台風26号:「まるで津波」絶句する大島住民
毎日新聞 2013年10月16日 21時53分(最終更新 10月16日 23時58分)
「まるで津波。東日本大震災の被災地のようだ」。元町地区のそばで暮らす杉本糸子さん(80)は、被災現場を見て絶句した。行方不明となった元町地区の「植松商店」店主、植松正さんの親類で、この日は午後から地元消防団の捜索作業を見守った。「こんなにひどい山崩れは見たことがない。早く見つかってほしい」とつぶやいた。【神保圭作、竹内良和】
◇ごう音の直後、膝まで真っ黒な土砂が
元町地区のホテル「椿園」1階の4人部屋にいた建設作業員の男性(68)=茨城県坂東市=は午前3時前、ラジオで台風情報を聴いていた。台風の影響で作業の中止が決定。各地で避難指示が出ていたが、伊豆大島は出ていなかったため、「それほど心配していなかった」という。
突然電灯が点滅を始め「おかしいな」と思ったのもつかの間、雷の落ちたようなごう音が鳴り響く。同時に真っ黒な土砂が床からはい上がり、あっという間に膝の辺りまで上昇した。男性は危険を察して、廊下に出ようとしたが、ドアが開かない。
携帯電話の明かりを頼りに同室の3人を起こした。室内を確認すると、押し入れの床から「プシュー」と黒い液体が噴き出している。「逃げ道は窓しかない」。男性はガラス戸をやっとの思いで少し引き、網戸を蹴破った。すると、室内の土砂が一気に外に流れ出て、一人が出られるだけの隙間(すきま)ができた。
4人は無我夢中で屋外に脱出。真っ暗な外に出ると、2階から嵐の音にかき消されながら途切れ途切れに、「上へ」という声が聞こえ、シーツが下りてきた。しかし、シーツは雨水でぬれていてうまくつかめない。クーラーの室外機に上がり、差し伸べられた両手をつかんでひっぱり上げてもらったという。真っ暗な中で互いに姿を確認すると、皆、下着姿。わずか10分の出来事だった。男性は「九死に一生を得た。言葉で言い表せないほど、怖かった」と語った。
山の中腹にある砂防ダムの近くに住む笹本光敏さん(76)は「停電でおかしいと思って、明け方に窓を開けてみたら、びっくりした」。自宅の外壁は、なぎ倒され、敷地内に大量の土砂と木が流れ込んでいた。山はえぐられ茶色い肌をさらしていた。
台風の夜は、雨戸などを閉め切るため、風の音しか聞こえなかった。笹本さんは「この辺は三原山の火山灰がたまって、できたような場所だ。表土が薄く、大きな木でも根を張れずに、すぐに倒れてしまう」と話す。