プロローグ  真っ黒に染まった空の下。何もないだだっぴろい空地のような場所の中心地で青い瞳の少年は黙って俯き考える。  周りには男たちが倒れており、足元には少女が横たわっている。先ほどまでは壁があったはず、と少年は心の中で言った。事実、空地は所々壁の名残のような瓦礫がそこらじゅうに転がっていた。  なぜこうなったのか……と少年はほとほと困ったような声でそう呟く。その時、少年の頭に奇妙な声が響く。 (おい。どうしようか迷ってんだろ? 俺と代れよ) 「絶対嫌だ。お前のせいでこうなったんだろ?」  少年は、妙に高い女とも幼児とも取れる声に対して少年は呆れたように答える。 (契約通りにてめぇの彼女を助けてやっただろ) (だからってやり過ぎだこの野郎。ていうか誰が彼女じゃい!?) (へ? 違うの? まぁいいや。さっさとそいつ回収しろよ)  煩わしそうに分かってるよ、と脳内で響く声に少年は告げて足元の少女を抱き上げようとした。  その時、倒れていた男の一人が立ち上がった。怪我をしているようで、ゆっくりとしていたが少年は気づかなかった。  男は徐に懐からナイフを取り出すと、大きく振り上げ一歩踏み出す。少年の後ろにこっそりと近づき、怒りに顔を歪ませながらナイフをさらに高く上げる。そして少年の真後ろに立った途端、そのナイフを振り下ろした。  しかし、唐突に少年の肩から液体とも、固体ともとれる巨大な腕が生えた。それは肉眼でとらえられるかどうかというものすごいスピードで振るわれ、男の手からナイフを叩き落とす。  怒りに歪んだ男の顔がふいに少年に恐怖を抱いた表情となる。すぐに逃げようとする男。しかし、少年は間髪入れず、再び腕を振るった。  その巨大な腕は命中し、男は壁に叩きつけられた。 「……おい。危ねーじゃねーか」  少年はそういうと少女を抱えなおして男の方を向く。  その少年の目は、真紅に変わっていた。 「俺様を背後から攻撃するなんざ、度胸があるじゃねーか。よほど真っ二つになりたいようだなぁ」  少年はそういうと腕を再び構える。爪の如く伸びる指が鋭くギラリと輝いた。 「……頼む……やめてくれぇ……」  男は虫の息で呟いた。それを少年はさも愉快そうに見つめる。そして、たった一言。残酷な死刑宣告を言い放った。 「やーだ」  少年は巨大な腕を男に向かって振り下ろした