社説:靖国と首相 参拝見送りは妥当だ
毎日新聞 2013年10月18日 02時30分
安倍晋三首相は、靖国神社の秋季例大祭に合わせた参拝を見送り、供え物の真榊(まさかき)を神社に奉納した。最近の中国、韓国との外交関係悪化の一因が、安倍首相の歴史認識にあることを考えれば、参拝見送りは妥当な判断だ。首相は今後も見送りを継続し、靖国問題の抜本解決に取り組んでほしい。
誰もがわだかまりなく戦没者を慰霊できるようにしたいとの思いは、私たちも共有する。だが、靖国は単に戦没者を祭った神社ではない。
靖国神社は1978年に東条英機元首相らA級戦犯14人を合祀(ごうし)した。A級戦犯は、第二次大戦後の極東国際軍事裁判(東京裁判)で、侵略戦争を行った「平和に対する罪」で有罪になった日本の政治・軍事指導者だ。靖国が合祀した背景には、東京裁判を否定する思惑があったことが、関係者の証言などから明らかになっている。
こうした神社への首相参拝は、中国からは「侵略戦争の肯定」と見なされ、米国からは日本が東京裁判を受諾したサンフランシスコ講和条約とそれに基づく米国主導の戦後体制への挑戦と受け取られかねない。
72年の日中国交正常化で、中国は日本に対する戦争賠償の請求を放棄したが、その前提には、戦争責任は日本の一部の軍国主義者にあり、一般の日本国民と区別するという考え方があった。そういう日中関係の経緯も踏まえる必要がある。
だが、首相はかねて、前回の首相在任中に靖国に参拝しなかったことを「痛恨の極み」と語っている。今回は中韓との関係改善や、両国との関係改善を求める米国の意向に配慮して、参拝を見送ったのだろうが、状況が許せば首相在任中になお参拝を模索すると見られている。
春と秋の例大祭や終戦記念日に首相が靖国を参拝するかどうかで国論を二分する騒ぎは、終わりにすべきだ。安倍首相が長期政権を目指すというのなら、A級戦犯の分祀や国立追悼施設の建設案など抜本的な解決策を真剣に検討してもらいたい。
また今回の参拝見送りを、中韓両国との関係改善にぜひ生かしたい。
首相は両国との首脳会談が一度も実現していないことについて「対話のドアは常にオープンだ」と語る。その一方で、訪米中の講演では「私を右翼の軍国主義者と呼びたいのであればどうぞ」と開き直るような発言をした。これでは両国から関係改善の意思を疑われても仕方ない。
中韓両国にも参拝見送りを前向きに受け止めるよう求めたい。靖国問題を利用してナショナリズムをあおるような言動は慎むべきだ。お互いに大局を見すえ、関係を再構築してもらいたい。