襲われ、間を溜めて強い弱音を響かせる遣り方でやった時、中村屋に「あのイキとあのポンだ!今までずっと鏡獅子やってきたけど、初めて露の意味が解った!誰が何と言おうと今後はあれで!」と、自分で申すは気恥ずかしいが、ベタ誉め。
と同時に大きな課題。
鼓は気候、劇場の空調、音響等に影響され、ともすれば偶然の産物と言えるのを百発百中にしなければならない。
丈の「千万人と言えども我往かん」のあの闘志が乗り移り、精度を上げる練習。弱音は強音の十倍以上の、まさに寿命を削るような集中力と腕力を要しつつ、軽く打っているように見せなければならない。
私の遣り方は、先達には非常識と言われるかもしれないが、様々試行しつつ、平成25年現在は斯様な感じ、というのが回答である。
去年の勘九郎襲名で「鏡獅子」を野田秀樹さんと御覧になられたキャサリン・ハンターさんが開口一番「あそこは深い山の中の、花に水気が集まって垂れる音ね!」と、何の予備知識も解説も無く感想を仰っていたので、取り敢えず意図した通り伝わるようにはなってきたか。
それにしても現在は染五郎さん海老蔵さん猿之助さん、勿論勘九郎さん兄弟に菊之助さんと、「鏡獅子」を踊る技術と資格を持つ役者さんが大勢居る。
中村屋から頂戴した遺産を発揮する機会を多く頂くのは、本当に有難いことである。
こんなに早く「遺産」になると思わなかったが。

2013年10月15日

出演情報

■監修:田中傳左衛門、講師:田中傳次郎

神奈川芸術劇場にて昨年ご好評を頂きました、
古典芸能ワークショップ「おはなしに音をつけよう」。
今年はおとなクラスも増えました。
毎回、定員は15名様となります。

古典芸能ワークショップ
おはなしに音をつけよう-囃子方のしごと-
11月17日
http://www.kaat.jp/detail?id=32291#.Ul0oo1AvmkE
11月24日
http://www.kaat.jp/detail?id=32292#.Ul0pXVAvmkE

2013年10月13日

出演情報

田中傳次郎が、三味線プレイヤー・上妻宏光さんのライブに出演させていただくことが決定いたしました。

■田中傳次郎

上妻宏光 日本流伝心祭 クサビ-楔- 其ノ参
-国境を越え、進化する日本の表現者たち-

日時:2014年3月22日(土) 18:30開場/19:00開演
会場:渋谷公会堂

チケット:全席指定¥6,300(税込)※未就学児童入場不可
一般発売日:9月28日(土)10:00より

出演:
上妻 宏光<三味線プレイヤー>
日野皓正
林 英哲<太鼓奏者>
小野リサ<ボサノヴァシンガー>
田中傳次郎<歌舞伎囃子方>
上間綾乃<シンガー>

お問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799


≪上妻宏光 日本流伝心祭 クサビ -楔- オフィシャルサイト http://kusabi.org/

2013年09月25日

傳左衛門日記 9月22日

巡業、八千代座。
朝大分を出発し、バスにて九州横断する事三時間余、一路山鹿を目指す。
空は蒼く、山の緑は美しく、棚田には黄金色の稲穂が輝く。
八千代座は久しぶり、玉三郎丈の舞踊公演で度々出演させて頂いた。
常は都会暮らし以外考えられないのだが、山鹿は別格。心の中では殆んど第三の故郷である。
八千代座着、久々に再会する街の方々も人情溢れる。直ぐに街歩き。常宿に行くも女将不在、取り敢えず日帰り入浴する。
新しい店も増え、街も多少活気を帯びてきている。
街道筋の喫茶店でルーシー・リーを素朴にしたような御飯茶碗を発見。日田公演の時は共杖共白髪、相撲中継に熱中する素朴な老夫婦の営む店で、素朴な小鹿田焼を購入した。
各地の寺社や民陶を見るのも、巡業の空き時間の楽しみである。
明日八千代座公演後、帰京。25日川口で千穐楽を迎える。
充実した巡業であった。

2013年09月18日

傳左衛門日記 9月14日

巡業、松山。
昨日は岡山から赤穂に移動、公演し、終演後再び岡山で乗り換え、暗闇の瀬戸内海を渡り三時間、松山に移動。
列車内でロンドンでのレ・ミゼラブル25周年コンサートの映像を観る。
近頃国内外問わず、質の高い舞台を観に行く時間が無い。ジェニー・ギャロウェイやレア・サロンガ、アンコールに出たマイケル・ボール等の名優、何より作品の力で時間を忘れる。
だが移動疲れは正直、今朝から咳止まらず。ホテル近くの薬局に行こうと隣の三越を通り抜けんとすると、江戸文字の看板、平成中村座でお馴染み橘右之吉さんが実演中。誠にご縁。
昼夜公演の合間に、当地の名店「きよみず」に注文の弁当を取りに伺う。
父の行き付け、予て名は耳にし、実家の正月のおせちで眼も舌も知っているが、訪うは初。今宵遇う人皆美しき、とは云わぬが浮き足立つ。
楽屋弁当では有り得ぬ素晴らしさ、次回は必ず店で落ち着きたい。

2013年09月12日

傳左衛門日記 9月7日

昨夕、岡山からよく揺れる特急で三時間、玉三郎丈の「日本振袖始」は幾度も演奏させて頂いているが、実際に出雲を訪うは初めて。
翌朝出雲大社参詣。
この辺りは「弁当忘れても傘を忘るな」という程に天気が変わりやすいとのことだが、出雲は自然災害が余り無いとのこと。
まこと神域である。
縁結びを願う若い女性の参拝者が多い。
縁結びといっても、何も男女の恋仲のみならず。我も仕事等様々な方々との良縁を祈願し、また感謝する。
米も蕎麦も美味しく、人も素晴らしく、幾度も再訪すべき、素晴らしい神域である。
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2013年09月11日

傳左衛門日記 9月5日

巡業、神戸。
旅の楽しみは食事と思うが、同時に不安でもある。
生来父親譲りの腹の弱さ、芸を譲ってくれれば良いものを。どうしても無難なもの、或いは一度訪れて外さなかった処のみとなる。
昼夜公演の合間、南京街、以前三響會のツアーで猿之助丈にお連れ頂いた中華料理に向かう。店内には最早遠い昔のような「市川亀治郎」のサイン。
安心して腹拵えをする。